【みこちゃん小説添削サービス】一奥の小説を添削してもらいました!
THE NEW COOL NOTERコンテスト、ならびにみこちゃん出版を応援いただいている皆様。
このたび、一奥が個人アカウントで書かせていただいていた小説を、第3回THE NEW COOL NOTERコンテスト小説部門に応募させていただきます。
そして、この際、みこちゃんにお願いして添削をしてもらいました。
通常は3,000円ですが、賞への応募者は、現在無料となっております。
ビシバシと添削され――
次のように、なりました。
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早志先輩との出会いは、大学の新歓だった。はやし、珍しい名前だった。
最初に会ったのは、学部入学式で隣に座った同期と仲良くなり、雰囲気の良いサークルがあるということで、三人で連れ立って参加した時のことである。
そのサークルでは新入生は全員スーツを着用するとのことだった。
新鮮な気分だった。
入学式のときの、新しい環境へ入っていくという緊張は薄らぎ、不安の中で浪人した受験勉強からの開放感もあり、新たな日々が始まることへの期待感に胸が高鳴る時期である。
スーツを着ているが、社会人じゃあない。でも、子供でもない。
大学のある駅の駅前にある、地方都市の夜の街。スーツ姿のサラリーマンが行き交う繁華街のネオンが、同じくスーツ姿の僕たちそ迎えてくれる。街が、これから先の4年間の楽しい日々を祝福してくれるかのように、心地よく感じられたのを覚えている。
そんな、静かに高揚した胸をかかえる、初めてスーツを着た集団が十数人、駅前で待ち合わせをした案内役の私服のニ年生に連れられていく。
『BAR O Navegador』は、僕がこの後「5年間」を過ごすことになるサークルで、イベントの折にいつも使われる場所だった。
壁際をぐるっと座席とソファや椅子が囲み、カウンターを挟んだ中央部分に立食用の高い丸机がぽつぽつとある広めの空間があって、移動のしやすい作りだ。
それでも、年に一度の新歓では、所狭しと人がひしめき合っている。
その人混みの中に、スーツ姿の早志先輩がいた。
だから、僕はスーツ姿だった早志先輩を、最初は同じ新入生だと思ったのだ。
小洒落たバーのど真ん中に黒張りのソファーに堂々と腕を組んで座り、不適な笑みを浮かべていた。スーツ姿の集団の中で彼だけが違って見えた。眼鏡と細い目であるにも関わらず、武者のようなただならぬ眼光と目があった時、この人の話が聞いてみたい、と自然に思ったのだった。
それで思い切って、その人の正面の席を確保したのである。
数十分もその人とだけしゃべっていた。そして始まったばかりの学校生活に関する話題になった時、驚きの言葉が耳に響いた。何の話だったか、残念ながらもうその文脈はもう忘れてしまったが、「俺はもう4年間も通ってるからなぁ」という言葉だった。
同じ新入生であると思っていたもんだから、完全にため口で話したし、今にして思えば先輩には許されないような生意気な物言いもずいぶんした。
しかし先輩だと気がついた僕がそれに萎縮したことにも頓着なしに、早志先輩はただ当然のように鋭い眼光で笑っていた。
他の先輩達からそこで悪戯っぽく笑われたりからかわれたり、生半なフォローでも入れば、僕は適当にお茶を濁して、他の新入生と話すように自分から席を移ったかも知れない。
しかし早志先輩が、酒のおかわりを名目にソファから離れた。ひしめき合う人の間を縫うように、かき分けるように、カウンター奥の小さな席へ移動してしまったのだった。
やっと手に入れた特権を手放したくない僕にとって、追いかけたのは当然の行動だった。
自分も追加のジントニックをカウンターで頼み、早志先輩が陣取った奥の丸机、背高の椅子に腰掛けて差し向かった。
普段どんな学生生活をしているのかを知りたくて、あれこれ話の続きをせがむように投げつけたものだ。もちろん、今度は敬語だ。
「俺なんかと話さないで、新入生の同期達ともっと話した方がいいんじゃないか」
話している相手から絶対に目を逸らさない人だと感じた。口の端を上げるような笑みを作り、早志先輩は煙草をくゆらせていた。
「いえ、僕は先輩の話が聞きたいです」
「変わった奴だなぁ、お前は」
結局一次会では、早志先輩をずっと独占していたのだった。
二次会では用事があるとのことで早志先輩は参加しなかった。僕は、やっと同期の人間と何とはなしに、とりとめもない話をした。
あ とから分かったことだが、早志先輩がスーツ姿であった理由は、単に就活中であったらしい。
就職活動が終わったその足で、新入生の歓迎に来てくれたわけだ。それを僕が同じ新入生であると早合点しただけだった。
誤解していた僕に対して即座に「四年生」であることを口にせず、しばらく自然に話を合わせてくれた。新入生だった僕に目線を合わせて会話してくれたのは、早志先輩がその眼光の鋭さとは裏腹に、とても気遣いのできる人だったのだと思う。
翌日キャンパスで見かけたので、しゃべりかけた。
「昨日はすみませんでした。四年生だとは思っても観ませんでした。でも、スーツの着こなし方がただ者じゃないと、どこかでは思ってましたよ」
「お前もな、達賀。塾講師かなんかやってたのか」
たつよし。
下の名前を初めて呼ばれた時は嬉しかった。
「はい。浪人時代中に、ちょこっと」
「そうか。そういえば俺も浪人したな。それで、お前はどんなことを子供たちに教えていたんだ」
どんなことを教えた…。
僕は答えに窮した。
あぁ、これがこの人がニ年生や三年生の先輩達から、ある意味で畏れられ、敬遠されている理由だったんだな。『BAR O Navegador』であの日、熱心に初対面の早志先輩と話し込む僕を取り囲む視線の正体を、僕はその時悟った。
あまりにも端的に、単刀直入に、早志先輩は入り込んでくるのだ。
だからその日の授業が終わった後、今度は昨日と打って変わって閑散としている『BAR O Navegador』に誘われて自分のことを全部話してしまった。
自分が何を大切に思っているのか、何を嫌っているのか。何に殺されてきて、何に生かされてきて、塾講師として、今度はそれを活かす立場になりたいと思ったことなどだ。
焼酎のグラスを傾けつつ、僕の話を聴く早志先輩の眼光は変わらず鋭かった。でもそこに、その鋭さの中に、何かしら揺れて見えるものがあったことに、僕は気がついた。
「お前みたいに考えている奴は滅多にいないな」
まっすぐ人の目を見てそらさない早志先輩の目が初めて外れた。
「だから、こうして早志さんと話したいって直感的に思ったんですよ」
「はは、やっぱり変わった奴だなぁ」
わずかニ時間のだったが、自分のすべてを語れた。
あの日の細かな内容までは、今は覚えていない。文脈を変え、その後も、早志先輩とはたくさんの会話や議論を重ねてきたからだ。
僕が自分を語った内容なんてどうでもよかった。思い出すのはいつもあのことだ。
「もっと新入生の同期達と話した方がいいんじゃないか? 俺なんかと話してないで」
自分から席を立ったのは、それを促すためだったのだろう。
あの時、その言葉にあえて従っていたとしたら、どうだろう。
自分はきっと、その後の早志先輩と同じ道をたどっただろう。
人に「人生において最も大切な、その場所の喧騒や、匂いすらも思い出せる大切な記憶」というものがあるのだとしたら、これが、僕にとっての、それだった。
早志先輩はもう、この世にはいない。
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……旧作と比べるとまったく違って見えます。
みこちゃんの小説への真摯さが、伝わってきますね。
どうぞ、ふるってTHE NEW COOL NOTERコンテストまでご参加ください。
応募期間は7月15日までです。
ハッシュタグとして、
「 #第3回THE_NEW_COOL_NOTER賞_7月参加 」
とつけていただければ、参加となります。(数字は半角で)
一奥の小説もまた、みこちゃんの丹念な添削により、ここまで変わることができました。
小説講座の方も、どうぞ、よろしくお願いいたします。
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