眠っている間に胃カメラ
父が胃癌になった。
先日、母から聞かされた。
改善できない進行した胃癌らしい。
うちの実家は、昔、井戸水だった。
ピロリ菌がいると言われていた。
母と兄はすでに検査済みで陽性だった。
私は毎日ハイボール二杯飲んでいた。
しかし、数日前、急に夜中に吐いてしまった。
父のこともあり、思い立って二日後、胃カメラの予約を入れた。
「眠っている間に終わる胃カメラ」という地元の病院を予約したのは、午後二時半。
三十分前には最寄りの駅に着いた。
夜中に起きて吐いてしまった日からしばらく禁酒していて、
胃カメラの予約をしてからは優しい食事を心がけていた。
暴飲暴食だったので夕飯はスープか、お茶漬け。
もしくは、サラダチキンを軽く食べるという日々。
唐突だが、私は病院が嫌いだ。
健康診断すら怖い。
注射が嫌い、怖い。
ストレス(緊張?)で貧血になるから。
自分で思っている以上に自分がストレスに弱いことを分からされるから。
胃カメラ当日、受付を済ませ、医師と問診をして、
ロッカーに荷物を入れた(服はそのままだった)。
注射をされる準備が整った席に案内され
座る前に、「注射苦手で、寝ながらしてもいいですか?」と言った。
看護師さんはすぐに理解してくれた。
席に座ったまま、お腹の中の泡を消す薬を小さな紙コップで飲んだ。
美味しくないものだと看護師に言われたが、
思ったより味がなくて特に苦もなく飲み切った。
味以上に、この紙コップを飲みきったら、
いよいよ「やっぱり止めます」と言えなくなるのだ、
という恐怖のほうが怖かった。
すぐ近くのストレッチャーのところに寝かせられ、
看護師さんに注射を指すと言われた
(もう少し違う言い方だったと思うけど)。
看護師さんは注射が上手で、
言われなければ注射されたことに気づかないぐらいだった。
「太い血管に刺さったか確認するために食塩水を流しますね」と言われた。
どうやら今、注射されたところから鎮痛剤を流されるらしい。
そして、しばらく…
なかなか呼ばれない。
まだか、まだか、と思い、首をひねり、近くの壁掛け時計を見ると、
予約の時間から二十分は経っていた。
こんなに、何を待っているのかと思った。
私の不安を感じたのか、
看護師さんが「もう少しですからね」と声をかけてくれた。
ストレッチャーに寝かせられている私の周りには
学校の保健室のベッドの周りにある、
ベージュ色の上部が開いているカーテンがつけられている。
「……遅いね。……もう、三十分ぐらい?」
少し近くで数人の看護師さんの会話がうっすら聞こえてくる。
どうやら、私の前の治療室の人が長引いているらしい。
確かに、最初に病院のHPで読んだ様子だと、
15分ほどで終わるらしいが、
前の人はなぜか長引いているらしい。
午後三時十分。
いよいよ心配になってきた私に、最初に看護師さんが話しかけてくれる。
「大丈夫ですか? よければ待合室でテレビでも見ますか?」
私は寝ながら待つと答えた。
数分後、治療室のドアが開き、
中からストレッチャーが出てくる音が聞こえた。
そこからは、本当にあっという間。
それまでの時間が何だったのかと言うほど。
はつらつとした看護師さん二人に囲まれ、はきはきと説明されたが、
先ほどまでのゆったりとした時間とあまりにもスピード感が違って、
正確に何と言われたかは覚えていない。
治療室に入ると問診をしてくれた男性の医師が
「緊張していますか? 大丈夫ですよ。寝ている間に終わるので」
と言ってくれた。
以前、鎮静剤が効かず、
胃カメラ中に大暴れしたという同僚の話を聞いていたから
とても心配していたが、
看護師さんが右腕に刺さった注射器から鎮痛剤を流し込んだ数秒後、
目の前がぼやけてきた。
貧血前の感じに似ていたが、不安になる暇はなかった。
十数分後、私は治療室の外の最初の場所で保健室のカーテンに囲まれて、
看護師さんに声を掛けられた起きた。
その時に感想は……
『よく寝た~~~~!!』
という感じだった。
まさに、熟睡。
それまで体調不良などで寝不足だったこともあり、
熟睡できた感覚が逆にうれしかった。
壁時計を見ると、
鎮静剤を入れられて私が目覚めるまでの時間は本当に十数分だった。
よく眠れた気持ちがあまりにも大きくて、
最初より体調がよくなっている気がした。
翌日から胃カメラの影響で二日ほど、のどが痛かった
(もともと、私が扁桃腺が腫れている体質だったのもあるかもしれない)
ことと、生体検査のため、1~2日、食べ物の制限がある以外、
何も問題はなかった。
結果として、胃カメラはやってよかった。
毎年、バリウムだったが、
これからは胃カメラのほうが自分には合っているかもしれない。
経験としても、とてもよかった。
私はまだ、今の人生で自分の体にしていないことは多い。
普通の人がしていることも、していないことも含めて。
しかし、やってみると意外と大したことがないことが多いのだと、
この歳になってわかる。
これからも、やったことがないこともできる機会があれば、
やってみようと思った。
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