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琉球列島の来訪神について


 お久しぶりです、雪月です。今回は「来訪神」について関心を持ったので以下それについて整理します。来訪神は『来訪神辞典』(新紀元社)では、「『おとずれ神』とも呼ばれ、時を定めて人々を訪れ、幸いを与えて災厄を祓う神である」と定義されています。

来訪神の概要

 この来訪神は、日常生活からかけ離れた「異界」から訪れていると考えられています。さらにこの「異界」は、季節の切れ目に現世との出入り口を開くと考えられていて、この異界から来訪してきた神は、民俗学者の折口信夫が「マレビト」と称した異人に内包されます。このマレビトの語源は「異界から稀に来る人」からきていて、異界とは「常世」のことを指します。こういった来訪神概念は、北は青森から南は沖縄まで分布しています。
 『黒潮の文化誌』(南方新社)によると、日本の文化圏は以下の図に分けられると考えられている。

『黒潮の文化誌』(南方新社)より引用


こういった民俗学的文化圏の背景を踏まえると、日本の来訪神文化は大和文化圏と琉球文化圏、そして鹿児島周辺の混合文化圏の三つに分類されます。大和文化圏の来訪神は大晦日や小正月を中心とする冬季に出現するのに対し、琉球文化圏の来訪神は旧暦の6月から9月頃の夏季に出現します。この出現時期の差異は、その地域の人々の生業の差異からくると考えられます。大和文化圏は稲作を中心とした儀礼により正月などが成り立っています。対して、琉球文化圏は亜熱帯気候に位置する為にその生業も異なり、秋に種をまき冬に成長させ春から夏にかけて収穫時期を迎える。大和と琉球の気候の違いが、大和の夏作システムと琉球の冬作システムに起因します。これにより来訪神の出現時期が異なります。
 つまり、来訪神とは節目となる日に仮面・仮装の異形の姿をした者が家々を来訪し、新たな節目を迎えるにあたって怠け者を戒めたり、人々に幸福をもたらしたりする行事です。


琉球列島での事例について


 続いて、琉球列島における来訪神の例ですが、有名どころで宮古島のパーントゥや黒島のミルク、西表島のオホホが挙げられます。このような琉球文化圏の他界概念としては「ニライカナイ」と「オボツカグラ」の2種類がある。「ニライカナイ」とは海の彼方の他界概念で、そこからやってくる来訪神は水平型の来訪神に分類されます。対して、「オボツカグラ」といのは天の他界概念ん、そこからやってくる来訪神は垂直型の来訪神に分類されます。このような概形を踏まえた上で、琉球弧の来訪神事例について詳しく述べます。
 宮古島のパーントゥは、水平型の来訪神に分類されます。パーントゥは宮古島で伝承されている季節の節目に行われる行事です。「パーントゥ」そのものの意味は「お化け」や「鬼神」を意味します。この行事を正式には「パーントゥ・プナカ」と呼びます。椎木葛を身体に巻き付けた青年三人が頭上に芒を結んだものを指し、片手で仮面を抑えもう片方の手で杖を持って出会った人々に厄除けとして泥を塗る行事です。また、パーントゥが垂直型の来訪神に分類されるのは、パーントゥ仮装時に古井戸の泥を身体に塗り付けるが、この「ンマリガー」と呼ばれる古井戸はニライカナイに通じていると古くから信じられていることからです。八重山の人たちは、地下の深いところを「ニーラ底」と呼び、井戸の底も20~30mと深く「ニーラ底」と呼びました。さらにこの井戸は底が果てがなくニライカナイまで通じていると考えている為、パーントゥは宮古であるがこのような八重山の他界観に近いと考えられるが、宮古の場合、その地の底は海の底まで繋がっている考えられている為、そこが差異になっています。
 黒島のミルクもまた、水平型の来訪神に分類されます。ミルクと呼ばれるニライカナイからの来訪神に対して、五穀豊穣の感謝として収穫の際の豊年祭りが行われます。神様に感謝する為にハーリー等の芸能が奉納されます。
 琉球文化圏の来訪神としての具体例はこの辺りが挙げられます。

感想

 

 以下は私の感想である為にあまり来訪神自体については述べられていない為、ここで読了してもらって構いません。来訪神について調べると同時に文化圏が生業でも区分可能ということに気がつきました。今までの私は潮流だけで文化圏を区分しようとしていて、一番しっくり来たのが上で引用した『黒潮の文化誌』(南方新社)にあった図でした。しかし今回生業から分類可能だという知見を得て、自身の考察の幅が広がりました。下の図が今回の新しい知見に該当します。

『来訪神辞典』(新紀元社)より引用


この図は、『来訪神辞典』(新紀元社)から引用してきたもので、潮流を考慮しない際にはこの図が有効であると考えました。一方で、八重山諸島から房総半島にかけての地域の色濃く黒潮の影響を受けている黒潮文化圏の事を考えると一概にこの図だけでは説明できないとも感じました。このような文化圏の区分も今後考えていきたいと思うので、また次回作があればそちらで。

参考文献リスト

平辰彦(2020).『来訪神辞典』.新紀元社
須藤義人(2011).マレビト芸能の発生.芙蓉書房出版
日高旺(2005).『黒潮の文化誌』.南方新社

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