『アメリカ著作権制度の解説/職務書作物の意義とその取扱い(1)』/キーワード~アメリカの著作権制度~
『アメリカ著作権制度の解説/職務書作物の意義とその取扱い(1)』
▶ 職務著作物の権利の帰属
米国著作権法においても、著作権は、当該著作物の著作者に原始的に帰属するのが大原則です(201条(a))**。そして、この著作権の原始的な帰属主体である「著作者」とは、原則として、当該著作物を実際に創作した者のことです。
しかしながら、以上の原則に対して、重大な例外があります。これが、「職務著作物」("a work made for hire" また、判例などでは単に"a work for hire"と表記する場合があります。)に関する規定です(201条(b))**。
米国著作権法201条(b)は、「職務著作物」が作成された場合には、使用者(雇用主)その他当該著作物が作成される者が著作者とみなされ、当事者間に署名した書面による反対の明示的な合意がない限り、その使用者(雇用主)その他当該著作物が作成される者が当該著作権に含まれるすべての権利を有することになる旨が規定されています。
**米国著作権法201条[著作権の帰属]
§ 201. Ownership of copyright
(a) INITIAL OWNERSHIP. — Copyright in a work protected under this title vests initially in the author or authors of the work. The authors of a joint work are coowners of copyright in the work.
(b) WORKS MADE FOR HIRE. — In the case of a work made for hire, the employer or other person for whom the work was prepared is considered the author for purposes of this title, and, unless the parties have expressly agreed otherwise in a written instrument signed by them, owns all of the rights comprised in the copyright.
《対訳》
(a) 原始的帰属―本編に基づいて保護される著作物に対する著作権は、当該著作物の著作者に原始的に帰属する。共同著作物の著作者は、当該著作物に対する著作権の共有者である。
(b) 職務著作物―職務著作物の場合、使用者[雇用主]その他当該著作物が作成される者は、本編において著作者とみなされ、また、当事者がその署名した書面で別段の明示的な合意をしていない場合に限り、当該著作権に含まれるすべての権利を有する。
著作物が有形的表現媒体に固定されると直ちに当該著作権に係わるすべての権利が著作者のもとに発生し、したがって、著作権は、著作者に原始的に帰属することとなり、当該著作者及びこの者から適法に権利を譲渡された者のみが当該著作権を主張できるのが基本原則です。「職務著作物」に関する取扱いは、上述のとおり、この原則に対する例外に当たり、実務上も非常に重要です。
米国著作権法は、後述しますように、その定義規定(101条)において“a work made for hire”(「職務著作物」)に関する規定を設けています。そして、この「職務著作物」に対する権利の帰属関係については上記のとおりです(201条(b))。ある著作物が「職務著作物」と認定されると、その著作物を実際に創作した“employee”(被用者)ではなく、“the employer or other person for whom the work was prepared”(「使用者(雇用主)その他当該著作物が作成される者」)が著作者とみなされることになり、当事者間の署名された書面による明示的な合意で別の定めがなければ、この「使用者」等が、職務著作物に係る著作権を構成するすべての権利を保有することになります。
なお、職務著作物に係る著作権が帰属し得る「使用者」は、法人格を有する会社や研究機関の場合が多いと思われますが、この他にも、法人格のない非営利団体や他人を雇い入れる個人(自然人)なども「使用者」となりえます。
ある著作物が「職務著作物」に該当するか否かは、以上のように著作権の原始的な帰属主体の問題にかかわってくるだけでなく、著作権の存続期間(302条(c))や所定の場合の更新延長(304条(a))、さらには権利移転等に関する終了権(203条(a))等に係わる問題でもあります。そのため、職務著作物に関する法理(the work for hire doctrine)は、特に、フリーランスのクリエーター(アーティスト、作家、写真家、デザイナー、作曲家、プログラマーなど)や、彼らに仕事(作品の制作や執筆)を委託する側(出版者、広告主、音楽プロダクションなど)にとって重要な意義を有することになります。