こけらいふvol.18 アシガール
森本梢子先生作品、好き
森本梢子先生の漫画の、完結するタイミングには毎度舌を巻く。もっと引き延ばしてもよさそうなところだが、今後の登場人物たちがハッピーエンドを迎えるんだろうという確信もありつつ、無数の面白い未来の可能性を示唆させるようなエンディング。
登場人物たちは老若男女問わず魅力的で、生き生きとしている。何度でも彼らに再び会いたいと思うから、何度でも読み返してしまう。
ヒロインの変遷も面白い。ごくせんのヤンクミのあとは、フリフリの服を着たワン子であったり、空想にふけりがちな木絵の次は、走ることだけが取り柄だった唯。服装や場所の設定は様々であるが、どの主人公も、表情豊かで、まっすぐで、何のねたみもなく、応援したいと思わせる魅力がある。
アシガールの名脇役たち
アシガールの作中の人物の顔立ちはコミカルで、しもぶくれであったり、馬面だったり、絵巻物や浮世絵を参照して描かれたような体つきの女性であったりと、キャラデザを見ているだけで楽しい。
また、親子で顔立ちや眉毛、顔つきが似ていて、絵を見ただけで親子関係が想像できる。森本先生の確かな筆力を感じるし、実際に親子ってこうだよねぇって思えるのも楽しい。
脇役たち一人ひとりへの、唯のツッコミも容赦がなく、愛にあふれていて面白い。
戦を描くということ
アシガールの中での戦の描写、唯や尊が死体を目にして尻込みして動けなくなるシーンや、じぃに刀を向けられてへたり込む唯の描写は、戦国であることをしっかりと刻みこんでいる。奥方たちの中の覚悟や、家臣たちの覚悟、コミカルに描かれているが、「戦国時代」のリアリティ、そこが現代とは違う場所、価値観の上にあることをしっかりと描き切っている。
恋のライバルの不在
高台家の人々、でもそうであったが、ヒロインとヒーローは、基本的にずっと両思いである。若君と結婚したい女君たちも出てくるが、若君は唯に一途であるし、唯は若君を守り、独占する。
他の女に取られないためになんでもする唯の姿は、まっすぐで見ていて気持ちがよい。行動としては、唯の方が悪役らしいのに、カラっと困難を乗り越えていく姿として描かれているから、全く嫌な感じがしないのだ。唯はいわゆる王道の、優しくてよく悩む繊細なヒロインとは真逆だ。ではライバルキャラ(悪役令嬢)かというと、それもしっくりこない。普通の少女(足は)速すぎるけどだ。どちらかというとジャンプのバトル漫画の主人公のような、竹を割ったような性格をしている。足が速いという一芸で家族や周りの人に助けられながら、困難や敵を倒していく、ジャンプ的ラブコメディでもあるし、周囲の人間もそれぞれ幸せになっていく、戦国時代版のホームドラマという感じもする。
王道ジャンプ漫画主人公の唯に対して、若君の造形はどうであろうか。
しかし若君は主人公に一途で、特に悪いところもない、王道の少女漫画のヒーローである。とにかく立派で、しかし年相応のところもある。しゃべり方が古風なのも素敵だ。
唯が一目ぼれをするのも納得である。
最後に
現実には残念ながら若君も唯もいないので、我々は漫画の中で二人と邂逅する。隔たれた時を生きていた彼らを出会わせたのも漫画の持つファンタジーな力である。
漫画ありがとう。森本先生ありがとう。一生ついていきます。