判例セレクション~美術著作物~
「カスタマイズドール用ボディ素体」の著作物性を否定した事例
▶平成24年11月29日東京地方裁判所[ 平成23(ワ)6621]
(注) 原告各商品は,カスタマイズドール用ボディ素体である。いわゆる「カスタマイズドール」とは,頭部,胴体及び四肢部分で構成された人の裸体の外観形態を模写したヌードボディである「素体」(頭部を除くヌードボディ単体のものも含む。以下同じ。)に,自らの好みにあわせ,ウィッグ(かつら),衣類等を組み合わせたり,彩色(アイペイント,メイク等),加工,改造等をすることにより作り上げる人形をいう。
3 争点3(著作権侵害の成否)について
(1) 争点3-1(著作物性)について
原告は,①カスタマイズドールの需要者は,まず裸の状態のボディ素体の形状を鑑賞して好みのボディを選択し,その上で,好みのボディに,好みのアクセサリーを装着させ,自らの趣向でドールを完成させて鑑賞するという段階を踏むことからすると,ボディ素体自体を鑑賞目的で制作されたものと受け取ること,②ボディ素体は,一品制作のものではないが,卓越した独自の技術を持つ職人が一体一体を丁寧に制作するものであるから,一品制作の美術作品と同等の美的創作性を備え得ること,③原告商品1の販売が開始された平成15年6月当時,「全高約50㎝以上の大型サイズのカスタマイズドール(女性)用ボディ素体」の市場において,原告各商品の形態上の特徴を有するボディ素体は存在しなかったことからすると,その形態上の特徴は,原告の個性が表れ,原告の思想又は感情が創作的に表現されたものということができることを理由に,原告各商品は,「純粋美術」又はこれと同視し得る程度の美的創作性を具備する「応用美術」として,著作権法によって保護される美術の著作物(著作権法10条1項4号)に該当する旨主張する。
ア そこで検討するに,「カスタマイズドール」は,頭部,胴体及び四肢部分で構成された人の裸体の外観形態を模写したヌードボディである「素体」に,自らの好みにあわせ,ウィッグ(かつら),衣類等を組み合わせたり,彩色(アイペイント,メイク等),加工,改造等をすることにより作り上げる人形であることに照らすならば,原告各商品のようなカスタマイズドール用素体を購入する通常の需要者においては,自らの好みにあわせて作り上げた人形本体(カスタマイズドール)を鑑賞の対象とすることはあっても,その素材である素体自体を鑑賞の対象とするものとは考え難く,また,原告が主張するような素体を選択する際に当該素体を見ることは,鑑賞に当たるものということはできない。
また,そもそも,原告各商品は,販売目的で量産される商品であって,一品制作の美術品とは異なるものである。
以上によれば,原告各商品が「純粋美術」として美術の著作物(著作権法10条1項4号)に該当するとの原告の主張は,採用することができない。
イ 次に,原告が原告の思想又は感情が創作的に表現されたものであると主張する原告各商品の形態上の特徴は,原告商品共通形態と同内容のものであるところ,原告商品共通形態(本件原告商品形態)は,前記で認定したように,形態上の独自性を認めることはできず,カスタマイズドール用素体としてありふれたものといわざるを得ないものであり,また,全高約50㎝ないし60㎝という原告各商品の大きさ自体に創作性があるものと認めることもできない。
したがって,原告各商品が純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備しているとの原告の主張は,採用することができない。
ウ 以上によれば,原告各商品が「純粋美術」又はこれと同視し得る程度の美的創作性を具備する「応用美術」として著作権法によって保護される美術の著作物(著作権法10条1項4号)に該当するとの原告の主張は,理由がない。
(2) まとめ
以上のとおりであるから,その余の点について判断するまでもなく,被告による被告各商品の製造が原告各商品について原告が保有する著作権の侵害行為に該当するとの原告の主張は,理由がない。