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積読という約束

積読はご褒美である。

かつて、積読はただの「未読の山」として、多くの読書家の部屋の隅に静かにたたずんでいた。
しかし、これがいかに貴重な宝物であるかを、私たちは徐々に理解し始めている。

私が積読の大切さを実感したのは、大学生ひとり暮らし、ある冬の日のことだった。
外は一晩中雪が降りしきり、世界は静寂に包まれていた。
読むべき新しい本も手元になく、やむを得ずに手に取ったのが、数年前に購入したが、一度もページを開くことのなかった短編小説だった。
一読しただけで、私の心の中で何かが変わった。まるで長い時間をかけて私を待っていたかのように、その瞬間、その瞬間だけのために存在していたかのように感じられた。

積読が私たちに教えてくれるのは、すべての本には「正しい時」があるということだ。
それは、その物語を最も深く味わい、理解することができる瞬間である。私たちは本を購入する時、その物語がいつか私たちの人生に役立つかもしれないという期待を込めて選ぶ。
しかし、実際に読むべき時が来るのは、その本が最も必要とされる時だ。

積読のもう一つの価値は、未知への可能性に満ちていることだろう。
それぞれの未読の本は、新たな知識、異なる視点、未体験の感情を秘めている。
私たちがその一冊を開くまで、その内容は完全なる未知数であり、それが読書の魅力の一つである。
知られざる物語には、予期せぬ発見や、思いがけない自己変革がひそんでいる。

そして、積読は私たちに忍耐も教えてくれる。すべての本をすぐに読むことはできない。時間、興味、心の準備が必要だ。
積読の山を眺めることは、まだ訪れていない土地を夢見ることに似ている。それぞれの本が新しい冒険であり、その時が来たら、それぞれが私たちを別の世界へと導いてくれる。

最後に、積読は選択の自由を象徴している。どの本を読むか、いつ読むかは、完全に私たちの意志に委ねられている。これほどまでに自由な行為は他になく、この自由こそが積読の真髄をなす。

積読の山は、ただの未読の本ではない。
それは時間、場所、心の準備が整ったときに、最高の体験を提供してくれる約束のようなものだ。だからこそ、積読は大切にされるべきであり、それぞれの本が私たちの人生のどこかの段階で、ほんとうの光を放つ瞬間を静かに待っているのだ。

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