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KUDANZ ライブレポート

『あわいの世界へようこそ』
バンドアンサンブルの妙は美しいパズルのようで、抑制を効かせた表現は生き生きとメンバー間のシナジーに溢れていた。

KUDANZクダンズとは

上段左端:ササキゲン

岩手県出身のササキゲン (vocals/guitars)によるソロプロジェクト。
フォークミュージックをベースに置き、エレキギター/ガットギターでの弾き語りや、バンド編成など、多様な形態で活動中。
2022年2月、共同製作者に菅原達哉(EG)、伊藤克広、斎藤駿介(kokyu)、次松大助(the miceteeth)、井上英司を迎え、セッションに三年の歳月をかけた、フルアルバム「あわい」をリリース。
(KUDANZ official web siteより)


KUDANZ 14th Anniversary one man live 4days SPECIAL「間」 仙台公演二日目に行った/クールマイン的見聞録

日付:5月15日(日)
会場:仙台FLYING SON

天気は晴れ。
仙台の街中は、初夏の風物詩である『仙台青葉まつり』の3年振りの開催に賑わっていた。ライブハウスに向かう道のりで嬉しそうに綿飴の袋を手にした子供とすれ違い、思わず目尻が下がる。偶然にも仙台青葉まつりの開催日が二日間共重なったKUDANZの祝祭。両日ともにソールドアウトという事で実に喜ばしい。市民の為の祭りがもよおされ、街のライブハウスに音楽を聴きに人が集まる。いつの間にか当たり前ではなくなった””きる”活”気、すなわち『生活』を少しずつだが我々はまた取り戻せている。


今回は今年2月に発売されたアルバム、『あわい』の発売を記念して企画されたライブである。現在活動の拠点をメインに置いている仙台で二日間、来月6月に東京で二日間の4daysという内容だ。アルバム制作には実に三年というセッション期間を費やし、心を許す手練れてだれ5人の共同制作者との時間のレイヤーが自他共に許すキャリア史上最高傑作を生み出した。アルバムに収録されている9曲のうち5曲を一発録りで収録というスリリングな手法を取ったが、誤魔化しが効かない分、演奏側と聴く側の距離が近く感じ、臨場感をフレッシュに真空パックする事に成功している。

「あわいの世界へようこそ」

満を持して5年振りに発売された名盤の実演は実に流麗りゅうれいで濃厚であった。


KUDANZは2008年にギターロックバンドとしてそのキャリアをスタートしているが、その後数年は基本的にササキゲンのソロプロジェクトとしてフォークミュージックをベースに、弾き語りのスタイルでライブ活動を行う事が多かった。かく言う私もバンド時代は未見で、初めてライブを目にした時のKUDANZもアコギ一本で歌っていた。

「癒される」、「優しい歌声」、そんな感想を周囲から多く聞いて来たが、その時の個人的な感想は周りと少しだけ的を外していた。そしてそれ以降、毎回ライブを観る機会がある度に同じ心持ちになっていた。その感情を言語化出来るかはまるで自信が無い。「音楽を言葉で説明するのは土台無理な話さ!」と逃げてもいい。だがKUDANZを語るには避けては通れない感情の動きなので記したい。
確かにソフトな声で耳障りは良いのだが、心の不可侵領域ふかしんりょういきに触れて来るようなヒリつきを覚える、とでも言えばいいだろうか。触られたくない感情をこじ開けられるような怖さがあった。(勿論”恐怖”とは別次元の意味で)
自分の中では間違いなく耳が喜ぶ声、だが「癒し」とは異質のものだったのだ。

そしてそれはある時、突然自分の中で暴発する。

何年前の事だったか記憶がはっきりしないが、サーキットライブイベント『HELLO INDIE』での事だった。その日は雪がはらはらと降るとても寒い日で、会場から会場までの移動が辛かったのを覚えている。体を縮こめながら会場であるretro BackPageに滑り込んだ。

落ち着いた内装、外の寒空とは異世界のように暖かな店内。
ギター片手に登場したKUDANZは、チューニングしながらマイペースにユーモラスなMCを挟み、リラックスした様子でライブを進行していく。かと思えばトロンとした人斬りのような瞳で感傷的なメロディと言葉を運び、来場者の聴覚を束縛し、没頭させる。

この日、新曲として紹介されていたかに思う。
異星人』という曲だ。これに自分は暴発した。
この曲は2020年にデジタル配信限定でリリースされたが、発売が発表された時には「ああ、やっと音源化されたんだ。」という感想を抱いたので、初めて聴いたこの時は結構昔の事だったかのように思う。

雲の無い星空に 僕は何を待ってんだろうか
誰も居ないこの道は どこまでも続いていく
優しい言葉だけで 君に伝えたい事も
いつからか頭に クソが乗る様になった
僕に訊きたい事はあるかい
僕に言いたい事はあるかい
君に言いたい事は一つ
僕を愛しているかい

「異星人」歌詞より

ここまで聴いた途端、思わぬ形で襲来した得体の知れない感情に、意味不明のバグを起こした自分がいた。突如涙腺がフル決壊し、人知れず滂沱ぼうだの涙を落としていたのだ。もう、「ツーーーー」なんてレベルじゃない。近くには懇意こんいにしている先輩が座っていた。ライブハウスでよく顔を合わせる人にもさっき挨拶をしたところだ。我に返る自分が羞恥心しゅうちしんから必死で涙を止めようとするのだが、どうにも制御が効かない。”良い曲に思いがけず出会えた嬉しさ”と、”もうやめてくれ”、とが交差するような感覚に戸惑った。決してさわられないように心の一番奥底にしまい込んでいた「誰にも分かってたまるか」を引き出された上に見透かされたようで痛かった。そしてこれがきっかけでこの曲が忘れられないでいた。


だいぶ脱線したので、レコ発本編に話を戻したい。
ライブはアルバム収録曲を中心に、ファンに人気の既存の楽曲も網羅もうらした贅沢ぜいたくな時間であった。MCも少なめで愚直な程に演奏に打ち込むが、変な気負いが客席に伝わり不整脈を起こす事は最後まで無かった。

音数は多いのに「すき間」のある演奏に舌を巻く。たくさんの音が鳴れば、共するとぶつかり合いで混沌としたり、せっかくのフレーズが活きて来ない事が往々おうおうにしてあるもの。その点この6人は引き算をしながら発想力に富んだ音数を重ね、粛々しゅくしゅくとコントロールしている。バンドアンサンブルの妙は美しいパズルのようで、抑制を効かせた表現は生き生きとメンバー間のシナジーに溢れていた。仲間と切磋琢磨せっさたくました肥沃ひよくの地で歌うKUDANZに全く新しい印象と感銘を受けたのだった。

当然、前述した『異星人』の演奏もあった。
感情をかきむしられる様なフィードバックノイズギターがマッチしていて、海外のオルタナ/轟音シューゲイザー系ロックバンドの様に、曲が進むに連れて別世界のようなクレッシェンドへと開花する。この日生で、そしてバンド形態で一番聴きたかった曲だ。

異星人をプレイするKUDANZ

無論感動はしたし、歌の入りで心臓を鷲掴わしづかみみされる感覚もあったが、もうそこにはあの日の”痛み”は無かった。聴き手側、演者の精神状態でも曲の感想って変わるよな、そんな想いもぎったりした。とにかく突き抜けた何かを感じ、この言葉が適切かは分からないが、とても「満ち足りた」。

アルバム収録曲以外で印象深かったのは、サイケデリックな音の飛びで深みへといざなう『木の子』や、アジアン・オリエンタルな音階とDTM的なアプローチをえて生楽器で演奏していた『竜の落とし子』が何やら神秘的で良かった。そしてこのタイミングでの新曲『インターネットジプシー』の披露はKUDANZが前を向いている実証であり、音楽活動の充実ぶりが見て取れた。後半はちょっとした編成の面白味などで魅せてくれたが、そこは東京公演を観てのお楽しみという事でネタバレは避けたい。ショーケースのパッケージングとして、構成も練られた実に充実したライブ内容であった事は間違いない。

「音楽とは、」なんて主語のデカい話をするつもりは無い。ただこれは言いたい。楽器をかなでる愉しみ、歌を歌う楽しみが波及し、曲を聴く楽しさと渾然一体こんぜんいったいとなる、言わば”音楽の根源”たる空間に身を委ねる事がこの日出来た。ここ数年、この満ち足りた時間は有限だと思い知らされたのだから、生活の中の取捨選択しゅしゃせんたくをより大切に生きて行きたい。

KUDANZ合奏 あえて大きな場所ではなく、温度の伝わる距離感から始めます

KUDANZ official SNSより

【ライブ&アーティスト情報】

KUDANZ 14th Anniversary one man live 4days SPECIAL「間」

2022年6月4日(土) OPEN 18:00 / START 18:30
2022年6月5日(日) OPEN 16:00 / START 16:30
@下北沢440

▼お問い合わせ
【東京】へんじん : TEL 050-3553-4678 


▼KUDANZ
KUDANZ ササキゲン official web site
genstagram(Instagram)
KUDANZ_information(Twitter)
KUDANZ OFFICIAL(YouTube)


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