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余は如何にして腐男子となりし乎

Sunday after Sunday I resorted to this place,
not knowing the awful consequence that was to follow such a practice.

Uchimura Kanzo(1922) How I became a Christian : out of my diary. Tokyo, Keiseisha. 10

こんにちは。インターネットに揺蕩う人格、poyashimi.です。
今回は自分語りの回です。予めご了承の上、お読みください。



当noteに関する前提情報

私は、自分が男性であるという性自認については特段の違和感がなく、BLを読んだりする人間です。また、一般にBLを読む男性を「腐男子」と呼称するものと承知しており、私はそれに該当すると考えています。

なお、以下の文中では、いわゆる二次創作に言及する際の一次作品名を記述する際、一部伏字としている箇所があります。これは検索除け(一次作品名で検索された際にヒットしないようにすることを目的とする措置)です。

この文章を書くきっかけとなった出来事

2022年11月26日17時30分頃、私はアニメイト池袋4階にいました。
百瀬あん『幼馴染じゃ我慢できない 3[小冊子付限定版]』(フロンティアワークス, 2022年)の予約の受け取りがあった私は、Twitterで何となく見かけたかさいちあき『地雷系彼氏すずくん』(竹書房, 2022年)を手に取り、ついでに何かもう1冊くらいBLコミックスを買おうかなと、ぶらぶらしていました。
なんとなく本棚を見ていると、「あの、すみません……」と声をかけられました。別に店員風の格好をしているわけでもないので、間違いということはないかなと思いつつ振り向くと、声をかけてきた女性と、同伴する男性が立っていました。

女性からお話いただいたことは、大要、以下のようなことです。卒論のためにBLを読む男性のインタビュー調査を行っていること。ただ、現在までに集められているサンプル数が少なく困っていること。できればインタビューに協力してほしいこと。

以前、『総特集 BLスタディーズ』ユリイカ2007年12月臨時増刊号や溝口彰子『BL進化論』(太田出版, 2015年)、堀あきこ・守如子(編)『BLの教科書』(有斐閣, 2020年)を読んだこともあったので、BLを研究対象としている方がいることは知っていましたが、「卒論でも取り扱う方がいるんだな……そりゃあいるか……」と心の中で謎の感動をおぼえました。まあ、思い返せば『BLの教科書』自体が卒論執筆者も読者の対象にしていたので、いるのは当然です。

特に急ぎの用事もなかったので、ぼちぼち会計を済ませ、場所を移ってインタビューに応じました。急だったこともあり、たどたどしい感じでしたが、思い出しながら質問に答えていきます。
「初めてBLに触れたのはいつか、そのきっかけは何か」
→コミックスを初めて買ったのは5年前くらい前。きっかけは世界一初恋のアニメを見て。何故セカコイを見たのかはあまり覚えてないけど。(後述しますがあまり計算が合っていません)
「周囲の方にBLを読んでいると言ったことはあるか」
→自分から言うことは特にない。Twitterでたまに言及するかも。
「なぜBLを読むのか、少女漫画は読んだりするのか」
→感情の描写が丁寧なのは気に入っているが、ざっくり言えばおもしろいから。気分によって重い話やエロ描写が強い話を読んだりするので、色々読んでいると思う。そういえば少女漫画はほぼ読んだことがない。(室山まゆみ『あさりちゃん』(小学館, 1978-2014年)は読んでたけど多分趣旨と違うよね?)
「BLを読んでいて良かったと思うこと、価値観が変わったと思うことはあるか」
→BLに由来するかは確言できないが、同性婚周りの話題はよく見るようになった。
……

記憶が定かでなく曖昧なお答えになってしまった部分も多々ありましたが、インタビュアーの方には辛抱強く聞いていただきました。
とはいえ、自分のことについて聞かれること自体があまりなく(さらにBLについて聞かれることはほとんどないので)、おもしろい体験でした。質的調査、とても楽しかったです🥰
こちらが名乗っていないのでインタビュアーの方のお名前や所属大学も聞きそびれてしまいましたが、卒論がんばってくださいね。

……と、ここで終わればよかったのですが。
帰りの電車に乗りながら受け答えを反芻していると、あることに思い至ります。
「あれ……もしかして……インタビュアーの方のいうBLってやおい(二次創作)も含む概念!? ちゃんと確認してない!!!」

BL(ボーイズラブ)は一般に、男性同士の恋愛要素を含むコミックスや小説、アニメ、ゲームなどを指す概念ですが、私が"BL"という語を聞くと商業作品であることが自動的に前提として織り込まれます。
ただ、そういえばこの前、Twitterのトレンドで"二次創作BL"という語が入っているのを見て「やおいじゃなくて二次創作BLって言うんだなぁ」という感想を抱いたのを思い出したのです。そして、無意識のうちに関係ないと判断したのか、私が二次創作に触れていた時代のことをインタビュー中に話題に出さなかったことも。

色々と自分の過去を振り返りつつ、「なぜBLを読むようになったのか?」を、ゆっくり思い返したい。電車内で、家に着いたらnoteを書いてみようと決めました。

高校生までの記憶(2014年(8年前)まで)

物心がついたときから、本を読む子供だったと親からは聞いています。
小学校の頃は外で遊びもしましたが、休み時間は本を読むことも多かったように思います。
そのうちにエ〇ァンゲリ〇ン(TVシリーズ)を見た私は、これを皮切りに深夜アニメを少しずつ見るようになり、順調にオタクとして育っていきました。

やおい(男性同士の恋愛要素がある、非公式の二次創作作品をいう。以下同じ)に触れたのは、小学校の終わりごろ(2007年)だった気がします。

家族共用のPCでインターネット・サーフィンをしていた私は、噂に聞いていたpkmnのバグについて検索しながら色々なサイトを巡るうちに、ふと、とある小説サイトに行きあたります。

何か注意書きが書いてありましたが、読み流してここから入り、ついにpkmn腐・レグリ(主人公×ライバル)小説に出会ったのです。

あらあらあらあら、まあまあまあまあ。ふふふ。

読んだ感想:「めっちゃおもしろ~~~~~~い!!!!!! こんな世界があるのか、最高!!!!!!」

最初にやったゲームが赤緑だったこともありますが、pkmnと同じくらい、登場するキャラクターもよく覚えていました。ゲームにおける初代主人公とライバルの会話はライバルから一方的に話しかけられるのみでしたが、その分バトルによって心を通わせ、関係を構築していくものでした。最後の局面で主人公は、チャンピオンになって間もないライバルをすぐさま倒して自分がチャンピオンになるわけですが、ライバルはどんな気持ちだったんだろう……と若干心配したことも覚えています。
純粋な親愛や主人公に対する焦りのみならず、主人公に追いつこうとする執着や嫉妬心を含む複雑な感情さえあったのではなかろうかと感じていた私にとって、「恋愛感情もあった」という解釈は、すとん、とやけに腑に落ちるものでした。

そこから高校卒業までは、暇を見つけて専門のサーチサイトで小説やイラストを拝見するのが楽しくて仕方がありませんでした。pkmn(ゲーム)の他にpkspも原作と二次創作を読みましたし、エ〇ァ(カヲシン)、テ〇ルズ(T〇G(ヒュアス)、T〇X(アルジュ))、黒〇ス(火黒火)、進〇の〇人(リヴァエレ/エレリ)、A〇gel B〇ats!(日音)など、思い返せば色々見ていた気がします。中学生になって(2008年頃)スマートフォンを買い与えられてからは、暇さえあれば小説サイトやpixivを見ていました。日音については、R-18の合同誌が出るという話を聞き、当時買えない年齢だった私は悔し涙を流した覚えがあります(実際に泣いてはいませんが……)。
中でもドはまりしたのはヴ〇ンガード(櫂アイ)です。CVは代〇翼と佐〇拓也でしたが、正直、この2人には人生の方向性を決定づけられた気がします(刀〇乱舞とかアイ〇リッシュセ〇ンとか……)。こちらはカードや3DSのゲームを買っていましたし、上京後にオンリーイベントに行っていた時期もありました。

そのうちに、二次創作としてのやおいではなく、商業作品としてのBLがあるらしいという情報を耳にします。確かに書店にはBLコミックスの棚がありましたが、私が住んでいたのはかなりの田舎で、自分の行動すべてが知人に筒抜けになっていてもおかしくない地域です。男性である自分がBLを読むということに対しては、何となく他人に知られたくないと思い、コミックスを買うことはありませんでした。

しかし、私にはdアニメストアがありました。スマートフォンの買い替えの際にdocomoの店員さんからdアニメストアを勧められ、「勉強の合間の息抜きとして視聴したい」と私からも親にお願いしたところ、契約してくれたものです。
私はそこで初めてBLアニメとして『純情ロマンチカ』や『世界一初恋』を視聴することになりました。

包括的な契約であり、かつスマートフォンで視聴するので、誰の目にも留まることはありません。とはいえ、視聴している間は、家族が部屋に入ってこないかどうか少しだけドキドキしながら見ていました。
やっぱりBLアニメも面白かったので、他の作品も色々と見てみたいな……とは思いつつ、当時はそもそもBLアニメ自体が少なかったことや、勉強が忙しくなっていったこともあり、大学受験が終わるまではそこまでBLに触れる機会はありませんでした。

ちなみにですが、世界一初恋のサウンドトラックを持っているのを私の親は見ているはずなので、私の親は私がBLアニメを視聴していることは知ってるんじゃないかな~とは思いつつ、直接聞いてはいません。怖いので。
妹がどこまで知っているのかはもっとわかりません。私のTwitterを見ていると昔言っていたので、この文章が出たら知られるのかもしれないな……?

大学生以降の記憶(2014年(8年前)以降)

大学進学と共に東京に出てきました。入学当初はそもそも東京での生活に慣れるまで時間がかかりましたが、寮生活も含めて、半年もたてばそれなりにやっていけるようになりました。
そのうちに、大学への定期券内に池袋が含まれていることに気づき、池袋は「乙女ロード」と呼ばれる場所もあるほど腐女子にとって便利な町であることを知ります。
オタクは秋葉原に行くものだという固定観念もありましたが、そもそもアニメイトの本店は池袋ですし、こちらの方が私にとっても便利だなということで、池袋のアニメイトととらのあなをよく利用するようになりました。

書店でBLを買うことについては、おそらく当初は気恥ずかしさを感じていたように思うのですが、段々気にならなくなっていきました。東京は人が多い街なので、私の行動が誰かに着目されていると思わなくなっていきます。私にとっては、気楽で大変結構なことです。

過去の家計簿を見てみたのですが、2014年9月11日に影木栄貴・蔵王大志『LOVE STAGE!! (1-3)』(KADOKAWA, 2011-2013年)(最終巻は7巻・2016年発行)を購入した記録がありました。確認できる限りでは、これが最初に買ったBLコミックスです。当時アニメをやっていた影響ですかね。

その後塾講師のアルバイトをするなどして資金に余裕が出てきたので、大学で専門書を買う傍ら、アニメイトでBLコミックスやBLCDを買うようになりました。非BLアニメの円盤も買えるようになったので、たまに買ったりもしました。
BLゲームもちゃんと大学進学以降に遊びましたよ! キラル作品は全部やりましたし、蒼葉のR-18フィギュアも買っちゃいました。キラル10周年記念のキラナイも楽しかった……

また、直接関係はありませんが、2015年1月には刀〇乱舞に佐〇拓也が出ていることを知り遊び始めた(+同人誌を買うようになりコミケにも行った)し、いわゆる女性向けゲームにも趣味の幅が広がっていきました。2.5次元の舞台も最初は刀〇乱舞から入った気がします。マダステも配信で見ました……よい……

大学院に入った際に居住地が変わったので一時期立川のアニメイトを使っていましたが、最近就職に伴って引っ越し、また池袋のアニメイトを利用するようになりました。資金に余裕ができたので、たま~に舞台現地に行ったりしていますし、BLコミックスやBLCDも引き続き購入しています。

「なぜBLを読むのか?」

こうして振り返ると、特定のジャンルを入り口としてハマったことが主たる契機となっており、かなり経路依存性が高いように思います。他のジャンル(少女漫画とか)にハマっていたら、別にBLを読んでいなかったのかもしれないし、今から少女漫画にもハマる可能性はありそう。
とはいえ、現に存在する私は差し当たりBLを読んでいるので、私がBLを読む動機やきっかけには何があるのかを考えてみます。

・感情表現が豊かで読んでいて面白い
・あまり難しいことを考えたくないときにはエロ主体の漫画を読んで「ヒューッ!」と言ったりする
・重い話を読みたいときはガッツリ重い話を読んでちゃんと落ち込んだりする
・BLは作者がキャラの性格まで含めて性癖を入れ込んでいるのを見るのが面白いし、二次創作は二次創作者の解釈に色々なバリエーションがあるのを見るのが面白い
・男女CPではある程度、「アプローチをかける/かけられる」関係が男/女にそのまま前提とされることが多いように感じるが、BLではそこまででもないように感じる(性別規範意識の希薄化?)
・わりと惰性でBLコーナーに行くので、惰性で買って惰性で読むこともある
・Twitter上でBLの試し読みができるときもあり、気になったら買っている
・『このBLがすごい!』は毎年チェックしていて、気になったら買っている

……あまり、BL"だから"読もう! と意気込んでいる気はしないかもしれないなあ……BLの内部でも色々ジャンル変えて読んでる気もするし、同じ栄養素を得るなら別の漫画でも摂取できそうだし。何でBL読んでるんだ私は……? 誰か教えてくれ……

「男性がBLを読むことに対しての抵抗感は?」

特に感じないかもしれません。BLに対してもそうですが、漫画やゲームは基本的に他人事として読んでいるので……

そういえば、ニトロプラス社員のおがみさんかムーさんか(いずれも男性)どちらか忘れてしまいましたけれど、何かの折にDRAMAtical Murder(同社ニトロプラスキラルブランドの18禁BLゲームとしては4作目の作品)のデバッグをされた時のお話をされていて。主人公の蒼葉に感情移入してやっていると少し苦手意識があったが、あくまで鑑賞対象として蒼葉を見ていると普通にプレイできたと仰っていた気がします。
(この話の出典は私も確認しておきたい。どこかの「本気はまた今度」だったかな)

まとめ

・やおい→BLという割とよく見るコンボにハマった
・上京に合わせて書店でBLを買うことに恥ずかしさを覚えなくなった
・どうしてBLを読んでいるのかの理由は正直私にもよく分からないので、一般的にはどうなっているのか誰かまとめて教えてほしい
つまり……

卒論がんばってください!!!!!! そしてBLを読む理由を私に教えて!!!!!!

補遺

・私の中では、「なぜマンガを読むのか」という問いに答えるのが難しいのと同程度に「なぜBLを読むのか」という問いに答えるのも難しいように思いました。「おもしろいから」を超える回答が出てこない……でも趣味って大体そんなものじゃない?
あと、個別の作品のおもしろさは考えられるけど、それがBLであることのみに依存するかは一旦保留したいところです。個別の作品のどこがおもしろいのかを考えて、それらに共通する要素をくくりだす作業が必要かも。

まあ、BLを読むことに理由を問われること自体が、BLが今もなお主流から見たカウンターとして意識されていたり、あるいは女性が読むものとして受け止められてきた証左なのかもしれません(私もそれ自体は違和感なく受け止めています。BLの書き手や読み手が主に女性だったことは歴史的に見てそうでしょう)。

・もう一つ、「BLを読んでいてどんな価値観の変化があったか?」という問いについて。
BLを読んでいない自分があまり想定できないので、今の価値観(所謂リベラリズムにコミットしていることや同性婚に対して肯定的なことなど)のうち、どれがBL要因でどれがそうではないのかが今一つわからないのですよね。例えば、法学部出身というのは多分にありそうな他の要因の一つではあります。
インタビューされたらどう答えるのが期待されているんでしょうか。おしえて、質的調査の人~~~!

おしまい

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