100カノ二次創作 花園羽香里 & 院田唐音

※注意 バッドエンド確定

『君のことが大大大大大好きな100人の彼女』の二次創作です。
恋太郎くんの運命の人として祝福(呪い?) されたものの、恋太郎くんが存在しないために結ばれることが無い世界線です。
『なんやかんや不幸になって死ぬ』ストーリーが気になってしまったので書き始めました。
とりあえず1節書けたので投稿してみます。
後日書き足すのか、別記事として続きを投稿するのか、それとも半ばで力尽きるのかはわかりませんが。
興味があれば御覧ください。

エピソード1&2 花園羽香里・院田唐音


?????

 唐音さんへ

 顔を合わせると "あなたのせいで" 私まで素直に喋れなくなるので、手紙を書きます。
 恥ずかしいので読み終わったらすぐに捨ててくださいね! あなたのゴリラみたいな力ならこんな紙切れ一瞬で粉々でしょう?(笑)
 だからって、全部読み終わってからですよ? 頭の中までゴリラでもない限りはこんな大切そうな手紙を全部読まずに破いたりしないとは思いますけど。

 もう、"あなたのせいで" 手紙でまでケンカ売っちゃいそうになるじゃないですか。誰に対してもふわふわにこにこ天使な私がケンカ腰だなんて "あなたの影響" 以外あり得ませんからね。
 それくらい、高校で知り合ってから今まで楽しい時も辛い時も一番多くの時間をあなたと過ごしてきました。
 きっとこれからもそうなのでしょう。だって私と唐音さんがこれから別々に生きていくことなんて想像ができません。
 私が結婚してもきっと家族と一緒に唐音さんと過ごすんだって思います。
 逆は……無いですね。唐音さんが私より先に結婚どころか彼氏だってできるわけないんですから(笑)
 
 こほん。(←話題を戻すための咳払いです)
 高校時代のこと、覚えてますか? 私が初めてあなたに助けてもらった時のことです。あなたにとってはたくさんの人助けの中の一つかもしれませんが、私にとってあの時のあなたは誰よりも頼もしく素敵に見えました。あの頃は私もまだ子どもで強がって平気なふりをしていましたが、内心は怖くて怖くてすぐにでも泣いてしまいそうでした。
 バカな子どもだった私と本気で、対等に話してくれたのはあなただけでした。それだけじゃありません。私の家でお母様と言い合った時、私を連れ出して一緒に住むと言ってくれた時、小さいことも入れるともっともっとたくさん、あなたに救われてきました。
 あなたに何かを返せないかといつも機を窺っていますが結局返す以上の何かを貰ってしまいます。あなたが笑うと私まで嬉しくなって、楽しくなって、あげた以上に私の中が温かいもので満たされていくんです。
 だからもうこうなったら意地です。あなたへの恩を返し切るまでは一生離れてなんてあげないんですから。
 それまで彼氏だのなんだの作る暇なんてあげませんよ! 覚悟して付き合ってくださいね! そんじょそこらの男じゃ満足できないくらい私があなたを満たすんですから! "あなたのせいで" 私までお一人様になりそうです。
 そういうことなのでこれからもよろしくお願いします。

 私の大大大大大切な人。唐音さんへ(←ここ重要なので強調しときます)

 花園羽香里より

 P.S. ほら、もう破いてください! 隠滅してください! 私が封の開いたこの手紙を見つけたら怒りますからね! 絶対ですよ!

・高校

 彼女との出会いは無難だったと思う。
 当たり障りなく挨拶して、なんとなく住む世界が違うなって思って少し線を引いて。

 そんな彼女と真っ向から敵対して、その結果他の誰よりも仲良くなるなんてまったくもって想定外でもあった。

唐音-1

「花園さんって "あの" 花園さんなんだって」
 高校に入学して少しして、なんとなく属するグループが形になってきた頃、花園羽香里に関する噂話が聞こえてくるようになった。
 曰く『花園羽香里は大企業の花園グループオーナーの一人娘である』『彼女の家は巨大でたくさんの黒服やメイドが常駐している』『家の塀が高くて刑務所みたい』『家の2階に見晴らしの良い部屋があり、ワイン片手に"下々の者"を見下ろしている』とか。憧れなんだか妬みなんだか解像度の低い金持ちのイメージなんだかよくわからない情報がまことしやかに囁かれている。
 バカバカしい。と、私は思う。家がどうだろうが金持ちだろうが貧乏だろうが、本人がどういう人間なのかが重要だ。少なくとも馬鹿みたいな噂を嬉々として話題にする人間よりは花園羽香里は面白そうな人間ではある。
 ……仲良くできるとは思えないが。
 花園羽香里はか弱くほどほどに世間知らずなお嬢様……のように見えるがもっとなんというか、したたかなものを感じる。
 具体的にどうとは説明できないのだが、私の勘だ。面白そうではあるがなんとなくいけ好かない。
 向こうもそんな私の気持ちを察するのか、どうも他のクラスメイト達と私とでは態度が違うような気がする。
 いかにもしとやかで人当たりの良い花園羽香里はあれよあれよというまに男子たちの『姫』になり、他の女子との壁が決定的になってしまった。
 女子たちの羨望や憧れの『花園羽香里』は妬みと憎悪の『花園羽香里』に移り変わる。
 あの頃私のクラスは男子と女子の真っ二つに分かれていた。一部にはそんな対立に関与しないクラスメイトも居たがごく少数だ。
 私もその内の一人だったはずなのだが……

 きっかけはとても些細なことだったのだと思う。そうなってしまった後のことはいくらでも思い出せるけど始まりというのはピンとこない。
 私……院田唐音と花園羽香里は敵対した。
 正確には花園羽香里を取り巻く男子グループとそれが気に食わない女子グループのケンカの神輿として担がれてしまったというのが正しいと思う。
 生来の気質で女の子らしく振る舞うのが苦手な私の言動が女子的に頼もしく映ったらしく矢面に立たされた形だ。まったくもって下らないし私とは何の関係も無いし男子の敵意を受ける役目なんてまっぴらゴメンだっt……
「院田は花園さんと比べて女子らしさが足りないんだよぉ!」
 ある時、胸元に手をやり前方に半円を描くようなジェスチャーをする男子を前に、私は叫んだ。
 戦争だテメエァッ!!!!

 それからしばらくの記憶が無い。
 気付いたら私は女子グループ禍羅煉(からね)連合リーダーとか呼ばれていた。字面的にも立場的にもあんまりだと思った。

 あの頃、先頭に立たされていた私とは逆に花園羽香里は男子の後ろで困ったように笑っていたような気がする。半ばヤケクソになっていた私は彼女がどんな人間だとかまで考えていなかったので今考えるとそうだったんじゃないかと思うだけだが。
 対立が始まって1ヶ月くらいだっただろうか。ある日男子と女子の戦いに疲れた私は一人になりたくて屋上前の踊り場を訪れた。ただ人気のない行き止まりだったはずのそこで……私は普段施錠されているはずの屋上へのドアが半開きになっていたのに気付いた。学校の屋上と言えば青春憧れスポットの一つ! あまり迷わず、私は好奇心全開で屋上へのドアをくぐった。
 殺風景な灰色の地面と腰くらいまでの高さの柵に囲われた空間を包み込むように少しだけ赤くなりつつある空が広がっている。玩具みたいに小さな遠くの町並みがよく見えた。
 もっと背丈より高い金網とかを想像していたが思った以上にゆるい。屋上からの落下など想定していないのか、普段施錠して使えなくしているからなのか。
 そんな場所に先客が一人。向こうは私に気付いていない。
「アンタ一人なのね。取り巻きの男共はどうしたの?」
 苦手な相手が居たからといって、せっかく入れた屋上から引き返すのはくやしかったので先に声をかけてやった。
 柵に手をかけて物憂げな表情でどこかを見下ろしていた彼女に。
「院田さんこそ、連合のお仲間は居ないんですか? てっきり私が一人のタイミングで闇討ちでもしに来たのかと思いました」
「連合呼びはやめて。私が始めたわけじゃないんだから!」
 こちらを見もせずに発せられた、なんかチクチクする言い方に語気が強くなってしまう。
「解ってますよ。皆に担がれてしまって断れなくなった損で不器用な性格の院田さん」
 大して他人に興味無さそうなくせに私の現状を理解してくれてる……と気付いてしまい私の悪いクセが出る。
「べ、別に断れないわけじゃなくてあんたが気に食わないだけなんだからね!」
「……好意的に解釈してあげたのにそう言われるとそれはそれで傷付きますね」
 花園羽香里は少しだけこちらを向いてそう言うと、先程とまったく変わらない表情で屋上の外へ向き直った。
 私はいつもそうだ。嬉しくなったり照れたりすると不必要に相手に攻撃的な言葉を言ってしまう。
 だがそれに対する彼女の反応が私には意外だった。こういう時彼女は魅力的な笑みを浮かべながら当たり障りなく流して離れていくイメージだったからだ。
「アンタいつもとキャラ違わない? もっとこう……にこにこしながら人から好かれそうなことばっかり言ってるイメージだったけど」
「……そうですねぇ。そういう態度を取ったら院田さんは私のこと好きになりますか?」
 教室では決して見せない、少しいたずらっぽい笑顔を浮かべて私を流し見る彼女に少し動揺してしまう。
 その顔が普段の笑顔とのギャップなのか、夕方の屋上というシチュエーションだからかとても綺麗に見えた。
 いや、確かに彼女はとても綺麗な顔をしているけどそれは芸能人を見てかわいいとか綺麗とか思う感想であって、決して私がそういう趣味というわけでは断じて無い。
 薄く、人気者の優等生なら見逃してもらえる程度に引かれたリップで輝く唇が動くと、そこから目が離せなくな……
「はっ、バッ! バカじゃないの、私はそっちの趣味は無いんだからね!!!!」
「ど、どうしたんですか。そんな強く否定すると本当みたいですよ?」
「ちちちちっち違うし! そんなことないし! アンタのことなんて嫌いだし!」
 なんだかテンパって小学生みたいな言葉しか出てこない。
 実際、苦手なのは確かなのだけれど。
「ふふっ、院田さんこそ教室とイメージ違いますよ。
 もっと……どっしりと構えた男らしい印象でしたけど」
「どっしりとかしてないし! 私は女だよっ!!!!」
 くすくす笑いながら(たぶん)私が否定したくなる言葉を選んで語りかけてくる花園羽香里はとても楽しそうだった。
 完全に遊ばれている。
「ねぇ院田さん、私と『お友達』になってくれませんか?」
 不意に投げかけられた言葉に……だけど私は花園羽香里がそう言うような気はしていた。
「なんであんたと友達になるのよ。そんな感じじゃないでしょ、私たち」
「なんで……だって仲良くなれそうなんですもん、私たち」
 花園羽香里は続ける。
「それに私たちが『お友達』になればクラスの対立も……せめてコントロールはできるようになると思いませんか?」
 握手を求めてこちらに伸ばされた手を眺める。そうだ、これだ。私が花園羽香里に感じていたしたたかさは。
 私と彼女が裏で『お友達』として手を組んでお互いのグループに働きかければ、何かのきっかけでエスカレートしてしまいそうな男子と女子の対立を抑えたり、いつかは解消できるかもしれない。
 たぶんだけど、そう言っているのだ。
 今のクラスの状態が正常だとは私も思ってはいない。
 男子たちは無遠慮に花園羽香里を持ち上げているだけだが、女子側の内情を鑑みるとクラスの男子ほぼ全員にチヤホヤされている彼女に対していつまで現状を維持できるのかわからない。そろそろどこかで爆発してもおかしくない。決定的な何か……『花園羽香里』だけが理由じゃない何かが起こってしまう前にある程度の解決へ持っていきたいのは私も同じだ。
 
 でも。

「断る」
 私は花園羽香里の手をはねのけた。
 彼女は信じられないようなものを見る目で私の顔を見ていた。それまでの気だるげな雰囲気も、楽しそうな笑顔も、この表情と比べれば作り物だ。
「あんたの言う『お友達』って、利用できる手駒ってことよね?
 私はそういう相手を『お友達』って表現する人間を信用できない」
 たぶん彼女は私を懐柔して女子グループを抑える取り巻きにしたいだけなんだとこの時は思っていた。
「っ……!? 違います、私は本当に……」
 花園羽香里に動揺が走る。作戦や本性がバレたから……とその時はそう思ったのだが実際は違ったのだと後になって私は知る。だが今じゃない。
「少なくとも打算がメインの関係を私は友情とは認めない。
 今のあんたとは友達になれない」
「え、ご、ごめ、なさ……違うの、本当に、本当に私は……!」
 屋上。夕方。
 風が、強くなってきた。
 その時の私には花園羽香里の瞳から飛び散っていく涙が見えなかった。
「……一人の時間を邪魔して悪かったわ。
 仲良くなれそうって私も思うけど今じゃない。今のあんたは好きじゃない」
 なおも何か言いたそうな花園羽香里に言い捨て、私は足早に屋上を後にした。
 
 べ、別に屋上の風で冷えてその、少し我慢が限界だったとかそういうんじゃないんだからね!

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