
何気ない言葉に救われて。幸せを淹れるインスタント☕
「コーヒー飲んでるの、もかぜだったのか。なんかコーヒーの匂いしたからさ」
どこからかやってきた先輩に声を掛けられました。
パンとコーヒーと豆菓子、そしてヨーグルトというお昼ごはん中のことです。
場所は会社の休憩スペースで、確かにそのときコーヒーを飲んでいたのは僕だけでした。
先輩はそれ以外のことは何も言わずに立ち去りましたけど、仲の良い誰かがいると思ったのかなと想像してみたり。
先輩と会話しているのをよく見かけるその方々も、やはりコーヒーをよく飲んでいらっしゃいますから。
きっとお話をしたかったのですね。
あるいは単純に、誰が飲んでいるのか少し気になっただけかもしれませんけど、まあそれはどちらでもいいことです。
そんなことよりも僕が以外に思ったのは、“コーヒーの匂いがした”というところ。
そんなに香りがしていたのか、と軽く驚きました。
といいますのも、僕がコーヒーを飲むときは何故かそこまで香りを感じられない気がするからです。
全くしないのではなく、薄いといいますかよく分からないといいますか。
それなのに他の人がコーヒーを飲んでいるときは、近くを通るだけでとてもいい香りがするし何よりおいしそうだし、良いなあと思うのです。
他の人達はパーソナルドリップで僕はインスタントだからか、それとも自分で淹れているからなのか。
そもそもがそういうものなのかと、半ば諦めてはいました。
ところがどっこい、このとき飲んでいたのもいつもと同じインスタントコーヒーにもかかわらず、先輩の口振りからしてどうやら香っているらしいじゃないですか。
言われても自分ではいまいち分かりませんでしたけど、その言葉を聞いてちょっと嬉しくなっていました。
だって、僕が今までずっと飲んでいた黒い液体は、ちゃんとコーヒーだったのだと分かったのですから。
そりゃインスタントとはいえ、コーヒーなのですからコーヒーに決まっていますよ当たり前です。
何を今さら。
でもそう、インスタントなのです。
豆を挽いて、フィルターをなんかして、蒸らしてドリップして──等と手間をかけていない、お手軽で美味しいコーヒー。
お手軽なのは嬉しい、美味しいのも大歓迎です。
しかし心のどこかでは、単に本格的なものから逃げて楽をしているだけ、とも思ってしまっています。
コーヒーはコーヒーでもコーヒー擬き、そんなものばかり飲んでいて、果たしてコーヒー好きと言っていいのかと勝手に気後れしていました。
そんなときに掛けられた、先輩の件の言葉。
何気なく放たれたであろうその言葉には、およそ遠慮会釈のないことは想像に難くありません。
それ故に、ありのままの事実がそのまま伝わってきました。
即ち、しっかりとコーヒーの香りが漂っていたと、僕が飲んでいたインスタントコーヒーは香りがしないのではなかったと、ちゃんとコーヒーと言うに足る飲み物であったと。
そんな客観的な評価を思い掛けず与えられて、ややもすれば卑屈になっていた僕は、なんだか自分のことまで肯定されたように感じてしまいました。
そう、ですよね。
インスタントだってパーソナルドリップだって、豆を挽いて淹れたのだってコーヒーですものね。
缶やペットボトル、紙パック入りのものもそう。
好きな人は好きなだけこだわっていけばいいし、気軽に楽しみたい人はインスタントでもなんでも、もちろんカフェや喫茶店に通ったっていい。
楽しむ人の数だけ楽しみ方があって、誰もがそれらを虐げたり邪魔したりすることもなくて、一人で飲んでも皆で飲んでも美味しい。
コーヒーにはそんな懐の深さがあると勝手に思ってます。
僕は以前、ブラックコーヒーを飲んでもおいしく感じられませんでした。
ところが美味しいインスタントコーヒーに出会ってからというもの、コーヒーの味が少し分かるようになりまして、今ではブラックも美味しく飲めているのです。
またそれがある種のきっかけとなって、今や珈琲所コメダ珈琲店にちょくちょく行くまでになりました。
お店のコーヒーはもちろん美味しい、でもインスタントだってちゃんと美味しいです。
「足るを知る」とは少し違うかもしれませんけど、普段はインスタントでときどきコメダ、どちらかに偏ることなくそれぞれの良さを味わい楽しめていることはとても喜ばしく思います。
それにしても、まさかこんなにコーヒーが好きになるとは思いませんでした。
あるとき父親が淹れてくれた砂糖入りの甘いインスタントコーヒーに始まり、スティックのコーヒーミックスを経て再びインスタントへ、今度は砂糖無しで。
実家でも会社でも自宅でも、楽しいときもつらいときも、いつも傍らにあったのはインスタントコーヒーでした。
手軽に淹れてほっと一息、少しだけ自分を取り戻せる時間です。
きっと、ちょっぴり幸せになる魔法がかけられているのでしょう。
なんのはなしです珈。
カフェインでしょうか。
↓唐突に本紹介。
主人公の尾内香良さんが丁寧に淹れるコーヒー、それがとても美味しそうな物語です。
もちろん、インスタントではありませんよ。
自分で豆を挽いて淹れるコーヒーには、ちょっと憧れてます。
僕もいずれは……、無理かな。
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
みなさまのコーヒー時間が、心安らぐものでありますように☕