『アメリカ著作権制度の解説/職務書作物の意義とその取扱い(2)』/キーワード~アメリカの著作権制度~
『アメリカ著作権制度の解説/職務書作物の意義とその取扱い(2)』
▶ 職務著作物の定義
それでは、次に、以上のように非常に重要な概念である「職務著作物」とは何か、という話に移ります。
「職務著作物」という概念を理解するに当たっては、まずこれに関する米国著作権法上の定義規定を理解しなければなりません。しかし、「職務著作物」を解釈するに当たって重要な概念となる“employee”(「被用者」)及び“scope of employment”(「職務の範囲」)については定義規定が設けられていないことから、判例における解釈を検討することも重要な作業になります。
なお、判例に関しては、職務著作物性に関する代表的なケースである「Community for Creative Non-Violence v. Reid, 490 U.S. 730(1989)」(以下、CCNVケースという。)を参照してください。以下の記述中には、CCNVケースで判示された考え方(解釈)を含んでいます。
米国著作権法では、「職務著作物」を2つの場面に大別して定義しています。すなわち、
(1) 被用者の職務の範囲内でその被用者が作成する場面(以下、この場面を便宜上「101条(1)」と称します。)と、
(2) 特別に注文又は委託を受けた者が個別の契約に基づいて作成する場面(いわゆるインディペンデント・コントラクター(独立業務請負人)を思い浮かべてください。)(以下、この場面を便宜上「101条(2)」と称します。)
を想定して、定義規定を設けています。
より具体的に言うと、次のとおりです。
・「101条(1)」…「被用者」(employee)が「その職務の範囲内で」(within the scope of his or her employment)作成する著作物は、「職務著作物」とされます。
・「101条(2)」…特別に(制作の)注文又は委託がされた著作物については、それが次の9つのカテゴリーのいずれかに使用するためのものであって、かつ、当事者が署名した書面において当該著作物を職務著作物とする旨の明示的な合意がなされている場合に限って、「職務著作物」とみなされます。
① 集合著作物への寄与物(a contribution to a collective work)
② 映画その他の視聴覚著作物の一部(a part of a motion picture or other audiovisual work)
③ 翻訳物(translation)
④ 補足的著作物(supplementary work)
⑤ 編集著作物(compilation)
⑥ 教科書(instructional text)
⑦ 試験問題(test)
⑧ 試験問題の解答資料(answer material for a test)
⑨ 地図帳(atlas)
したがって、特別に注文又は委託がなされた著作物について、当事者が署名した書面において当該著作物を職務著作物とする旨の明示的な合意がなされている場合でも、上記の9つのいずれのカテゴリーにも該当しないもの(例えば、CCNVケースで問題となった「彫刻」など)は、その作成が101条(1)に該当しない限り、「職務著作物」とはなりえません。
ある著作物が「職務著作物」に該当するか否かは、当事者間の関係性によって決せられることになりますが、定義規定が存在していても、この判断は実際上非常に難しいといえます。
ある著作物が「職務著作物」に該当するか否かを認定するためには、裁判所は、まず、コモンロー上の一般的なエイジェンシー法における原則を用いて、問題となっている著作物が「被用者」(employee)によって制作されたものか、それとも「独立業務請負人」(independent contractor)によって制作されたものかを確定し、次いで、上記「101条(1)」又は「101条(2)」のいずれかふさわしい条項を適用するという手順を踏みます。つまり、ある著作物が「被用者」によって作成されたものであれば101条(1)の残りの要件への適合性が検討され、作成した者が「被用者」に当たらず、「独立業務請負人」(特別に制作の注文又は委託を受けた者)であれば、101条(2)の残りの要件がクリアされているかが問題とされるわけです。
他人に「使われる者」(a hired party)がある著作物の作成した場合に、その者が「被用者」(コモンロー上の一般的なエイジェンシー法における被用者)に当たるか否かを判定する際には、主として次のような要素(要因)が考慮(検討)されます。ただし、以下の要素(検討事項)のうちいずれか1つが決定的なものとして解釈するべきではなく、個別のケースごとに諸要素を総合的に考慮して、「職務著作物」の可否を決するべきであると解されます。
✔当該作成物の完成に至る態様及び手段に対して使用者がそれらをコントローする権利(その権利の有無や程度)
✔当該作成物の完成に要求される技術(技能)
✔当該作成物の完成に必要な道具類の提供元
✔作業場所
✔当事者の関係が継続した期間
✔使用者が使われる者に対し追加的なプロジェクトを割り当てる権限を有するかどうか
✔いつ、どのくらいの時間作業をするかについて使われる者が有している裁量の程度
✔賃金や報酬の支払い方法
✔アシスタント(作業助手)の採用及びその者への賃金の支払いに際しての使われる者の役割
✔当該作成物の創作が使用者の通常の業務の一部であるかどうか
✔使用者が事業に従事する者かどうか
✔被用者の諸手当に関する規定
✔使われる者の税金の取り扱い
職務著作物を認定する際の上記の諸要素(factors)は、「網羅的な」(exhaustive)ものではありませんが、いわゆる「普通の会社員」や「正規の従業員」の立場にあれば、以上の諸要因(のすべて又はそのほとんど)を通常は当然に備えていることになりそうです。したがって、雇用主(会社)との間で別の合意(自社の会社員や従業員が創作した著作物に係る権利は会社に帰属しないとの特別の合意)があれば格別、それでない限り、「定期的な給与の支払いのある雇用関係」(a regular, salaried employment relationship)にある者がその職務との関係で著作物を創作すれば、通常、当該著作物の著作者はその雇用主である、ということは明確に言えそうです。
最後に、参考までに、アメリカ著作権局の「回覧告知」(circular)に例示されている具体例(職務著作物の射程内に入る例)を掲載しておきます。
〇 コンピュータ会社のプログラマーがその職務の範囲内で創作したソフトウェア(A software program created within the scope of his or her duties by a staff programmer for Creative Computer Corporation)
〇 新聞社の社員である記者によって書かれた新聞記事(A newspaper article written by a staff journalist for publication in the newspaper that employs him)
〇 アレンジャー(編曲者)が音楽会社からスタッフとして給与の支払いを受けて編曲した楽曲(A musical arrangement written for XYZ Music Company by a salaried arranger on its staff)
〇 レコード会社の従業員であるエンジニアによってなされた録音物(A sound recording created by the salaried staff engineers of ABC Record Company)
AK