英語教育・英語学習に関する独り言21 - DXと言語教育について④
こちらの記事の続き。前橋工科大学名誉教授かつ日本ムードル協会初代会長の原島秀人先生による「Moodleと言語教育について」の講演。
弊社の上得意先の神戸学院大学の共通教育学部では、2024年度より従来のLMS、dotCampus を廃止し、Moodle に一本化するという。グローバル・コミュニケーション学部主催のシンポジウムだが、共通教育学部の教職員および学部生向けの内容だった。とはいえ、個人的には少々残念な内容だった。
所感の前に講演について。Moodle とはオーストラリアのマーティン・ドゥーギアマス氏が中心となって開発したLMS = Learning Management System である。機能はザっと以下の通り。
授業用のコンテンツ(授業の資料や教材)を閲覧する
小テストを出題し、受験させる
課題を配信し、提出させる
受講者が課題や小テストの結果を閲覧する
これだけなら何の変哲もないLMSなのだが、Moodleの面白いところは
1.Moodle の中に Moodle を入れ込むことができる
2.Moodle の外に Moodle をくっつけることができる
ということだ。どういうことか?
まず前者では、A大学の Economics 101 という講座の Moodle を作成する。そしてその Moodle を同じA大学の Economics 201 の中に組み込んでしまう。そうすると、201 の受講生は 101 の Moodle コンテンツにアクセスでき、復習することができるわけだ。
そして後者では、A大学の Economics 101 と B大学の Economics 101 をくっつけて、両大学の受講生が互いの講座の Moodle のコンテンツにアクセスできるようになる。これは例えば、A大学の教員はマクロ経済学寄りの人、B大学の教員はミクロ経済学寄りの人という場合に効果的である。A大学とB大学のそれぞれの Economics 101 が相補的になると期待されるからだ。
Moodle の特徴は、コンテンツに取り組んだ学生たちの成績をAIが分析してくれるところにあるのだが、その最大の特長(≠特徴)は Formative Analytics、すなわち形成的な分析が可能な点にある。形成的な分析とは、膨大なデータを仔細に分析することで、学生の過去のパフォーマンスを評価するだけではなく、未来のパフォーマンスをも予測するを指す。凄いとしか言いようがない!
・・・のだが、Moodle の弱点は実は技術以外の点にある。それは、せっかく蓄積され、分析されたデータをオープンにできないことだ。成績とは学生のプライバシーの情報である。個人情報よりも尊重されるべきものである。Formative Analytics で学校横断的に得られた情報が個々の学校に還元されないということである。もったいない・・・
また、Moodle で他大学とつながったとしても、おそらく単位互換性がなければ、それほどこの仕組みは学部生には浸透しないのではないかと思われる。個人的には梅田望夫が『 ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる 』で喝破していたように、Moodle による複数大学講座のネットワーク化は、ゼロ年代のアメリカの大学の講座のオープンソース化と同じく、主体的に学びたい学生だけを利する、あるいは他の講師の教え方を学びたいという教員を利する仕組みに落ち着きそうというのが Jovian の感想である。
教える側の人間としては Σ(゚Д゚) となってしまうが、学生は Moodle による課題の評価をおおむね肯定的に受け止めているようだ。なぜなら人間ならば主観が入ったり、時と場合によって評価軸がぶれたりすることがありうるが、AIにはそれがないからだ。TOEFL iBT で採用されている e-rater と同様の機械採点が英検に導入されて数年経つが、この傾向はさらに浸透していくと予想される。我々の仕事のパフォーマンスも、そのうちAIが(部分的に)評価するようになる日も近いかもしれない。