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母が嘘つきだったことに気づいたのは大人になってからでした

嘘ってよくないですよね。
相手を傷つけるし、自分も傷つく。
そして嘘が明るみに出る時以上に嘘を吐き続ける間中、不必要に嘘を上書きして、治りかけの瘡蓋を切りつける。
いつしか硬くなった皮膚。
汚い痣を後悔するのは、純白のドレスで初めての道を歩きたいと絶望する時。
色んなクリーム、飲み薬を試しながら、嫌な事があると、無意識に昔の痣を傷つけている。

痣ができてしまったことはしょうがない。
いつまでも過去に縛られてはいけない。
でも、痣を治そうと自分を律しなかれば、再び過去に舞い戻ってしまう。

嘘は防衛本能であり、自傷行為。

傷つかなければ嘘ではない。
守ろうとしなければ嘘ではない。


先日、母から父が癌だと聞かされました。
母は直前まで楽しく一緒にショッピングしていました。
突然、ちょっと座りたいとベンチに誘われ、何事かと思うと、いきなり泣き出してしまいました。
母は病院で医師から話を聞き、1ヶ月近く、1人で悩んでいたようです。
同じタイミングで姉の妊娠がわかり、姉に心配をかけたくないという思いも強かったのでしょう。
母はおそらく末っ子の私に話すのにも勇気がいったでしょう。
私はただ聞いているしかできませんでした。
母は病名と医師からの話を話してくれ、泣きながらも前向きに話してくれました。
母は1人の時間で、自分自身で、父の癌治療に前向きに向き合うと覚悟を決めていました。
私が励ますより前に、自らや家族を励ます言葉をたくさん用意して、すでに自分の中に吸収し始めていました。
ずっと父の入院はただの貧血と骨折と聞いていました(どうやら病気のせいで貧血になり、転んで骨折して病院に行ったら分かったようです)。

母は家族と自分を守るために嘘をつきました。
嘘の時間はきっと辛くて苦しかったに違いありません。
でも、彼女が自分を傷つけながら頑丈にした痣のおかげで、家族はどうしようもない不安に早くから向き合うことができました。

今、父の治療が順調だから、そう思えるだけかもしれません。1ヶ月の間にもしものことがあった可能性もあります。

でも、母の嘘のおかげで私たち家族はこれまでもたくさんの出来事から守られてきました。
母は自分がいくらつらくても、家族を守るために嘘をつける人です。

私もいつか、汚い背中を卒業して、綺麗な痣を残せる母になりたいです。

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