PCX150 2024#41 水没復旧
水没した、なんとかできないか?
と、聞かされたらなんと答えるか、ぼくは選択肢を用意していなかった。
基本的には、修理できないバイクはないと考えている。
ただ、時間と費用を無限大に考えれば、の話である。
状況としてはシート下のボックスまで水に浸かったと言う。
ということは、駆動系、エアクリーナー、ガソリンタンクの交換になるじゃないかな、最低でも。
スロットルボディから泥水を吸い込んでいて、クランクケースまで流れてこんでいたら、エンジンまるごと換装か、腰下オーバーホール、最悪はクランクシャフト交換になる。
・・・そりゃ諦めたほうがよいかと思いますよ。
と伝えるつもりで現場へ向かった。
対面で改めて状況を聞くと、川の氾濫とかなどで浸水したのではなく、走行中に集中豪雨に遭い深みにはまって停止した、と聞かされた。
うーむ雨宿りの一択でしたねとは思ったが、言ってもはじまらない。
思っていたよりも水に浸かっていた時間は短いようだけれど、PCXの給油口は足元にあるので、ガソリンタンクにも水が入ったのではなかろうか。
すでに水道水で洗車して丸一日経っているけれど、エアクリーナーボックスから水滴が落ちた痕跡が地面にはある。
まあダメだろうね、と説得するには、どうしたものか、手始めにエンジンオイルを抜いてみた。
ところが、意外と白濁していない。
参ったな、エアクリーナーボックスを開けてみよう。
洗車したところで中に入った泥水は抜けないだろうからね。
と、開けてみると、多少水が出てきたが、思ったほどは多くないし、汚れてもいない。
ただ、エレメントはしっかり湿っている。
では、クランクケースカバーの中を見てみましょう。
PCXは冷却のためか排熱のためか、密閉されていないので、大量に水が入り込んだはず。
開けてみると水は出てこなかったが、びっしりと泥が張りついていた。
ついで、ミッションオイルも抜いてみましょう。
エアクリーナーから水が出てきたということは、ブリーザーホースがつながっているミッションケースにも水が入った可能性が高い。
試しに、と少しだけドレンボルトを緩めると、見事に白濁したオイルが出てきた。
そして、点火プラグを外して吸出し用ホースを入れる。
これをやるためにエアコンプレッサを持ってきた。
が、液体はまるで出てこない。
ここまで見てきて、意外といけるかも、と考えはじめた。
もちろん、オイル交換とエアインテーク経路、それから駆動系の掃除は必要だけれど、廃車までは考えなくてもよいか、に傾いた。
まだ、ガソリンタンクを見ていないので、タンクに水が大量に入っているかで判断しましょう、と伝えた。
ガソリンタンクに水が入った場合、ごっそりガソリンを入れ換えるか、タンクを外して洗浄後にコーティングして戻したい。
それはそうなんだけど、どちらも大がかりな作業になり、とうぜん時間もかかる。
けれども、ガソリンタンク内に全く水が無い状態も考えづらく、程度の問題だとぼくは考えている。
スクーターの多くは、ガソリンタンクがステップ下に配置してあって、ポンプで吸い上げる構成なので、タンク内の水が燃焼室まで運ばれる確率は低いのではないかと思われる。
ということで、インジェクターに送られてくるガソリンの状態を見てみることにした。
透明なペットボトルにホースを差し込んで、メインスイッチをひねると、ガソリンが流れ出てくる。
そのペットボトルをしばらく放置すると、比重の大きい水が下に溜まって、ガソリンと二層に分かれる。
が、いつまでたっても層ができない。
うむむ、「水没した」と言うわりに軽症なのかもしれない。
なんてことがあるのか、まだ半信半疑ではある。
あらためて、どこまで沈んだのでしょう?と尋ねても、ヒザ上まではきたよ、と言う。
たしかにラゲッジボックス内は泥水が入った痕跡があったし、エアクリーナーボックスからも水が出てきた。
けれども、シリンダーから水は出てこなかったし、タンク内のガソリンも悪くはなさそうだ。
では、スロットルボディにクリーナーを入れて、始動を試みてみましょう。
インジェクターのところに、キレイといえないまでも使えそうなガソリンがきているのだから、スロットルボディが作動するなら始動できるはず。
駆動系は外してはいないけれど、泥は吹き飛ばしたので、完全でなくても動きはするであろう。
白濁したミッションオイルがかき回されてしまうけど、もともとベアリング交換を予定していたので、エンジン始動が優先でよかろう。
手でドライブプーリーを回すと、やや軽い感触がしたが、デコンプがついていることに後から思いいたった。
もともと防水コネクタが使われているので水には強い構成だし、ガゾリンを抜くのにキーONにしても、燃料ポンプは作動したしエンジンチェックランプも点いていない。
試してみてください。
ここはオーナーにお願いした。
たぶん、始動できるであろうと考えたのと、セルモーターが回ったときの挙動を観察しておきたかった。
セルモーターが回るとサイレンサーの水抜き穴から大量の水が出てきた。
が、拍子抜けするほどあっさり始動した。
ちょっとうるさい気がする、と言うけれど、サイレンサーに水が残っている分、反響するんだろうな。
完全に乾くまでは様子を見る、でよいでしょう、たぶん、中でサビは出ちゃうだろうけど。
ホイールの軸周辺やブレーキまわりもいったん外して点検したほうがよいけど、少し乗ってみてもうるさいだけで違和感はないと言うので、おいおいやっていきましょう、とした。
おそらく、ご本人が感じたほど深みにはハマっていなくて、思っているより時間が短かったんだろうな。
というか、エンジン再始動できたのは奇跡ですよ。
PCXは水没しても簡単に復旧できる、と考えてもらっては困る。