The Lord of the Contracts Ⅱ ~見えない影~

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大きく息を吸い込んで、送信ボタンを押した。

「やはりうちのひな形でお願いします」

リーガルには確認しなかった。「こいつはダメだ、なんか気持ち悪い」とざっと目を通してMのNDAのひな形を見て思った。NDAが送られてきてから返信まで30分もかからなかった。

でも、不安があった。断られたらどうしよう、と。

翌日、返信のメールがきた。

「わかりました」

と。ホッとした。ホッとした反面、何回かやりとりが発生するだろうなという予感がすこしわずらわしくもあった。こちらは自社のフォーマットを使いたいように(私は楽だからだけれど)先方も自社のフォーマットを使いたい理由があるはずだから。

でも、Mのフォーマットは使いたくなかった。第1条から気持ち悪かった。なんとなく不安にかられた。わざわざ繰り返して書いてあるから。第1項にも第2項にも、第3項にも。。。

”秘密である旨の表示がされている情報”

のみが秘密であると。もちろん、それはそうなのだろうけど、しつこいくらいに書いてあるとそれをうっかり表示し忘れた情報は秘密ではない扱いをされて開示される恐れがあるのではないかと感じるくらい。

もっと気持ち悪く感じた点があった。それは機密情報の開示範囲のところで、よくあるのは「関連会社」に開示する場合は漏えいにあたらないとする文言だが、MのNDAには、Mの親会社、Mの親会社の子会社、関連会社、関係会社に開示、提供できるとあった。それは関連会社と同じ意味でしょ?と言われるかもしれないが、Mは日本の法人であるが、親会社は海外の会社だ。事業内容はまったく違う。それにMの親会社が大きな企業グループであるため、その中にどんな子会社があるかわからない。

日本で、日本でサービスをしているMのサービスをしたいと思っているのに、全く事業ドメインが違う海外の親会社にうちの秘密を吸い上げらる!と思った時に頭をよぎった。

このNDAは、海外の親会社に秘密を提供することを前提に作られている!!

つづく


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