1日3時間しか働かない国 1
はい。おはよう!
今日から不定期で、イタリア生まれのシルヴァーノ・アゴスティさんの1日3時間しか働かない国という小説を模写します。なぜかというと、あらすじなどを読んで、これはより、多くの人に伝えないといけない。伝えたい!と思ったからです。はっきり言うと、面白いです。できれば、毎日投稿したいです。時間かかると思いますが、よろしくお願いします。では、どうぞ!
「誰もが幸せになる 1日3時間しか働かない国 」
シルヴァーノ・アゴスティ
野村雅夫 訳
装画 杉田比呂美
装幀 渡辺光子
マガジンハウス
発行者 石崎 孟
「キルギシア」という国では、国民の習慣と行動を改善する改革が実現された。
この国のモットーは
人間らしさを尊重する社会であること
誰もが自分の運命の指揮者になれること
穏やかな暮らしを生涯送れること
そしてもっとも重要なことは、
人々の生活保障が
物質的なものだけでなく、
ゆとりのある〈時間〉をつくりだすこと
にある、としたことである。
・・・・・・想像してみればいいんだ、その島を
それだけでその島は
本当に存在し始めるんだから
「 1. 一通目の手紙 」
親愛なるみんなへ
七月三日、キルギシアにて
僕がキルギシアにやってきたのは、自分で望んだからでも休暇を過ごそうと思ったからでもなく、ただの偶然だった。
ひょんなことから、僕は新しい社会が生まれる奇跡に立ち会うことになった。
人間らしい社会。誰もが自分の運命の指揮者になれるようなところ。この国はずっと穏やかな暮らしを送ることが夢物語でもなんでもなくて、実際にみんなで分かち合えるところなんだ。他の国では何世紀かけても起こりえないようなことが、ここではみんな起っているような気がする。
キルギシアにやってきたときに、僕ははじめて来る場所なのに「帰ってきた」という感覚に襲われた。
それはたぶん僕が、ずっとその存在を夢見ていたからだろう。
このすばらしい国への不思議な「帰国」は、ともかく偶然のできごとだった。
技術的なトラブルがあって、僕の乗っていた飛行機がこの国中の首都に二日ほど寄港しなければならなくなったんだ。
このキルギシアという国では、どんな職場であっても、公共であれ民間であれ、一日に三時間以上働く人はいない。必要があれば残業することもあるとはいえ、それでちゃんとした給料がでる。残り二一時間は、眠ったり食事を楽しんだり、創作活動をしたり、愛し合ったり、人生を楽しんだり、自分だけの時間を過ごしたり、子どもや仲間たちと交流したりして過ごすんだ。
このようにして、生産力は三倍になった。充実している人っていうのは、嫌々やっている人がやっと一週間かけてできる以上のことを、たった一日でできてしまうからだろうね。
そう考えると「休暇」っていう概念がここには馴染まないし、意味のないものだって気がする。
どんなときも人生を謳歌できるように、すべてが機能しているようなこの国ではね。
そうなると、僕らの社会の休暇の概念が、仕事についての考え方と同じように、ひどいものだってことがわかってくる。
自由の意味に深く干渉してくるだけではなくて、その意味あいを歪めてしまうというか、まるっきり別のものにしてしまうということなんだ。休暇の時期になると、何百万もの人々が楽しむことを強制される。そして残りの時期は息つく間もなく働いたり、うまく仕事にありつけないかと夢見たり、毎日の義務的な労働からくる心身のトラブルを解決することに費やしてしまうんだ。
一日八時間労働のメカニズムは、社会的な緊張や神経症や鬱や体の不調を生み出している。
何より、誰もがはっきり感じているんだよ、大事な自分の時間をみすみすどぶに捨ててるってことをね。
この見えない恐怖を克服する意志が、キルギシアという国を生んだ。そして、わずか数年のうちに国民の習慣と行動を改善するような改革がいくつも実現されたんだ。
政治的な腐敗はまったくなくなった。というのもこの国の政府関係者は「ボランティア」で自分の役割に取り組むからなんだ。政治的な業務に就いている間は、それ以前の仕事でもらっていた給料が継続されることになっている。
政治というのは、ここでは奉仕の精神から成り立っているんだと気づいた僕は、やっと謎がとけたんだ。どうしてイタリアの国会議員がテレビで話しているのを見るたびに、そいつの顔とそいつが言ってることの間に埋めがたい距離を感じていたのか。だってそうだろ?僕らの社会の代議士なんて最低でも月に二万五千ユーロ(約四百万円)もらってるんだぜ。こんなに甘い汁を吸っているやつらがどんなきれいごとを言ったって、自分の思想や言動に説得力なんてもたせられるわけないさ。
キルギシアでは、少なくとも一日の半分は自分の生活のために費やすことができるから、父親と子ども、職場の仲間やご近所同士で、今までになかった関係を築くことができるようになった。
お父さんとお母さんは、本当の意味でお互いを知ったり子どもと過ごしたりするような時間を、ようやく手に入れることができたんだ。
公園は毎日人であふれかえってるし、交通渋滞は労働時間に変化をもたせることで四分の一以下になった。
工場は一日中生産活動を続けてるんだけど、夜勤の人は二時間だけでいいようになってる。
このユニークな実験を始めてからわずか三年後には、とても重要なことが明らかになった。ドラッグ、タバコ、アルコールの消費量はぐんと下がったし、
薬はその大部分が売れ残ってるんだ。
もちろん、君たちみたいに今日の西洋的な社会システムしかありえないんだと思いこまさせてる人間には、こんなことはちょっと信じられないだろうねけどね。
キルギシアでは、国家の運営は、ボランティア形式であるということに加えて、政府が二つに分かれているという特徴がある。一方の政府は通常の行政活動をしていて、もう一方はもっぱら構造を改善するためにあるんだ。
僕は労働環境改善省の大臣に会ったんだけれど、彼は五年以内に義務としての労働を現在の三時間からさらに二時間に削減しようと計画していたよ。
労働から解放された人間にこそ本来の生産力があるはずだと、彼は確信しているんだ。
たしかに、自分が打ち込めるものを発見できるのって、ゆとりをもって、好きなことをやってるときだけだよね。
僕はキルギシアにしばらく滞在することにして良かったと思ってる。だって、誰もが夢見るような国に、今この僕がいるんだぜ。帰れないさ。この不思議な感覚がおさまらないかぎりはね。
抱擁をみんなに。
ー 一通目の手紙 ー 終了
一通目の手紙はここで終わりです。では、またお願いします。
失礼する!
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