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条文解説【著作権法第20条】

著作権法第20条(同一性保持権):
 
「1 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
2 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。
(ⅰ) 第33条第1項(同条第4項において準用する場合を含む。)、第33条の2第1項、第33条の3第1項又は第34四条第1項の規定により著作物を利用する場合における用字又は用語の変更その他の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められるもの
(ⅱ) 建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変
(ⅲ) 特定の電子計算機においては実行し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において実行し得るようにするため、又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に実行し得るようにするために必要な改変
(ⅳ) 前三号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」
 
▶同一性保持権とは
 
著作者に与えられる、「著作物又は題号にその意に反して改変(変更・切除等)を受けない権利」を「同一性保持権」といいます。つまり、自分の著作物の内容(中身)や題号(タイトル)を、自分の意に反して無断で改変されない権利が同一性保持権です(1項)。著作者の人格的利益を積極的に保護するために認められる権利です。
ここで、著作物及び題号についてのその意に反する「変更、切除その他の改変」とは、著作者の意に反して、著作物の外面的表現形式に増減変更を加えることを意味するものと解されます。例えば、「著作者に無断で、他人がスペースの都合上著作物の一部を勝手にカットしたり再編集する行為」は、原則として同一性保持権の侵害となります。これらの行為によって著作物が質的に劣ったものになるか否かは問題ではありません。「平仮名表記を漢字表記に変更する」こと、「アラビア数字を漢用数字に変更する」こと、「疑問符や感嘆符を付加あるいは削除する」ことなども、著作物の外面的表現形式に増減変更を加えることに他ならず、そのため、原則的には、同一性保持権の侵害行為となります。裁判例の中には送り仮名の変更や読点の切除、中黒「・」を読点に変更したこと、改行の省略が「改変」に当たると認定したものがあります(平成3年12月19日東京高等裁判所[平成2(ネ)4279]参照)。
 
▶「パロディー」は同一性保持権を侵害するか
 
「複製」(21条参照)はもちろんのこと、「翻案」(27条参照)にも該当せず、したがって、著作権の侵害行為にならない行為を同一性保持権の侵害行為と認定することは妥当ではありません。そのため、他人の著作物を自己の著作物に取り込んで利用したとしても、その表現形式上の本質的な特徴を直接感得させないような態様でこれを利用する行為は、当該他人の著作物の同一性保持権を侵害しないと解されます。一方、著作物Bが著作物Aとは別個の思想・感情を表現するに至っていると見られる場合でも、なお著作物Bから著作物Aの本質的な特徴自体を直接感得しうるものであるときは、著作物Aを著作物Bに一体的に取り込んで利用する行為は、著作物Aについての同一性保持権を侵害する改変である、とする最高裁の判例があります(昭和55年3月28日最高裁判所第三小法廷[昭和51(オ)923]参照)。いわゆる「パロディー」は、著作者の同意を得ない限り(自分の著作物のパロディーに同意を与える著作者はあまりいないと思いますが…)、一般的には同一性保持権を侵害する行為であると解されます。
 
▶題号の改変にも同一性保持権は及ぶ
 
著作物の「題号」(タイトル)そのものは通常「著作物」(2条1項1号)に該当しないため、これに著作権が発生することはありませんが、一方で、著作物の題号は、当該著作物と結合して一体となって著作物の同一性を表象する役割を担います。そのため、小説や音楽などの題号の無断改変も同一性保持権の侵害になりうる点に注意してください。
裁判例の中には、ゲームソフトのタイトルを『毎日がすぷらった』⇒『まいにちがすぷらった!』に変更した行為を題号の改変に当たると認定したものがあります(平成13年08月30日大阪地方裁判所[平成12(ワ)10231]参照)。
 
▶同一性保持権が及ばない「改変」とは(第2項の解説)
 
次の判示部分が、第2項の趣旨を端的に述べています(前掲平成3年12月19日東京高等裁判所[平成2(ネ)4279]参照):
『著作権法は、著作物は、著作者の人格の反映であることから、前述のように、著作者の意に反する著作物に対する変更、切除、改変等の行為を禁止し、著作物の同一性を保持することにより著作者の人格権の保護を図っているものである。しかしながら、他方、かかる同一性保持権を厳格に貫いた場合には当該著作物の利用上支障が生じ、かつ、著作権者においても同一性保持権に対する侵害を受忍するのが相当であると認められる場合については、同条2項において、著作権者の意思に係らしめず、その同意を得ることなく変更、切除、改変等の行為が許容される例外的場合を規定しているところである。』
 
第2項各号は、真に止むを得ない場合において必要最小限度で許容される改変を規定したもので、これらは厳格に解釈適用されるべきで、安易な拡大解釈は避けるべきである、とするのが通説です。
 
(1号) 所定の規定によって(教科用図書や教科用代替教材等への掲載、教科用拡大図書等の作成、学校教育番組の放送等において)著作物を自由に利用できる場合における用字・用語の変更その他の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められる行為は、同一性保持権の侵害には当たりません。
例えば、常用漢字以外の漢字をひらがなに改める、旧仮名遣いを現代仮名遣いに改めるなどの行為がこれに該当します。同一性保持権に対する教育的配慮からの制限です。
 
(2号) 建築物の増改築、修繕、模様替えによる改変は、同一性保持権の侵害には当たりません。
建築物の実用的・経済的見地から、主として居住という実用目的に供される建築物の効用を維持増大される増築改築等の行為に対する同一性保持権の制約を規定したものです。建築物の取り壊し自体は、通常は、同一性保持権侵害の問題とはなり得ないと解されます。
 
(3号) 特定のコンピュータで利用できないプログラムの著作物を当該コンピュータで利用できるようにするための改変、又はプログラムの著作物をより効果的に利用し得るようにするために必要な改変は、同一性保持権の侵害には当たりません。
例えば、プログラムにバグ(誤り)があるため利用できない場合にそのバグを取り除くこと、プログラムの処理速度を上げるため又はバージョンアップによる機能追加のための改変など。このような行為は、通常、プログラムの著作者の人格的利益を害すると考えられないことから、同一性保持権を制限したものです。
 
(4号) その他、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしてやむを得ないと認められる改変は、同一性保持権の侵害には当たりません。
例えば、明らかの誤字脱字を修正すること、絵画の出版にあたり印刷技術上の制約により原画の微妙な色彩が忠実に再現できないことなど。劇場用映画をテレビ放送する際に行われる短縮・再編集(トリミング)については、事情に応じて、これを「やむを得ないと認められる改変」と解される場合もあり得ます(平成10年07月13日東京高等裁判所[平成7(ネ)3529]参照)。
 
なお、著作物を全く改変しない場合であっても、「著作者の名誉又は声望を害する方法」によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権の侵害行為とみなされます(113条11項)。

【より詳しい情報→】【著作権に関する相談→】http://www.kls-law.org/

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