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靴作りの道具#5『ワニ』

今回は、靴作りで使用している『ワニ』について述べたいと思います。

ワニとは?

靴作りで吊り込みと呼ばれる工程に使用する靴専用の道具で、ピンサーとも呼んだりします。

様々な形状のワニ

機能は二つあり、一つは先端にある動物の口のように開閉する部分(以下、口)でアッパーの革を掴み、引っ張りシワを伸ばすことです。
もう一つは丸もしくは四角い突起部分で吊り込み用の釘※を打ち込むことです。

革を確実に掴み離さないよう、口部分には凹凸のあるギザが付いてあり、口部分の幅が約5mm~15mmのサイズ展開があります。

ワニの口部分の幅を比較

また、革を引く際に突起部分はテコの役割をも果たすため、滑り止めの凹凸があるものもあります。

滑り止めの凹凸

ワニの形状は、主に製造されている国によって少し異なりますが、元祖はスエーデンのerik anton berg (e.a.berg)社のワニだとされています。

erik anton berg (e.a.berg)社のワニ

他にも、ドイツのschein、MINKEやイギリスのGEORGE BARNSLEY AND SONS(GEO .BARNSLEY&SONS)、イタリアのteknoなどが有名です。

使用用途

アッパーを成形する作業である吊り込みで使用します。
この作業は複雑で、目的として主に縫い合わされたアッパーに木型の形状と同様の曲線を与えることにあります。

縫製を終えたアッパー
吊り込みを終え、アッパーが木型に沿った状態

また、トウキャップとヒール部分については、吊り込みの際にひだが生じるため、そのひだを伸ばすように吊り込む必要があります。
この時、口部分の幅が小さいものを使用することでひだを細かくまとめながら吊り込むことが可能です。

使用方法

ワニを使用する主な動作は、革を掴む→引く→離してすぐに釘で固定します。(吊り込みの工程は、これらの繰り返しです。)
持ち手部分の開閉によって口部分も開閉します。
そうすることで、革を掴む・離すといった動作が可能です。

持ち手部分を開いた状態→口部分が開く
持ち手部分を閉じた状態→口部分が閉じる

突起部分は、木型の底面に沿わせた中底に押し当て支点を作ることにより、テコの原理が働くことで最小限の力で革を引くことができます。

突起部分を支点に革を引く様子

また、引いた革を固定するための吊り込み用の釘を打ち込むこともできます。

突起部分で釘を打ち込む様子

note : 村上紀之

※吊り込み用の釘について
著者ラズロ・ヴァーシュの『Handmade SHOES FOR MEN』によると、適正な長さは25mmで直径は1.2~1.4mmぐらいとあります。

25mmの吊り込み用の釘

実際、吊り込み用の釘は、表革と裏革、芯材革、中底革を含む約10mm前後の厚みを経て木型に到達するため、25mmくらいの長さは必要であると考えられます。

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