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一級建築士の街歩き07         設計者から見た”こだわり建築”シリーズ 「ルイ・ヴィトン 銀座並木通り店」                       銀座のど真ん中に輝くさざ波ふたつ       その2                設計:AS, Peter Marino Architect 他

前回は銀座のど真ん中に輝く“さざ波 その1” とし内藤廣氏の銀座に建つ「ミキモト銀座4丁目本店」を見てみました。今回は“さざ波 その2”として青木淳氏設計の「ルイ・ヴィトン 銀座並木通り店」を見てみたいと思います。

青木氏はルイ・ヴィトン(LV)の店舗を多く手がけてきていて今回は12作目、銀座に限って言うと4件目となります。

そしてその都度その場にふさわしい建築を作り上げてきました。
さて今回は一体どんなLVを作ったのでしょうか。


目次

①ヒントは印象派絵画 

②“水の柱”をどう実現したのでしょうか

③実はもう一枚あった“ラ・グルヌイエール”


④動画で見る面白い建物の見方

①ヒントは印象派絵画

今回取り上げるのは今まであった銀座並木通り店を建て替えた新たなLVの店舗です。
旧銀座並木通り店は明治時代の銀座のシンボルでもあったレンガ建物のイメージでデザインされていました。
今回新しい建物ではそれを更にさかのぼって江戸時代に銀座周辺が水辺だったことより発想しました。

外観は一度見たら忘れられない異次元の印象。

そのイメージは“水の柱”を表現したものです。



今回表現のヒントとしたのが印象派画家モネの絵画“ラ・グルヌイエール”(1869年)

パリ郊外のセーヌ河畔の水浴場を描いたものですが印象派の始まりを告げる画期的な絵画です。

この絵で大きく描かれているユラユラと揺れる水面が様々な色合いの絵具を置いておくことで描かれています。それが青木氏のインスピレーションを刺激しました。


絵具を混ぜるのでなく置いておくように描くことにより見た目には混ざって見える技法は印象派の特徴的な描き方で“筆触分割”と呼ばれました。
それにより明るく光り輝く絵画を作り上げました。
印象派の画家は「何を描く」でなく「どう描く」が重要と考えたのです。



②“水の柱”をどう実現したのでしょうか

それでは青木氏はモネの絵から得たインスピレーションをどの様に具現化していったのでしょうか。

今までかなりダイレクトにイメージを形に反映していった傾向があると思います。

ルイ・ヴィトン表参道店                      @haruka.soga
ルイ・ヴィトン メゾン大阪御堂筋店

今回のポイントは外壁の色合いと曲面でいかに水面を表現するかです。

まず色合いを出すために選定したのが“ダイクロイック(多層金属皮膜)・コーティング”。
内装やディスプレイ素材のフィルム状のものはあったようですが、建築材料としてはほとんど使われた事はありませんでした。

初めての大々的なダイクロイック・コーティングの採用にあたってはどんな苦労があったのでしょうか。

表情を決めるのはコーティングの色の反射具合と表面のガラスの曲面がポイントです。

ダイクロイック・コーティングで見せたい色を反射させることで外壁のガラスがどのような色に見えるかをコントロール出来ます。

あとは感性やセンスの勝負となりますが、同時に実際に色合いや表面パターンの微妙に違ったモックアップを実際の敷地の銀座に吊るしてどう見えるかで最終的に判断決定したそうです。


次に曲面ですが外側のガラスはゆらゆら揺れる水面を表現するためにできるだけ連続する面を構成出来るようにガラスを金属枠なしで取付けています。


またガラスは室内側にもう一枚取付けられています。そしてそのガラスにはグラデーションフィルムが張られていて、それが外部にところどころ見える細長の楕円状の窓のように見える部分を作り出しています。


このようにコーティングやフィルムで色や見え方をコントロールしていますが面白い事に構成するガラス自体には色はついていません。


そして最終的に外壁のガラスは出っ張っているところは外側に50mm、引っ込んでいるところは内側に50mm、合計100mmの凸凹の三次元の曲面ガラスで水面を作り上げています。


これらの製品は中国で製作されました。コスト面の判断ではないかと思いますが、製作にあたっての伝達、指導、検査の大変さに加え、現場での取付けは建物の建ち並ぶ狭い銀座。
足場との間のとても狭いスペースでの作業など考えただけでも苦労が忍ばれます。


先日建物を訪れた際に向いの建物のショーウィンドーのディスプレイが意識してかしらずかちょうどLVの外観とコラボしていましいた。


③実はもう一枚あった“ラ・グルヌイエール”

実は先の“ラ・グルヌイエール”にはもう一枚別の画家による同名の絵がありました。

それがルノワールによる“ラ・グルヌイエール” (1869年)

モネとルノワールは親友で共に売れない画家であった20代、セーヌ河畔でキャンバスを並べて描いたのがこの同タイトルの絵。

2枚の絵を比べてみると面白いです。アングルはほぼ同じものの描き方も違いますし受ける印象も違います。

私にはモネの方は、水面がユラユラと揺れてゆったり光っているように見えます。

一方、ルノワールは水面をより色を置いておくように描いており、水面がキラキラとしているように見えます。

そして私はこう思うのですが、青木氏のLV並木通りがモネの “ラ・グルヌイエール” ならば

前回紹介した鳥羽の海を表現した内藤氏のミキモト銀座4丁目本店はルノワールの“ラ・グルヌイエール”ではないかと。

前述したように印象派では色彩の明るさを表現するために絵の具を混ぜずに点描の様に置くように描くのですが、内藤氏はまさしくミキモトのファサードを絵の具を置くように小さなガラスピースでキラキラする水面を表現したからです。

④動画で見る面白い建物の見方


もう一つ面白い見方として静止画としてこの二つの建物を見るだけでなく、動画として見たらどう見えるのでしょうか。 

歩くにつれて青木氏のLVは曲面ガラスにより反射光がユラユラして水面が一層ゆったり揺れている感じを見ることが出来きます。

一方、内藤氏のミキモトは小さなガラスピースが刻一刻とキラキラ輝く水面を表現しているのが良く分かります。

尚、ミキモトのキラキラ輝くファサードを見るには朝日の当たる午前中がおすすめです。



また並木通りLVの最上階のカフェも個性的なインテリアでおすすめです。
是非立ち寄ってみて下さい。
私も珈琲をこの空間で楽しみ少し贅沢な気持ちになりました。
天井は水面を下から見上げたように、ソーサーは水玉のように見えます。



最後までお読み頂きありがとうございます。
まだまだ面白い“こだわり建築”を見ていきたいと思います。

つづく

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