職務著作の法意/判例セレクション~職務著作~
職務著作の法意
▶平成19年9月14日東京地方裁判所[平成19(ワ)11535]▶平成20年07月30日知的財産高等裁判所[平成19(ネ)10082]
[控訴審]
…… そして,著作者が著作物を創作する者であることは,新・旧著作権法において変わりがないものと解され,前記の裁判例にみられるように,「著作者の精神的所産たる思想内容の独創的表現」,「精神的労作の所産である思想または感情の独創的表白」という事実行為としての創作行為を行うことができるのは自然人であることからすれば,旧著作権法において著作者となり得るのは原則として自然人であると解すべきである。
イ もっとも,新著作権法は,法人等における著作物の創作の実態等から,一定の要件の下に法人等の被用者が職務上作成する著作物についてその著作者を当該法人等とする職務著作の規定(15条)を設け,前記原則[注:「著作者となり得るのは原則として自然人である」という原則]の例外を規定している。すなわち,法人等において被用者が職務上作成する著作物には多種多様なものが含まれ,様々な創作態様のものがあるところ,被用者が雇用契約等に基づく指揮監督の下に作成する著作物には,作成に関与した個々の被用者の個性の表出が乏しいうえ,その中には創作行為に関与した者の特定が必ずしも容易ではなく,また,仮にその特定ができた場合であっても複数の作成関与者の創作行為の範囲や寄与の程度等を明らかにすることが困難なものが多数あり得ること,そのため,それが法人等の名義で公表されることが予定される場合には,公表により法人等が当該著作物に対する社会的な責任を負うと同時にこれに対する社会的な評価をも受けることとなるため,個々の作成関与者については当該著作物に関する人格的利益の保護を考慮することを要しないものと考えられること,法人等の経済的な負担において作成されたそれらの著作物を当該法人等が利用するに当たり,当該著作物の権利関係を集中し,明確にしなければ,その円滑な利用に支障を来す場合が少なくないものと考えられること,それゆえそのような著作物については,法人等と作成に関与した被用者との間において,当該著作物の著作権を法人等に原始的に帰属させるとするのが当事者の意思に沿うものと推測されること等の法人等における著作物の創作の実態や当該著作物の利用の便宜の必要性等を考慮し,新著作権法は,一定の要件の下に法人等が著作者となることを認めている。