見出し画像

成人発達理論に基づく意識構造の測定を人事戦略に活用する

このnoteでは成人発達理論に基づく意識構造測定の枠組みについて述べていきます。少し前の記事になりますが、成人発達理論自体の概略については下記記事をご参照ください。

この記事で述べる意識構造測定の方法論は、成人発達理論だけに基づくものではありません。なおかつ、成人発達理論の理論的枠組みに一部改編を加えた者にもなっていますので、そのあたりから解説していきます。

いま意識構造を踏まえた人事戦略が必要となっている

アルー代表の落合文四郎さんが指摘するように、「個人は組織に帰属する」という昭和から平成の時代(の前半)まで主流だった考えは、ここに来て大大きく変動し始めています。「個人と組織の対等な関係、相互の主体的真理(人生の目的や理想)やありたい姿に基づいて、協働することに合意する関係」への変化が起こっているのです。※以下は落合文四郎さんによる図式。

図1

このような流れの中で、多くの会社が個人と組織の関係の最適化に取り組んできました。その流れの一つとして、個人の持ち味や意欲の程度を可視化して、それを組織人事の施策へフィードバックさせていくという流れがここ数年加速しています。リンクアンドモチベーションの「モチベーションクラウド」、アトラエの「wevox」その他様々な組織開発に関するツールが打ち出されています。また、ビジネスパーソン向けのコーチングは微かに流行の兆しが見えています。これらは個人と組織の関係の最適化という新たな流れに、会社も個人も適応しようとする中で生じているものと理解してよいでしょう。

ところが、個人と組織の関係の最適化においては全てのサービスにおいてとても重要な観点が抜け落ちています。全てのサービスにおいて、個人と組織の関係性を問うために必要な大事な視点が抜け落ちているのです。それを私は意識の構造だと捉えています。

図2

組織と個人の関係性の最適化を考える上で、組織との関係性における個人のあり方をどう捉えるかが重要であることは言うまでもないでしょう。私はここ1年の間研究を重ね、少なくとも組織と個人の関係性の最適化を考える上では、個々人の意識構造、強み、タイプの3点を考慮することが不可欠であるという確信に至りました。強みとは一般にコンピテンシーと言われるもの、タイプは性格特性と呼ばれるもので、いずれも様々なアセスメントツールで実装されているものです。ところが、意識構造を考慮に入れたツールやサービスは全く存在しません。

それでは意識構造とは何か?簡単に言えば物事を見る視座と考えれば良いでしょう。人間は大人に向けて成長をしていく中で、一般には自己中心性を減少させながら、より広い他者を包摂する視点を獲得していくと考えられています。それを成人発達理論は発達と呼び、様々な研究者が人は段階的に意識構造を変遷させていくと考えているのです。以下はインテグラル理論の中で紹介されている、発達心理学者毎の発達段階の分類です。

図3

社会化の中で、人間は四つの意識構造を獲得する

私は成人発達理論の経営現場での応用を考える中で、人間は社会化(社会への適応のフェーズ)において、個体差はありながらも4つの意識構造のマトリックスにおいて意識構造を変容させていくと考えるようになりました。

図4

4つの意識構造は「自己主張型」「他者配慮型」「組織運営型」「理論主導型」という名称をあてていますが、それぞれの関係性は自立性重視(自己の尊重)と関係性重視(他者の尊重)という軸と、リアクティブ(反応的で比較的未熟なあり方)とプロアクティブ(理性的で比較的成熟したあり方)という軸で整理しています。

自己主張型は、外界や他者に対して反射的な反応でもって自己を防衛し、自己利益を主張していく意識構造が強い型であり、「率直,無邪気,今を生きる,競争,権利主張,他者を罰する,金融資産の獲得,他者を道具と看做す,他者をコントロールする,独占する」などの特性を持ちます。誰しも幼少期や社会人になるまでの間においては自己主張型を経由しています。

自己主張型が見る景色は主観的自我の世界です。それは自分の立場からしかものを見ない自己中心的な世界観を示します。主観的なので自我の意識は自己に対して向けられず、自分の外側の世界に対して向けられます。そのため自己反省ができず、主観的な感じ方や考え方からまだ抜け出せない状態です。

自分が見えないため、外からの刺激に支配され動かされやすいのが特徴です。ちょっとしたことに腹を立て、感情的になる傾向があります。利己的欲求が強いため、利害打算が先行し、少しでも自分に有利な状態を目指します。

主観的な自我を持っている場合、人から嫌われたり自己中心的な人物とぶつかり対立が生じることは避けられません。そのような出来事は不快なので、対立が生じたことを契機にどこに対立の原因があるのかを考えることにつながり、それによって自分を反省的に眺める視点が涵養されていきます。

企業組織では、自己主張型はエネルギッシュかつ活動的である反面、自分にメリットのない仕事で手を抜いたり、チームワークを無視した行動を取ったりと、組織の調和をかき乱してしまう傾向があり、概して問題児的な扱いを受けているケースがほとんどです。感情の起伏が激しいためマネジメントに苦労するタイプです。日本の場合は社会人になった時点で他者配慮型の意識構造を獲得している方がほとんどではありますが、どの組織においても1割弱程度は存在しているように思われます。

他者配慮型は、外界や他者に対して反射的な反応でもって他者に尽くし、自分を抑えていく意識構造が強い型であり、「他者に従う,慣習を遵守,組織依存,気づかい,人目を気にする,自重する,自分の欲求を抑圧する,社会的な権威の有無で判断する」などの特性を持ちます。新人として部活動に打ち込む際に先輩から厳しく指導を受けること、社会人になって仕事に慣れるために様々なことを教えてもらいながら、ただただ指示に従って訓練する時に発揮する意識構造を捉えれば良いでしょう。

自己主張型が主観的自我の世界であることとは対照的に、他者配慮型は客体的自我という特徴を備えます。客体とは、相手の立場に立つという意味です。客体的自我は自己中心的とは真反対の、他者中心的な心の働きと言えます。

自己中心的な立場が利己的な欲求に支配されている一方で、他者配慮型の他者中心的立場は、利他的な欲求に支配されているといえます。自分のことを考えるより、まず相手のことを考えてしまうという心情を持ちます。

相手に対して思いやりを持ち、自分よりも相手の立場を優先させ、相手のためになることをしようとしますが、まかり間違えると単なるお人よしになってしまいます。他者配慮型は世間体を気にしている反面、自分を抑えているため、自分が我慢しているという意識が内面を占めがちです。実はこのような意識構造が、旧来型の大企業においてはマジョリティを占めている状況があります。

なお、他者中心的な意識が度を過ぎると、それを美化するあまり、相手の思惑に振り回されて自分を見失うという展開にもなりがちです。このような傾向があるため、他者配慮型は自己主張型の意のままに動かれてしまう構造になりがちです。身勝手な人に尽くし過ぎて疲弊するパートナー関係があったりしますが、上述のような構図が大半のようです。

企業組織では、他者配慮型は真摯かつ従順である反面、指示待ち、依存的という特性があり、それがその人のパフォーマンスの限界を規定しています。相手の気持ちを察することにエネルギーを傾けているがゆえに、周囲の考え方から抜け出せないことが弱みになりがちなのです。

組織運営型は、外界や他者に対して理性的、建設的な反応でもって全体をコーディネート、アレンジし、調和を図っていく意識構造です。「仲間意識と調和を優先,周囲からの承認を重視,軋轢を避けたい,安定志向,寛容,傾聴する,計画性を持って着実に進める,モチベーションに配慮する」などの特性を持ちます。一般に、後輩を指導する、リーダーとして組織を率い、適切にマネジメントする役割を担う際に発揮する意識構造です。

組織運営型が見る景色は客観的自我の世界です。主観的自我でも客体的自我でもなく、自分と他人の両方を、第三者の立場に立って眺めることができる立場です。自己と誰かが対立している状態を、自分が第三者の立場に立って眺めた時にどう見えるかということを意識して、自分がどう判断し、どう行動すべきかを明確に見出していくことができます。

自己主張型的な主観的自我、他者配慮型的な客体的自我の間の迷いを脱し、客観的自我の冷静で科学的な視点を持つことができます。どのように相手と接していったら問題が解決できるのか、どうすれば板挟みの状態から抜け出せていくのか、そうした問いを見出していけるのが組織運営型の意識構造になります。

第三者の立場は非常に冷静で客観的な見方であるため状況を的確につかめるという利点がある一方、傍観者的で日和見的な意識が出てくる可能性があります。第三者の立場に常に身を置き、批判的に眺めることに終始していると、本気で情熱を燃やす面が希薄になりがちという傾向が出てきます。大企業、ベンチャー企業問わず、中間管理職にある方々は、意識構造としても役割としても組織運営型に重心がある方が多い印象です。

組織運営型は、企業組織ではそのバランス感覚に優れた点を活かして、中間管理職として活躍される方が多い印象です。しかし、組織運営型は効率的に物事を進めていくことやコンセンサスを取ることに長ける一方で、自分自身の持論やビジョン、戦略を打ちだす姿勢や能力に欠けているため、新規事業を創る、新しい部署を立ち上げるなど、創造性や戦略性、あるいは分析的思考力が求められる仕事において苦戦を強いられる傾向があります。大企業の経営戦略は総花的でクリエイティビティや選択と集中に欠けたプランを多く見かけますが、これは戦略を司る中枢部門が組織運営型で占められていることが要因のように思われます。

理論主導型は、外界や他者に対して、理性的、建設的な反応でもって自分なりの信念やビジョン、戦略を打ちだし、人を率いていく意識構造です。「自分の世界観を持って他者をリードする,事実や論理に基づく問題解決を重視,利害や結果を優先する,効率性重視,主体的に責任を負う」などの特性を持ちます。経営戦略コンサルティングや事業部長以上の方が発揮されているとても高度な意識構造です。新興企業のCEOなどはほとんどが理論主導型の意識構造を持って企業を率いておられます。

理論主導型の自我は第一人称的自我すなわち自己主張型に特徴的な自己中心的自我が理念化された姿と言えます。自己保存の欲求が理性という能力を帯びると”意志”として発現します。意志は活動の根拠、原理を理性的に置く立場であって、単なる欲求とは異なる。その自我は意志的自我と言えます。

理論主導型の自我は自分の意志をどこまでも貫こうとするやり方を旨とします。権力的で、極めると目的のためには手段を選ばない、意志的情熱に駆られた姿勢です。理論主導型は理性的であると同時に冷酷でもあり、理論主導型は理性の限界を認識する以前の段階。理性に頼る行動原理が目立ちます。

概して名誉心や自尊心が強く、会社や社会のためとはいっても、自分が会社や社会を牛耳る、影響力を行使するという気持ちが先行しがちえす。独善的になりえますが、理念を生きる目標にしているあり方です。理念の実現を目指すが、自分本位が根源にあるので利害損得にこだわります。

理論主導型は創造性、戦略性、実行力、分析思考を磨く段階です。何物にも頼ることなく、自分の力のみを信じて問題にぶつかり、乗り越えていく生き方は、底力や潜在能力を引き出します。

理論主導型の意識構造は、企業組織の多彩な役割において活躍する蓋然性が非常に高い意識構造です。どのような職種であっても、合理的な思考を駆使して、仮説を巡らせて、持ち前の実行力、責任感で問題解決を行っていきます。営業であれば、顧客の意思決定構造を緻密に分析し、戦略的な攻略方法を考えることができます。経営戦略を立てるにおいても、これからの市場の変化や競争環境の動静、自社のユニークネス、経営資源、コスト構造を念頭に置きながら、戦略を立て、しっかりと検証を進めていくことができます。

今日のような変動の大きなビジネス環境の中では、理論主導型の育成や抜擢が重要になってくることは言うまでもありません。

人間はこのような特性を持つ4つの意識構造を行き来しながら、個々人毎にバランスは異なりますが様々な持ち味を構築していきます。

各意識構造毎に特有の能力が涵養される

画像5

こちらは私が共同研究に参画しているユーダイモニア研究所の整理になりますが、上述した意識構造において人は意識構造に特有の強み(コンピテンシー)を身につけていくことになります。例えば理論主導型のように信念やビジョン、戦略を打ちだし、人を率いていく志向性を持つためには、その志向性を支える能力的基盤が不可欠になるのです。

人は複数の意識構造を経る中で、各意識構造に特有のコンピテンシーの一部を身につけていきながら、それぞれユニークな持ち味を形成していきます。このように意識構造と強み(コンピテンシー)は人の成長において密接に絡み合っているのです。以下のように、人の意識構造のバランスは非常に多彩なものになっていきます。

図5

人によって意識構造毎に能力開発に取り組む期間、涵養する能力は様々ですから、当然ながら、以下イメージの左2つのように、例えば一口に理論主導型といってもその内実は様々なものであるのが自然なことになります。

図6

ちなみに、旧来の成人発達理論では、各意識構造の”濃さ”はあまり論点になることはありませんでした。しかし、本来各意識構造の”濃さ”、すなわちそれは特定の意識構造の滞在期間であり、そこで培ったコンピテンシーの数や質だったりするわけですが、それによって人の能力発揮度合いは大きく変わってくると考えます。

様々にアセスメントをしてわかってきたことは、初期的な意識構造の経験の基盤がぜい弱な後期の意識構造、すなわち理論主導型やそれ以降の意識構造である正義指向型は、その視点の高さ、広さに比して、その問題意識を社会に投げかけて事を成す社会実装力に欠けるのです。結果としてその人は、高尚なビジョンを持ちながらもそれをうまく社会の中で表現することができません。高い視座は宝の持ち腐れになってしまう場合があるわけです。初期の意識構造(自己主張型、他者配慮型、組織運営型)をしっかり堪能しながら発達していくことには重要な意味があるのです。計り知れない価値があるのです。

場面が変われば意識構造は変わる

また、これは成人発達理論を学ぶ人の中では見過ごされがちな観点ですが、環境や自分の状態が変動すれば、意識構造は容易に変わりうるということを理解しておくことは重要です。一人の人格においても以下のような意識構造の瞬間的な変動はあり得るのです。

図7

ですから、組織運営型の人が異動、あるいは転職によって一定時期他者配慮型に意識構造が退行する(あるいは意図的に退行させる)ことは普通のこととして起こり得ることを理解しておくことが必要です。意識構造はまったく固定的なものではないのです。実際にアセスメントした事例でも、以下のような「取り直し」という事象はよく見受けられます。

図8

従来は希少だった理論主導型を超える意識構造が頻出している

実は人間の発達は理論主導型に留まるものではありません。数年前までは希少だったのですが、最近では理論主導型以降の意識構造である正義指向型や世界指向型という意識構造も企業内でよくみられるようになってきました。これらの意識構造は自立性と関係性を統合した考え方が特徴となっていますが、特性の概要は以下図の通りです。

図9

従来、正義指向型、世界指向型はビジネスという視点を超越している部分があるので組織の中で出世している人は少なかったのですが、最近ではこのような意識構造を持つ人材を意図的に重要なポジションに据えようする企業も増えてきているように見受けられます。

正義指向型の特性は、個人的な自我の欲求と距離を置いて、社会正義と調和の実現を希求する態度と言えます。利他的な夢・目標を見出し、内省的で心の声を聴き、心が示す進路を歩む、人生の有限性を意識して生きるなどの態度を含みます。

理論主導型の自我に対し、正義指向型は去私的な自我という特徴を持ちます。去私的な自我とは”私を捨てる”ではなく、”自然となくなっていく”心境です。理念を強く意識することによって、意識が自然に私へのこだわりから離れていくという構造があります。”私を捨てる”は他者配慮型であり、混同を避ける必要があります。

正義指向型の自我は、自分を包み込む大きなものに自分を同化させていきます。(自分を含む)家族、会社、国家、人類のために仕事ができることが喜びになる立場であり、その態度は博愛的で、積極的に自らを去り、自ら積極的に、自覚的に犠牲を払って献身することができます。大きな目的のために対立を乗り越える考えを持ちます。

自分を強く押し出し、作為的に物事を実現する姿勢はとらず、自分にできる最善を尽くし、あとは運命に任せるスタンスが顕著になります。このため、企業では評価されないケースもしばしばです。

意図せずとも善を意志してしまうので、正義指向型の人は自分のことを善人と全く思っていないフシがあります。意図せずして謙虚に見えます。正義指向型の人はお金に頓着しないので下手すると清貧になってしまいますが、温かな人間関係を形成している人がたいへん多いです。

理論主導型をしっかり経由していない場合、資本主義的社会システムの苛烈さを敬遠し、厭世的で清らかな社会を求めて修羅場を避ける傾向が出てきてしまいます。山や森に行ったり、瞑想に耽るなどですね。以下の記事も参考になるかと思います。

同様に、世界指向型の特性は以下の記事をご参照ください。

アセスメントの例

以下では意識構造と持ち味、それにタイプ論(私はエゴグラム診断を活用しています)でアセスメントをした場合の例をご紹介します。より意識構造に対する理解度が深まると思います(言わずもがなですが、事例はフィクションです)。

図11

図12

図13

図14

図15

図16

意識構造の測定を組織にどう活かすか?

さて、最後にここまで説明した意識構造の測定を組織にどう活かすのかについて述べていきましょう。実は組織に本ノウハウを実際に適用していく実践の本格化は来年のテーマではあるのですが、既に構想しているものについて言及していきます。

図17

個々人の意識構造のアセスメント結果と組織図や組織のミッション、指示命令系統の状況を照らし合わせることで、様々な点で組織機能の健全性を監査することが容易になります。人が持ち得ている意識構造に対して、必要機能にズレがあること、また、指示命令系統において意識構造のGAPや構造の逆転(部下の方が意識構造が高次である状況)があるとマネジメントがうまく機能しないなどの問題が生じます。意識構造のアセスメントは、このような組織機能の問題点をあぶりだす上で非常に有用な視点を与えてくれます。

図18

意識構造のアセスメント結果を観察すると、組織文化の様子も深い解像度で把握することができます。組織文化が荒れていく時には必ず「意識構造の退行」という事象が、組織のあらゆる階層において発生します。通常、意識構造の退行がいかに引き起こされているかを客観的に知る術はありませんが、意識構造のアセスメントはその構造を的確に洞察するツールとしてとても優れているのです。

画像19

意識構造のアセスメントにおいて、組織内の適材適所や適切なチーム編成がどの程度行われているかも解像度深く見極めることが可能になります。

画像20

モチベーションマネジメントの解像度も深まるでしょう。意識構造の違いによって、人が仕事に対して重視することは大きく異なります。そのような心のインセンティブ構造を踏まえた意欲喚起が可能になるでしょう。

画像21

当然ながら、能力開発に対する解像度も圧倒的に増すことになります。上記図では関係性重視の経験が薄い理論主導型人材の成長課題を示したものです。この方が先々専門家ではなくゼネラリストとして会社全体を率いていくことを期待されている場合、この方は組織運営型の取り直しが必要となります。そのような成長課題を明確にして、意図して鍛錬に取り組むことが成長を促進することになります。

画像22

意識構造の重心が明らかになった場合、次なる意識構造に向けた成長を促すにおいてコーチングの活用は非常に効果的です。個人が次なる意識構造の獲得を内発的動機として持っている場合は、コーチングによる発達支援を利用することもできます。

コーチングにおける診断の活用方法

意識構造診断をコーチングでどのように活用していくかも解説しておきます。例えば以下がある人の診断結果だったとします。塗りつぶされている箱が既に十分に習得しているコンピテンシーだとします。この方は自己主張型として情熱、活発性、競争心を涵養し、他者配慮型と組織運営型を十分経由せずして理論主導型へ移行し、自己確信、指令性、戦略性、主体性を磨いてきたとします。

図1

この場合、一つの考え方としては持っている強みを活かせるような役割を見出し、そこで役割最適化を図るという考え方もあるのですが、この方のポジションの都合上、他者配慮型、組織運営型のコンピテンシーのいくつかを充足できなければうまくマネジメントができない環境に置かれているとします。水色で囲っている箱は、この方が今後身につけるべきコンピテンシーとしてコーチと共に合意したものになります。

このように、現状の強みと役割上要請される能力のGAPを確かめて、自分の能力開発の方向性を見出し、どのような実践をしていくのかがコーチングのテーマになってきます。

リアクティブ期のネガティブ視点の形成

意識構造の発達と関連する別論点として、リアクティブ期、すなわち自己主張型と他者配慮型の形成期にネガティブな経験を経ることによって形成されるパーソナリティにも触れておく必要があります。

図1

ある人が自己主張型や他者配慮型を健全に経由できていない場合、自己否定、あるいは他者否定的な視点が固着して当人のウェルビーイングを阻害し、組織内でも負の影響を与えてしまうことがあります。

例えば自己主張型を健全な形で経由することができなかった場合、自分さえ良ければよいという利己的動機や物質的なものへの執着にしばられ、自分の思い通りにならない状況に葛藤して憎しみなど否定的な感情に心が占められてしまうケースがあります。このようなパーソナリティを持ってしまうことがパワーハラスメントの大きな要因にもなるのですが、この振る舞い自体は本人にもコントロールすることが困難です。

他者配慮型を健全な形で経由することができなかった場合、「こうしてはならない」、「こうでなければならない」という固定観念に縛られ、社会的期待に応えられないことに対する恐怖心による否定的な感情に心が占められてしまうケースがあります。

自己否定的な観念は、「自分なんて・・・」、「・・・を後悔していて」、「・・・を続けていた理由は特にない」などの言葉が頻繁に出てくることで示唆されます。他者否定的な観念は、「・・・だったからしょうがない」「この市場には成長余地がない」「どうせ・・・なのが目に見えてる」という言葉から示唆されます。

他者否定的な観念を持っている方は、葛藤の大きさをエネルギーにして組織で重要なポジションを占めていることもしばしばあるのですが、水面下で組織に多大なストレスを与えている可能性が高い点に留意する必要があります。

各意識構造のネガティブ視点はどのように現れるか?

各意識構造毎にネガティブな視点はさまざまな出方をするのですが、個々人が次の意識構造に向けて成長する上では、それらのネガティブな出方を意識し、意志の力によって制御していくことが必要となります。ここでは代表的なネガティブ行動を取り上げてみます。

まずは自己主張型に重心が位置する方のネガティブ行動ですが、自己中心、気まぐれ、衝動的などのパターンがあります。エゴグラム診断では活発力(FC)の高さとして現れることがあります。

自己中心:自分の欲求だけを念頭におく態度。
自分の時間やお金を守ろうとする姿勢が強いため、成果を享受することができる。一方で、大抵の人は自己中心的という属性を好まないため、人と有意義な関係性を築くことに苦労する。

気まぐれ:思考・意見に一貫性がない
予想外のふるまいを見せるため、周囲は何をしでかすか予想できず、あてにすることができない。本人は満足していても、周囲はしっかり筋が通っていないことに不満を感じ、対立が生じる。軽はずみな言動で相手の気分を害する。

衝動的:先のことを考えず気持ちのままに行動する
先を見越してじっくり計画を立てる人々に迷惑をかけるため、関係に摩擦が生じる。事態にすぐに反応するので視野が狭く、自分の行動が周囲に与える影響を考えないため、さらに状況を悪化させ、信頼を失うことがある。

批判的:人のことを否定的に判断する(ここだけ理念力的)
他人に自分の理念を押し付けようとしたり、個人的な判断基準にそくして人のことを性急に決めつけたりする。他人を分類したいという衝動的な欲求で人を傷つける。

次は他者配慮型が意識の重心を占める方のネガティブ傾向です。エゴグラム診断では協同力(AC)の高さとして現れることがあります。自己主張型をしっかり経由せずに早々に他者配慮型に移行してしまったケースで見受けられる傾向です。

臆病:怯えがち、ためらいがちなあり方
人の意見、痛みや不快、誤った決断への恐れに支配されており、取るべき行動をとる際に恐怖を感じる。

抑制的:欲望、衝動、感情を抑圧するあり方
自分が耐えられないと思う感情を、抑制という方法で遮断する。抑制された欲望、感情は消えることなく、水面下でくすぶり続けるため、時に非理性的な反応を爆発させてしまうことがある。健全な方法で自分の気持ちを表現できないため、自己嫌悪に陥ってしまうこともある。

心配性:極端に気を揉むあり方
何事もくよくよ思い悩むため、決して油断せず、周りが見逃しがちな問題に気づく。過度に心配することでリラックスできず、疲弊してしまうことがある。

次は、自己主張型をネガティブな形で経由して、組織運営型や理論主導型に無理に移行してしまったケースです。エゴグラム診断では理念力(CP)や論理力(A)の高さとして現れます。

完璧主義:完璧でないものは許容しない
完璧に満たないものは受け入れられないという執着に駆られて、失望・自己嫌悪に陥る。周囲に完璧さを求めるため、周囲は非現実的な期待にいらだち、疲弊する。

独裁的:他人を思い通りに動かそうとする
不安から状況をコントロールしようとしたり、他人を自分の思い通りに動かそうとしたりする。 他人とは競争、批判、物質的利害、対立などを通してつながっており、 その関係において傷つく人がいることを理解できない。

冷淡:感情的に冷めたあり方
通常であれば感情が揺さぶられる事態にも動じずに前に進むことができる。一方で、感情面で人と深く関わることをしないため、人間関係がうわべだけのものになってしまいがち。

理屈屋:他者を論破しがちな傾向
人間関係も含め、あらゆることを合理的に処理しようとする気持ちが強く、なおかつ頭の回転が速いため、他者を理屈で論破することを好む。結果、傲慢不遜と看做され、近づきがたい雰囲気を作り出してしまう。

効率偏重:無駄を極端に嫌う傾向
何事も無駄なく計画的に進めたいという気持ちが強く、議論が脇道に逸れたり、アイデアを発散して自分が描いた計画から焦点が離れていくことを嫌う。非効率に思えるアイデアを切り捨てがちになり、周囲から不評を買うことがある。

補足:相対主義的段階を省略している理由

なお、補足的な言及ですが、今回ご紹介した意識構造の枠組みからは、ロバート・キーガンのモデルでは明確に定義されている相対主義的段階を省略しています。相対主義的段階とは本来であれば理論主導型の次の段階として位置づけられるのですが、今回は意図して省略しています。相対主義的段階がどのような特性を持った意識構造なのかはこちらの記事をご参照ください。

今回のモデルから相対主義的段階を省略している理由は、実際に相対主義的段階経由せずして正義指向型(キーガンの表現では統合的段階)の意識構造を確立し、能力を発揮する事例がかなりの数確認されているからです。

実は前々から感じていたのですが、相対主義的段階は明確な一つの意識構造というよりは理論主導型と正義指向型の過渡期として内面が不安定になる一時的な状態(とはいえ、その状態は数年に及ぶケースが多いです)と捉える方が妥当だと思われます。

相対主義的段階の特徴は実存的苦悩(この人生をどう生きるか答えが見いだせずに苦悩すること)なのですが、それは換言すると「正義指向型の意識構造を持っているのだが、理論主導型の意識構造しか発揮できない文脈以外を知らず、フラストレーションを抱えている状態」と言えるのです。

数年前であれば上記の状態(正義指向型の意識構造を発揮する場がない状態)は実際にあったのですが、いまはビジョナリーな営利企業、NPOその他活動によって実践の場は拓かれていますから、スムーズに正義指向型に移行できるケースが増えているのです。だから今回は実存的苦悩に陥っている状態は理論主導型の終わりかけと判断することとしています。

最後に

以上、いかがだったでしょうか?コンピテンシーやタイプ論の詳細までは言及できませんでしたが、意識構造の測定に関する大要はお伝え出来たのではないかと思います。私は2021年は「成人発達理論に基づく意識構造の測定と人事戦略の策定」の研究・実践を企業の中で行い、企業の組織活性化に貢献できればと思います。既にいくつかの企業とパートナーシップを組みつつありますが、ご関心のある企業様は是非ご相談ください。

いいなと思ったら応援しよう!