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「お父様から息子様へ」 末期がんの利用者さんの訪問で考えたこと

「お父様から息子様へ」 末期がんの利用者さんの訪問で考えたこと

訪問看護ステーションオレンジツリーの管理者は長年、緩和ケア病棟で勤務してきたベテランの看護師です。病院勤務中も、訪問看護でもたくさんの看取り現場に立ち会ってきました。末期がんの方が突然病院からの退院を決め「明日退院されるので、明日から訪問してください」の依頼にも動じることなく対応できる看護師です。

その管理者が末期がんの方の訪問をしているときに「看護師ができること」は常々考えさせられると言っています。人の人生の数だけ物語はある。看護師のエピソードもたくさんあると思います。

今回は私の作業療法士人生の中で大きく心を揺さぶられたAさんとのエピソードを振り返り、末期がんの方に向き合った時に何ができるのかを考えたことをお伝えしたいと思いました。

当初は看護師が疼痛管理、シャワー浴の介助で訪問していたAさん。看護師から「シャワー浴の介助で段々と立てなくなってきた。本人がリハビリしたい言うてるけど訪問できる?」が療法士介入のきっかけでした。実はその時には末期の状態で立つのもやっとでした。
ご家族もスタッフも内心“もう歩けないけどリハビリかぁ”の思いは強かったと思います。私自身、訪問をしていても負荷をかけられる状態ではなく、座るのもやっとでどう対応するか悩んでいました。その頃、ご本人さんは看護師に話をしていたようです。

「また山歩きがしたい。無理かもしれないけどリハビリをやりたいんや!」


と。この言葉に隠された意味を看護師と考えました。ご本人は家族さんには強がっているところはありましたが、不安でいっぱいのはずです。実際はリハビリをやってもよくならないことは気付かれているようでした。
しかし本当は“まだリハビリの人が自分のために家に来てくれている。リハビリができる人だ。まだ見捨てられていない”と思われていたようでした。よくターミがナルケアの中で

『ご本人の希望に沿って』

との対応がありますが、“療法士の訪問”がこのような意味を持ち、生きる希望の一つになっていることが衝撃でした。ご利用者さんの生きたい思いをしっかり、強く感じたのはこの時が初めてでした。それからは呼吸リハもですが、“山登り”のためのリハを負荷のかからないようなやり方でサポートしていきました。
亡くなる一週間前、奥さまが「もうすぐ息子の誕生日なんです。間に合うかな」とおっしゃいました。意識朦朧とした段階でしたが、奥さま、看護師、事務員、そして作業療法士総動員で仕事でも使えるかな、と息子さんの名前入りのボールペンをAさんが選ばれるお手伝いをしました。息子さんの誕生日に受け取れるように設定し、その二日後、誕生日前に亡くなられました。「君は百点満点の息子だ」プレゼントに添えられたメッセージです。その場にいた職員が全員、感動で胸が熱くなるメッセージでした。 後日、奥様から誕生日当日に息子様にプレゼントが届いたこと、いつの間に頼んだの?と驚いていたと同時に大変喜ばれていたと教えてくださいました。ご一家のお役に立ててよかったです。

私はこの方のエピソードは一生忘れないと思います。こんな気持ちにしていただいてありがとうございました。


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