一級建築士の街歩き05 設計者から見た”こだわり建築”シリーズ 「紀尾井清堂」 設計:内藤廣
今回は新たに “こだわり建築” シリーズとして興味を大いに引かれた建築を見てみたいと思います。今までの“素材達”シリーズと並行して引き続き魅力的なこだわり建築に迫ります。
シリーズ第1回目は「紀尾井清堂」内藤廣設計です。
目次
①唯一無二の空間 光溢れる空間と光を抑制した空間
②独特の素材感 独特の空間を形作る建築素材
③唯一無二を支える技術 裏付け技術と内藤ディテール
荒々しさと静謐さが絶妙な雰囲気、空間を作り出す現代のパンテオン。
オーナーからのユニークな要望とそれに応えた内藤氏の回答にこめた
思い、空間、それを成り立たせている技術を見てみましょう。
①唯一無二の空間 光溢れる空間と光を抑制した空間
内藤さんにしては珍しいガラスで覆った建物です。
実は施主からは用途を提示されませんでした。それを受けて思う存分腕を振るった建物です。ガラスをスキンの様に扱いコンクリートの箱を包み込んでいます。
この建物では光がメインテーマとなっています。1階は横からの光、一方上階は上からのパンテオンのような光でその印象は全く違います。
1階は照明が殆ど無く都会の中にあるのに洞窟の中にいるような感じで
横からの光が壁、柱、天井、床にあたり様々な陰影を造り出し“原始の光”の印象。
特に柱は独特の存在感を放っています。
この柱の型枠は杉板本実型枠ですが、これでHPシェルの様な曲面を作るのは相当腕の良い型枠大工さんです。
それも合わせ目がピタッとしている。
また天井照明が一切無く外部からの光で柱や、天井、壁、床が
様々な表情を見せるのにぞくぞくとします。
1階に置かれていた数少ない照明の一つがイサム・ノグチ作と思われる提灯でした。
この空間に和のデザインがマッチしています。
この照明を見たときに設計者の師である菊竹氏設計の「スカイハウス」に置かれていた同じ提灯を想い出しました。
また再度よく見るとスカイハウスにも天井照明が無かったです。
同時に1階の柱の造形は同じく菊竹氏設計「出雲大社庁の舎」のHPシェル壁面を連想しました。
一転上階は明るく精緻な空間でトップライトからの光が上から降ってくる“神々しい光”。
このトップライトの特長はトップライトがぽかっと天井に開いたパンテオンの開口の様に見えることです。もちろんガラスが嵌められていますが窓枠などの造作が隠されすっきりしたディテールです。
また、明るく精緻な地上部分と暗く縄文的な1階の空間の対比が面白いです。
また構成上面白いのは外壁がガラススクリーンで覆われているのに、2階以上には対照的に窓は基本的無いため壁面からの光も無くトップライトからの光のみの潔いほどの徹底ぶり。
②独特の素材感 独特の空間を形作る建築素材
この建物は1階の床、壁に石州瓦の焼成窯の棚板材を使ったり
打放しコンクリート面の本実型枠使用など
同じく内藤さん設計の島根県芸術センターの姉妹建物の様に感じます。
また空間全体に質感と緊張感溢れています。
使用材料は無垢材を使用。柱、天井のコンクリートしかり、床材しかり。
上階の壁を構成する木の無垢材、同じく無垢材で出来た入口の扉や引戸等。
私が訪問した時にちょうど「奇跡の一本松の根」展が開催されていました。
1階には津波が襲った中で唯一残った
まさにその松の根が中央に設えられていました。
暗い空間と相まって地中にいるような錯覚を覚え
地面の中の松の根を見ている様でその生命力にふれた気がしました。
そして2階から5階のアトリウム空間には松の幹が、
そしてトップライトを突き抜けて枝が伸びていくのではないかとの感覚を持ちまるでこの松の根のための建物と思わせるような展示と建物が一体となった瞬間でした。
③唯一無二を支える技術 裏付け技術と内藤ディテール
技術的な面を見てみましょう。
この建物は2階~5階を1階にある4本の太い柱のみで支えているため、
てっきり免震構造と思いましたが、そうではなく一般的な耐震構造です。
そのため1階のピロティ空間を支える4本の太い柱には
超密集の鉄筋の配筋がなされており、
更にコンクリート表し天井を可能にしコンクリートボックス感を出すために
逆梁構造を採用、その梁にはテンションをかけるためのケーブルが仕組まれています。
これらは1階に展示されている赤色の図面を見ると分かります。
そしてすっきりして一切付加物がないトップライト周り、
踊り場のない吹き抜け空間を横切る階段等。
併せて細い材による構成の手摺り子、
内壁の木材の張り方の妥協を許さない内藤ディテールのオンパレードです。
以上ですが 内藤氏の 紀尾井清堂 如何でしたでしょうか。
今回は内藤氏にしては珍しいガラスで囲まれた建築でした。
予想にたがわず精緻に作り込まれたこだわり感あふれる建物で感動すると共に職人の手の跡が感じることができる素晴らしい建物でした。
引き続き魅力あふれるこだわり建築を見ていきたいと思います。
つづく
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