THE NEW COOL NOTER賞~小説講座 第1回「三点リーダと中線について」
THE NEW COOL NOTERコンテストに参加いただいている皆様。
ならびにみこちゃん出版を応援いただいている皆様。
赤星先生の「小説作法(文章作法)」について、本日より、一奥から連載させていただきます。
第一回となる今回は、紙の小説や、ネット小説を読む時には必ず見かける、ある特殊な文字記号達をご紹介します。
1 三点リーダについて
よく、小説を読む時に「……」という表現を見かけると思います。
キャラクターの台詞に続けて、絶句したり言葉を失っていることをあらわしたり、地の文の中で、時間の経過を表したり。
たとえば次の例文のように、無言であったり、言いよどむ場合などに使われます。
「君に責任があるってことだ」
「……」
「なぜ止めなかったんだ」
「それは……」
黒い点が、リズミカルに続く様が、ちょうど”拍”を表しているようで、刻々とした自然な鼓動のような効果を与えているようにも一奥は感じています。
これの正式名称は、表題にも書いた「三点リーダ」というものです。
ですが、文章作法上は「三点」と言いつつ「……」と、2つ重ねて使うというルールがあります。
一度知ってしまえば「三点」とか「三点リーダ」で変換すれば、あっさり「…」が出てくるのですが――小説初心者で、こういう用語も知らない時に、ほとんどの人が通るのが……
「・・・」
こいつを使ってしまうことですね。
見た目は非常に近いです。「・」は、正確には中黒(なかぐろ)と言うのですが、パソコンのキーボード上でもわかりやすい位置にあります。
「三点リーダ」という言葉と、概念を知らないうちは、しかしどこかで読んだことのある小説の表現と同じように、”拍”の鼓動を描こうとして、きっと咄嗟に「・・・」を打って、それがくせになってしまった、という方も多いことでしょう。
ですが、小説作法上はとても代表的な誤りで、これを知らないと、まだまだ小説で初心者マークがついたひよこ扱いされてしまう――そんな言葉。
ですが、今日ここでこれを読んだ貴方は、一つ知識を得ました。
試しにお手元のパソコンやスマホのメモ帳で「さんてん」または「さんてんりーだ」と打って、変換してみてください。
どうやっても出てこなかった、まるで魔法か特殊なソフトでも使って出しているんじゃないかと思われた「…」が、「・」を3つ打つという”代用”無しに出てくることを、知ったはずです。
ちなみに一奥は、単語登録機能を使って「……」の2文字を「さんてんりーだ」という読みから変換できるように登録しています(爆
ちょっと邪道かもしれませんが……とても便利でオススメですよ!(¯﹃¯*)
2 ダッシュについて
三点リーダよりも頻度は落ちますが、こんな文章記号も、小説などで時折見かけると思います。
「――」
例文としては、次の通り。
『妙な話(芥川龍之介)』より
一体あいつは何だったろう。――そう今になって考えると、
『走れメロス(太宰治)』より
やんぬる哉。――四肢を投げ出して、うとうと、まどろんでしまった。
上の三点リーダの解説の中でも、しれっと使っていた箇所がありましたね。これは正式には「ダッシュ」もしくは「中線」と呼びますが……さて、これも知らなかった頃、あるいは今正式名称を知ったという皆様。
どうやって「これっぽい」記号を出していたでしょうか。
多分、これじゃないですか。
「ー」
あるいはこれとか。
「-」
……noteの基本のフォントだとちょっとわかりにくいかもしれませんね。
1つ目は「長音」と言い、キーボードでいうと右上の……まさに何気なく言葉を伸ばす時に使う「キ<ー>ボ<ー>ド」の記号です。
とても押しやすい位置にあるし、見た目も「――(ダッシュ)」に似ているので、さっきの「……」に対する「・・・(中黒)」と同じように、今まで「――」を書いてきたつもりが実は単に「長音」を2回重ねていただけ、という人も多いかもしれません。
試しに「だっしゅ」と打って変換してみましょう。
すると、
「ー(長音)」とも
「-(マイナス)」とも異なる記号としての、
「―(ダッシュ)」が出てくるはずです。
これ、見た目似ていますがどれも意味の異なる記号なのですね。そして小説において「中線」として使うのは、通常は「―(ダッシュ)」です。
なお、こちらも「―」を2回重ねて「――」として使用するのが作法です。
2回重ねると、記号同士の違いが見えてきます。
長音だと …… 「ーー」
マイナスだと …… 「--」
間がぶつ切れてしまいますね。ですが、ダッシュだと……「――」という風に、通常はそのままつながって表示されます。
これが小説における「――」として重要な点。
ぶつ切れてしまったら「中線」の役割を果たせなくなってしまいますからね。
というわけで一奥は「なかせん」という読みに「――」を単語登録しております(*´ڡ`●)
3 「……」と「――」の使い分けについて
「……(三点リーダ)」は、1でも述べたように、会話文や一人称の地の文で多く使われます。
できごとや、会話の中で、キャラクターが沈黙していたり何かを考え込んでいる様を、拍のように、時間が経過している様を表す。
先の例文のように、困惑したり言葉を濁したりするような沈黙の場合や、何かを言いよどむ場面などが、わかりやすいでしょう。
その意味では、瞬間的・瞬発的な描写ではほとんど用いられません。
そうした描写でより使われやすいのが「――(中線、ダッシュ)」でしょう。
真一文字に、線を引いている様に、まるで刀を一閃するような緊張感が伴います。三点リーダと異なり、点々と鼓動するというよりは、一瞬の刹那のイメージがあり、読者の視線をただちに次の言葉に導いています。
あるいは、会話の途中で急に途切れてしまうような使い方も考えられますが、これも、三点リーダを使う場合と比較して「急に切れた」ということ。そのような、驚いたり息が詰まったりしたような沈黙、あるいは単に『間(刹那)』を示す場合に使用する場合が多いでしょう。
また、ダッシュは、()のように文や語句を補足・注釈するという使い方もあります。
例としては、次の通り。
彼はそのことを――彼以外の人間はとうに知っていたことではあるが――今朝初めて聞いたのである。
これもまた、文章を良い意味で切り取って、流れにメリハリをつけているとも言えるかもしれませんね。
4 ただし、多用は禁物です
キャラクターの心情や、特に会話において、まるで本当にしゃべっている声や音が聞こえてくるような「リズム」を作る上で、三点リーダと中線は、とても使い勝手のよい文章表現です。
しかし、便利だからといって、多用することは禁物です。
「……」
や
「――」
だらけの小説になると、今度は、逆にリズムが悪くなってしまうという弊害があります。
あくまでもアクセントとして、ある場面や台詞を強調したい時に、ワンポイント的に使うこと。
というのも、小説は読者の頭の中に、作者が表現しようとする場面や情景を浮かび上がらせるものなので、可能ならば「……」や「――」で表現しようとしているところも、文章で描写した方が丁寧だからです。
冒頭の三点リーダの例文で言えば、
「君に責任があるってことだ」
「……」
これは、次のように書けるはずです。
「君に責任があるってことだ」
山田は腑に落ちない表情で押し黙った。
こうした注意点については、第2回以降にも、繰り返し言及させていただこうと思います。
第1回は、以上となります。
いかがでしたでしょうか。
知らないと、わからない。わからないけれど、やってみたいから、似たもので代用してしまう。
そしてそれが癖になってしまう。
小説を書きたてた時の、そんな代表選手であるもののように思うのが「……」と「――」です。
知っているから、偉いというものではありません。
絶対にそうしないといけない、というものでもありません。
しかし、数多くの”物書き”の先人たちが作り上げてきた、そんな一つの伝統的な表現形式であることに注意することは、あなたが今後小説家として成長していく中で、大切な財産となります。
何気なく使っていた文章記号に、ちゃんとした名前と、正しい使い方があったのだということを知る。
そして使い方を知った上で、それが多用されることが、なぜ忌避されているかを知る。
そういうところから、
読者がどういうことに注目するのか。
そして、他の人はどんな風に表現しているのか。
そういう、小説を書いていく上で大切な視点が、育っていくのではないかなとも考えます。
”癖”をつけるならば、むしろ、そうしたものを調べる癖をつけるのがよいかもしれませんね。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?