条文解説【第18条(公表権)】
著作権法第18条(公表権):
「1 著作者は、その著作物でまだ公表されていないもの(その同意を得ないで公表された著作物を含む。以下この条において同じ。)を公衆に提供し、又は提示する権利を有する。当該著作物を原著作物とする二次的著作物についても、同様とする。
2 著作者は、次の各号に掲げる場合には、当該各号に掲げる行為について同意したものと推定する。
(ⅰ) その著作物でまだ公表されていないものの著作権を譲渡した場合 当該著作物をその著作権の行使により公衆に提供し、又は提示すること。
(ⅱ) その美術の著作物又は写真の著作物でまだ公表されていないものの原作品を譲渡した場合 これらの著作物をその原作品による展示の方法で公衆に提示すること。
(ⅲ) 第29条の規定によりその映画の著作物の著作権が映画製作者に帰属した場合 当該著作物をその著作権の行使により公衆に提供し、又は提示すること。
(3項~4項略)」
本条は、未公表の著作物を公表するか否か等を決定する権利は、原作品やその複製物を直接的に提供し、提示する場合であろうと、その二次的著作物を通して間接的に提供し、提示する場合であろうと、そのいずれであるかを問わず、著作者が有することを定めた規定です。
著作者は、「その著作物でまだ公表されていないもの(その同意を得ないで公表された著作物を含む。)を公衆に提供し、又は提示する権利」を有するとされています(1項)。この「自己の未公表著作物を公衆に提供し、提示する権利」が、「公表権」と呼ばれているものです。「(著作物を)公衆に提供し、提示する」行為は、著作権法上の「公表」(4条参照)と重なっているため、「公表権」と名付けられています。
「公表権」とは、著作者に認められている、未公表著作物の公表に係わる決定権のことですが、具体的には、次の3つの内容を含むものとされています:
① 自己の未公表著作物を公衆に提供し又は提示するか否かを決定すること。
② 公衆に提供し又は提示するとしたならば、いかなる態様で公表するか(例えば、出版か、上演か、放送か等)を決定すること。
③ いつ・いかなる時期に公衆に提供し又は提示するかを決定すること。
公表権は、いわば、まだ公表されていない自分の著作物を無断で公表されない権利ですから、「著作者の同意を得ずに無断でその著作物を公表する行為」は、公表権の侵害となり得ます。さらに、「著作者による著作物の公表(公衆への提供提示)を無権限で妨害する行為」も公表権の侵害となりうると解されます。もっとも、公表権をもって、著作者が第三者に対し自己の著作物を公衆に提供し又は提示することを積極的に請求する権限まで認めるものではないと解されます。
公表権の対象となる未公表著作物には、「著作者の同意を得ないで公表された著作物」が含まれます(1項かっこ書)。そのため、外見上は公表されているように見えても、それが著作者の同意を得ずになされたものであれば、公表権との関係では「公表されていない」(未公表)ものとして扱われ、よって、そのような著作物をさらに著作者に無断で公衆に提供し又は提示する行為には、なお公表権が働きます。注意してください。
▶未公表の二次的著作物を公表する場合
(例) 小説(原著作物)→脚本(二次的著作物)→公表
例えば、まだ公表されていない小説(原著作物)を脚色して、ある脚本が作成されたとします。この脚本は、原著作物である小説の「二次的著作物」(2条1項11号)になるのですが、当該脚本がまだ公表されていない場合には、その原著作物である小説の著作者には公表権が認められます(1項後段はこのことを述べています)。したがって、当該脚本(二次的著作物)を公衆に提供し又は提示する場合には、その脚本の著作者の同意を取り付けることはもちろんですが、そのもとになっている小説(原著作物)の著作者の同意も必要になります。彼らの同意を得ずに脚本を公表すれば、彼らの有する公表権を侵害することになります。この点も留意してください。
▶公表の同意の推定(第2項)
著作者は、次に掲げる場合には、所定の行為(公表)について同意したものと「推定」**されます。
**(注) 以下の所定の行為(公表)には法律上著作者の公表意思が推定されるため、当該行為(公表)を著作者の同意を得ずに行ったとしても、通常は、つまり同意の推定が覆る事情がない限り、公表権を侵害することには当たりません。
① 未公表の著作物(例えば、楽曲)の「著作権」を譲渡した場合→その著作物(楽曲)を著作権の行使により公衆に提供し、提示すること(例えば、演奏権を行使して公衆の面前で楽曲を演奏すること)→当該演奏について公表の同意が推定される(1号)
公表権の存在によって著作権の行使に過度の制約を加えることを回避するためです。
② 未公表の美術著作物又は写真著作物の「原作品」を譲渡した場合→これらの著作物をその原作品による展示の方法で公衆に提示すること→当該展示について公表の同意が推定される(2号)。
原作品の所有権との調整を図るための規定です。
③ 第29条の規定によりその「映画著作物の著作権」が映画製作者に帰属した場合→当該著作物を著作権の行使により公衆に提供し、提示すること(例えば、上映権を行使して公衆の面前で映画を上映すること)→当該上映について公表の同意が推定される(3号)
上記①と同様に、公表権の存在によって著作権の行使に過度の制約を加えることを回避するための手当です。
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