ジョブ理論と新婚旅行におけるJALのサービス
7年前に新婚旅行でニューヨークに行く際に、JALを使いました(ちょうど会社更生法適用の翌年ぐらいですかね)。
チェックインする時に、機械でパスポートを読み込もうしたら妻のパスポートがうまく読み込まれなかったので、受付でチェックインをしました。理由はちょうど妻が戸籍を変えたタイミングだったためです。
そのことを受付の方に話したら、「お名前が変わったということは、新婚旅行ですか」と聞かれて、「そうなんです。」と会話を交わしました。
その後、搭乗して飛行機が離陸して少ししたら、CAの方が4人ぐらい来て、「結婚おめでとうございます」といきなりケーキをくださり、サプライズでお祝いをしてくださいました。
受付で得た情報がどういうルートを経たのかは不明ですが、機内のCAまで伝わり、ケーキを準備し祝ってくれたことになります。この経験はNYへの新婚旅行の中でも最も印象に残った出来事です。
さて、先日のワークショップでは、この経験をクリステンセンのジョブ理論に用いました。ジョブ理論(Jobs to be done(片付ける用事))とは端的に言うと、「顧客は何を達成したいのか」という視点から企業のサービスや商品を考えることです。
新婚旅行における達成したいこととは、第一に「新婚の二人が思い出を作る」ことがあげれます。また、付随して「新婚旅行のことを友人や知人に話したい」といったことも出てくるでしょうか。最近のようにSNSが発達した社会では、新婚旅行をSNSを通じて友人や知人に報告することもよく見かけます。
我々夫婦の新婚旅行においては、NYではウォールストリートに一番近いホテルに泊まり、リーマンブラザーズが入っていたビル、NY大学、コロンビア大学、自由の女神、メトロポリタン美術館、そしてMOMA等を見に行きました。またワシントンDCに行って、ホワイトハウスやFRBを見たり、はたまたカナダのナイアガラの滝にも日帰りで行ったりもしました。
このように思い出満載のNYでの新婚旅行でしたが、帰国した際に、「新婚旅行はどうだった?」と聞かれると、「JALのサプライズのケーキがすごく驚いた」という話から始まり、多くの場合、この話に結構な時間を費やしていました。
改めて考えると凄い奇妙な話です。新婚旅行先であるNYに行く前の飛行機の中での話が新婚旅行の思い出のメインになっているからです。ジョブ理論の点からみると、「顧客が達成したいこと」として「新婚旅行の思い出を友人や知人達に伝えたい」といったことを一番実現していたのはJALだったのです。すなわち、JALはジョブとして「人にストーリーを話したくなるような経験」を解決していたのです。さらにこの経験(ストーリー)をまさに私が人に話すことで、結果的にJALのサービスの宣伝もしていることになりました。
ジョブ理論では、ジョブをFunctional(機能)、Emotionnal(感情)、そしてSocial(社会的文脈)の三つから考えます。飛行機の場合、機能だけ見ると、「遠くに早く行ける」ことになりますが、EmotionalとSocialにおいては「人にストーリーを話したくなるような経験」を提供していると言えます。よくよく考えると初めて飛行機に乗った時のワクワクって人に伝えたいですし、雲の上から景色を眺める経験もまさに人に話したくなるようなことです(良くも悪くもスーツケースがきちんと届かなかったり、欠航になった場合も人に話したくなりますが。)。JALの場合、wifiをいち早く提供したり、座席のスペースを広げたり、国内線でクラスJといったプレミアムサービスを提供したりと、空の旅を通して、人に話したくなるような新しいサービスを多く提供してきました。
このJALの体験をジョブ理論に昇華するまでは、正直ジョブ理論はあまりピンときていなかったのですが、自ら具体例を発見できると、急激にジョブ理論の可能性を感じました。
ワークショップの後半では、上記の「人にストーリーを話したくなるような経験」といった視点から、JALの新しいサービスをチームで考えました。この視点を持つと、普通では思いつかないようなサービスのアイディアが出てきて面白かったです。
特に、チームの人が「シリコンバレーに行く前に、facebookの映画を機内で見たら、現地での経験がよりいっそう印象深いものになった」という経験から、「旅行先の経験をサポートしてくれるような映画のお薦めしてくれるアプリ」というアイデアが出てきましたが、個人的にはかなり刺さりました。というのも、実際私の場合も、新婚旅行のNYに行く際には、飛行機の中で黒木亮の「巨大投資銀行」を読んでいて、本書にはNYの金融の現場も出てきたこともあり、現地の空気をより楽しめたからです(なお、巨大投資銀行にはNYの地図も書かれています。)。
ちなみに我々のチームのアイデアは、飛行機に搭乗している人に対して友人が結婚おめでとうムービー等を送ることができ、新郎は飛行機の席でサプライズで当該ムービーを救命動画の後にみることができるというものです。また、このムービーを見た人は、この感動を伝えるためにwifi経由でSNSに飛行機の中の状況を伝えることができる、といったことを通じて「人にストーリーを話したくなるような経験」を提供するというものでした。
まだジョブ理論は使いこなせていませんが、「顧客は何を達成したいのか」といったジョブの視点から企業の製品やサービスをみると新たな発見ができそうなので、今後も使っていきたいです。
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