ZEPHERχ 2023#3 スロットルケーブル交換
日曜日の日暮れ、ラッパの軽妙な音楽がテレビから流れる頃合いに電話が鳴った。
ゼファー乗りからだ。
「乗っていたら急にスロットルが軽くなって、エンジンが反応しなくなっちゃったんですけど、なにが起きたと思います?」
よくあるといえば、よくある。
たぶん、ケーブル切れですよ。キャブレターを観察しながらスロットルを回してみてください。動いてないでしょう。
この人は、あるていど自分で整備をやる人物である。
けれど、機構的なことはあまり知識がなく、勉強中といったところである。
特殊工具が必要だったり、少しめんどうな作業のときにだけ作業を依頼される傾向がある。
整備動画を観ては自分もマネして、たいていの場合、その通りにならなかったので見てくれ、と調整を頼まれたりする。
すこし話はそれるが、YouTubeにあがっている整備動画を観ていると、いい道具使ってるなぁ、と感心するか、この整備は乱暴すぎないか?のどちらかの感想を持つことが多い。
綿密な準備や調査にかける時間などは動画上に現れることがほとんどないので、非常に困難な、あるいは時間のかかる作業を、やったことのない人が簡単な作業と勘違いするようになった気がする。
じつは、このセファーカイ氏からは何度か、キャブレタのオーバーホールをやってくれないか?と言われたことがある。
ぼくはバキュームゲージを持っていないので、と、そのたびに断っていた。
その後、自前でバキュームゲージを購入し、キャブレタを降ろして、バタフライバルブを取り外して元に戻せなくなり、中古のキャブレタをコンプリートで購入した、と聞いた。
そういう事情があって、彼のゼファーカイは見るたびにカタチが変わっている。
問題のスロットルは1本引きになっていて、生きているケーブルを移動させる方法が取れない。
ということで、レッカーを呼んで運ぶか、近くのバイク屋か自宅まで手で押していくか、乱暴な修理をその場でやるか、のどれかだね。
「わりと近くにいるんで、動かせるようにできるか見に来てもらえませんか?」
じつはぼくには勝算があった。
手元に原付車用ではあるけれど新品のケーブルがあり、補修用のタイコもストックがある。
もっとも、4連キャブ用にはワイヤーは細いだろうし、補修用タイコは使ったことがないので耐久性はどのくらいかはわからない。
自宅までは10kmくらいの所にいるらしいので、それくらいは大丈夫であろう。
と、教えてもらった場所に着くと、すでにガソリンタンクが降ろされ、ヘッドライト側にスロットルケーブルが垂れ下がった状態になっていた。
キャブレタ側のスロットルリンケージを見ると残骸が確認できた。
タイコは収まったままで、ケーブルが数センチ飛び出している。
どうやら、アジャスタと擦れたのが原因のようだ。
困った。
まず、元のケーブルにタイコをつけ直すのはやめたほうがよかろう。
短くなっているので、最悪はスロットルが閉じなくなってしまう。
そして、原付用のケーブルを入れたとしても、アジャスタと擦れる状態は変わらないかもしれない。
となると、ますます耐久性が不安になる。
が、自走を選択したからには迷っていては時間のムダである。
切れたケーブルを引き抜いて、長さに合わせて持ってきた原付用ケーブルを切り、元のアウターに収めた。
外れることも想定して、補修用タイコはハンドル側に配置した。
キャブレタ側で外れたら、同じ作業を繰り返さないとならない。
どちらかといえば、切れる可能性のほうが高い気もするが。
到着してから約1時間で作業は終了した。
その間、すぐにケーブルを換えないと、いつ切れるかわからないよ、と繰り返し伝えた。
ほくが補修用タイコをストックしていたことの価値を、彼は解ってないだろうな、きっと。