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条文解説【著作権法第6条(保護を受ける著作物)】

著作権法第6条(保護を受ける著作物):
 
「著作物は、次の各号のいずれかに該当するものに限り、この法律による保護を受ける。
(ⅰ) 日本国民(わが国の法令に基づいて設立された法人及び国内に主たる事務所を有する法人を含む。以下同じ。)の著作物
(ⅱ) 最初に国内において発行された著作物(最初に国外において発行されたが、その発行の日から30日以内に国内において発行されたものを含む。)
(ⅲ) 前二号に掲げるもののほか、条約によりわが国が保護の義務を負う著作物」
 
(注) 著作権法において、「国内」とは、「この法律の施行地」をいい(2条1項24号)、「国外」とは「この法律の施行地外の地域」をいいます(同25号)。
 
本条は、わが国の著作権法によって「保護を受ける著作物」(著作権者に無断で勝手に利用してはいけない著作物)の適用範囲を明らかにしたものです。
以下の①~③の「いずれかに」該当するものであれば、日本国内において著作権法によって保護されることになります。
 
① 国籍要件(1号)…日本国民が創作した著作物
 
「日本国民」には、かっこ書にあるように、「わが国の法令に基づいて設立された法人」及び「国内に主たる事務所を有する法人」が含まれます。また、「法人」には、「法人格を有しない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるもの」(例えば、自治会やPTAなど)が含まれます(2条6項)。
日本国籍を有する者が創作した著作物であれば、その発行未発行、公表未公表のいかんを問いません。
なお、二人以上の者が共同して創作する共同著作物(2条1項12号)については、共同著作者のうちの1人が「日本国民」であれば、本号に該当する著作物としてわが国の著作権法の下で保護されると解されます。
 
② 発行地要件(2号)…最初に日本国内で発行された著作物(最初に外国で発行されたが、その発行後30日以内に日本国内で発行された著作物を含む)
 
外国人(日本国籍を有しない者)の著作物については、それが最初に日本国内で発行された場合には、当該外国人の国籍のいかんを問わず、わが国の著作権法によって保護されることになります。最初の発行地が外国であっても、その日から30日以内に日本国内で発行されれば、当該外国がいずれの国であっても、わが国で保護されることになります。
ここで「発行」とは何か(どのような状態のことを言うか)については、第3条に解釈規定が置かれています。それによれば、著作物は、「その性質に応じ公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数」の複製物(コピー)が、正当な権利者によって作成され、適法に頒布された場合に、その著作物が「発行」されたものとして扱われます(3条1項)。したがって、正当な権利者から適法に頒布されていない場合には、いかに外見的には「発行」に見えても、著作権法上の「発行」に至っているとは認められませんので注意してください。
 
③ 条約要件…条約によりわが国が保護義務を負う著作物(3号)
 
わが国は現在、ベルヌ条約及び万国著作権条約を締結し、さらにWTOに加盟しているため、これらの条約によって保護義務を負うこととなる著作物については、当然、わが国の著作権法の下で保護されることになります。第3号は、このことを(注意的に)述べています。
ここでは、現在、著作権保護にとって最も重要な(影響力のある)ベルヌ条約上、ベルヌ同盟国が保護義務を負う著作物について簡単に説明します。
わが国を含めて、ベルヌ同盟国が保護義務を負う著作物は、次のとおりです(ベルヌ条約3条及び4条参照):
〇ベルヌ同盟国の国民である著作者の著作物(発行されているか否かを問わない)(条約3条(1)(a))
〇ベルヌ同盟国で最初に発行された著作物(同盟国を含む2以上の国での30日以内の同時発行を含む)(条約3条(1)(b)・(4))
〇ベルヌ同盟国に常居所を有する著作者の著作物(条約3条(1)(a)・(2))
〇ベルヌ同盟国に主たる事務所又は常居所を有する者が製作者である映画の著作物(条約4条(a))
〇ベルヌ同盟国で建設された建築の著作物、又はベルヌ同盟国に所在する建物その他の建造物に組み込まれている美術的著作物(条約4条(b))
なお、以上のベルヌ条約3条及び4条は、TRIPS協定9条1及びWIPO著作権条約3条を介して、同協定の加盟国間、同条約の締約国間でも適用されることになります。
 
【参考】
☆一般に,我が国について既に効力が生じている多数国間条約に未承認国が事後に加入した場合,当該条約に基づき締約国が負担する義務が普遍的価値を有する一般国際法上の義務であるときなどは格別,未承認国の加入により未承認国との間に当該条約上の権利義務関係が直ちに生ずると解することはできず,我が国は,当該未承認国との間における当該条約に基づく権利義務関係を発生させるか否かを選択することができるものと解するのが相当である。
これをベルヌ条約についてみると,同条約は,同盟国の国民を著作者とする著作物を保護する一方(3条(1)(a)),非同盟国の国民を著作者とする著作物については,同盟国において最初に発行されるか,非同盟国と同盟国において同時に発行された場合に保護するにとどまる(同(b))など,非同盟国の国民の著作物を一般的に保護するものではない。したがって,同条約は,同盟国という国家の枠組みを前提として著作権の保護を図るものであり,普遍的価値を有する一般国際法上の義務を締約国に負担させるものではない。
そして,事実関係等によれば,我が国について既に効力を生じている同条約に未承認国である北朝鮮が加入した際,同条約が北朝鮮について効力を生じた旨の告示は行われておらず,外務省文部科学省は,我が国は,北朝鮮の国民の著作物について,同条約の同盟国の国民の著作物として保護する義務を同条約により負うものではないとの見解を示しているというのであるから,我が国は,未承認国である北朝鮮の加入にかかわらず,同国との間における同条約に基づく権利義務関係は発生しないという立場を採っているものというべきである。
以上の諸事情を考慮すれば,我が国は,同条約3条(1)(a)に基づき北朝鮮の国民の著作物を保護する義務を負うものではなく,本件各映画は,著作権法6条3号所定の著作物には当たらないと解するのが相当である。
<平成23年12月8日最高裁判所第一小法廷[平成21(受)602]>
 

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