一級建築士の街歩き10 表参道・原宿 “素材達”シリーズ ...時代を写す“コンクリート”達

今までに表参道·原宿(オモハラ)にある新旧たくさんの魅力的な建物を
“木”と“ガラス”という素材に注目しました。今回は3つ目の素材として“コンクリート”に注目してみました。

コンクリートは多くの建物を作る際に使われる大変一般的な材料ですが、
多くの建築家がその可能性に挑戦·開拓して時代とともに多くの建物を作ってきました。
ここではそうした時代背景にも目を向けて見てみたいと思います。

コンクリートは水とセメントの化学反応物なのですが、
元はと言えば植木鉢を鉄筋とセメントを使って強く作れると発明された事が始まりの様です。
固まればそれこそ強いコンクリートですが、固まるまでは大変デリケートで、暑すぎても寒すぎてもまた乾燥し過ぎても強いコンクリートになりません。

それではいつもの様に明治神宮をスタートして建物を見ていきましょう。

オモハラは現在まで時代とともに姿を変容して発展してきていますが
そこに大きな節目の年があると思います。

1つ目は100年前の明治神宮建設(1920年創建)、
2つ目は57年前:終戦後の米国の接収時期を経て1964年の第1回東京オリンピックそして、
3つ目は現在2021年の第2回東京オリンピックです。

目次================

⑴“コンクリート”は時代を体現
⑵"コンクリート"は街の顔
⑶“コンクリート"は闘い
⑷“コンクリート"を残す
⑸"コンクリート"は競う

=========================

⑴“コンクリート”は時代を体現

明治神宮に隣接してその圧倒的なオーラを発しているのが
丹下健三設計の代々木体育館(現国立屋内総合競技場) 。
時代は高度成長期の真っ只中。それこそあちこちで杭打ちの音が響いていました。
私が小学生時代に木造校舎が鉄筋コンクリート校舎に建て替えられました。
そんな中での1964年東京オリンピック。リアルタイムで “ザ·昭和” を体感。


世界初の大規模な2つの曲線の作る吊り構造による造形です。
配置計画には都市の軸を取り込んで明治神宮との関係や
渋谷駅、原宿駅からの人の流れを考慮しています。

巴(ともえ)型と渦巻き型2つの造形、コンクリートのうねる壁、油圧ダンパー等 数え挙げれば切りがないくらいの数々のエピソードとともに語られる傑作です。
構造設計家坪井善勝との二人三脚の挑戦の数々。最近国の重要文化財に指定されました。

高度成長期の中、この建物は工期わずか18ヶ月で建てられました。
使用されたコンクリート量は第1体育館だけでも3万㎥。
3万㎥のコンクリートを打つと言うことはミキサー車で言うと
1台あたり3㎥として1万台にもなってしまうので道路状況、運搬時間を考慮して第1体育館向けコンクリートは現場に生コンプラントを作って対応したそうです。
何もかも桁外れです。


この頃丹下氏は米国の設計者サーリネンと競っていました。
サーリネンは1958年にイェール大学ホッケーリンクをコンクリートによる
吊り構造で既に完成させていましたが、
規模、構造とも代々木は別次元の建物と思います。


吊り構造という技術も素晴らしい上にそれがもたらす古代寺院を思わせる重厚な外観、荘厳な内観も素晴らしい。
そして内部の大きな空調ノズルがまた格好いい。
丹下氏は‘55年広島ピースセンター(広島平和記念資料館)、‘58年香川県庁舎に続き見事に時代の要請に応えました。
まさに昭和と言う時代を体現。この勢いで‘70年の大阪万博へ。
また丹下氏は東京カテドラル聖マリア大聖堂を同年に竣工。
HP(Hyperbolic paraboloidal:双曲放物)シェル構造のコンクリート、内部打放しの空間。傑作の連発。



⑵"コンクリート"は街の顔 

コープオリンピア:清水建設

原宿セントラルアパートと共に、おしゃれで裕福な人たちや
ファッションに敏感な人たちを引きつけたオモハラの街の顔
原宿セントラルアパートなき後、コープオリンピアは今でも元気な姿を見せてくれています。


⑶“コンクリート"は闘い

ご存じ闘う建築家安藤忠雄氏設計の表参道ヒルズです。
同潤会アパート敷地跡に建つ安藤氏の代名詞ともなったきれいな打ち放しコンクリート。
安藤氏によりコンクリートは一気に構造体から仕上げ材へ押し上げられたと思います。


打放しコンクリート面を見るときにいつも気になるのは表面の平滑性は勿論ですが、コンクリート面にあるピーコンという型枠つなぎ棒の端部の丸い跡の位置です。
一般的な型枠は通常900mmx1800mmの畳一畳の大きさでそれを留めるピーコンは6個です。
これがきれいに並んでいると打ち放し面もすっきりします。
きれいな型枠割になるように配慮して外観のデザインを計画するのは
打ち放しコンクリートの建物を設計する際には基本となります。

ちなみに安藤氏の出世作として有名な大阪に建つ住吉の長屋のファサードは
ピーコンが左右対象に60個きれいに並んでいます(数えました)。

どうしたらこんなにつるつるのコンクリートを打てるのでしょうか。
型枠は当初は細い板を並べ作っていましたが、次第に合板を使うようになりました。
また、平滑性を出すために型枠面を塗装してつるつるにしたものを最近では一般的に使います。

あとは腕の良い型枠大工さん、固練りコンクリート、天気、湿度、気合い等。

外国にもきれいな打放しコンクリートがあります。
L.カーン設計のキンベル美術館(フォートワース、USA)のボールト天井面です。
きっとこれは金属製の型枠を使ったのではないかと想像します。
安藤氏の住吉の長屋に先行すること4年、今から50年程前のつるつるのコンクリート。
後年そのキンベル美術館に隣接して安藤氏が美術館を設計したことは偶然としても興味深いことです。


打放しは一発勝負。型枠をはずしてまだら模様が出たらどうするか?

それは補修するしかないです。
以前はモルタル(セメント+砂+水)を上に薄く塗っていましたが、
最近では絵を描くように塗料で打放し面に見えるように補修する場合もあります。

打放しコンクリート建築の完成後は汚れとの闘いです。
最近では表面に撥水剤を塗って水をはじく処理を行っています。
竣工後大分たった打放し建築が汚れる様子を見るのは哀しいです。
きちっとしたメンテがとても大切です。

スイスにあるルドルフ·シュタイナー設計の“ゲーテアヌム”
建築史家·建築家の藤森照信氏によるとコンクリート打放し。
完成後90年近く経ちますが非常にきれいでおそらくコンクリート打設の状況もさることながら空気や雨が汚れていない等の環境面が大きく貢献しているのではないかとの話です。
私も以前この建物を見ましたが打放しコンクリートとは全然気づかない程きれいな外観でした。
都会の空気の汚れや日本の湿度は打放しコンクリートには厳しい環境です。

他にもオモハラのエリアに2つの安藤建築(LA COLLEZIONE、Bank Gallery)がありますので
時間があれば是非それもご覧下さい。

⑷“コンクリート"を残す

表参道ヒルズが建つ前には同潤会青山アパートが建っていました。
低層コンクリートの住戸が建ち気持ちの良い雰囲気の一帯でした。
その一部が表参道ヒルズに再建されています。

再び体感できるヒューマンスケールの心地よい空間です。

この新たに再建された同潤会アパートを見て、
もし“リファイニング建築(再生建築)”としたらどんなふうに再生·活用されただろうかと想像しました。

“リファイニング建築”とはその道の第一人者青木茂氏のネーミング。
老朽化した建物を取り壊すことなく再生、延命に留まらず、新たな命を吹き込む手法。
スクラップ&ビルドへの提言溢れる取り組みです。
クリアーすべき問題点は山積、構造体強度、現行法規への適格性、
補強方法等いくつもの高いハードルにも関わらず新たな価値を生み出しています。
また環境インパクトも抑えられ時代にマッチした手法です。

そう思うとオリジナルの同潤会アパートを一部でも残した“リファイニング建築”だったらまたどんな価値を生み出してくれるかちょっとわくわくしてしまいました。


⑸"コンクリート"は競う

團紀彦設計のBOSSは本実型枠使用の打ち放しコンクリート。
隣接するのはTOD’S表参道ビル(現Kering Building):伊東豊雄設計。 
かたやケヤキ並木をファサードに反映して枝ぶりを織り込み、かたやケヤキの幹にも見える円筒形の建物。
近づいて見ると型枠の模様が転写されています。
きっと設計者にはその幹の先に更に高い枝ぶりが見えていたことでしょう。
同じコンクリートを使っていながら異なる発想でケヤキ並木へのオマージュを互いに競っています。


···それではいつもの様にまたちょっと脇道へ。

まだまだ面白い“コンクリート”達が沢山いますよ。


後半へ続く!

いいなと思ったら応援しよう!