連載小説『私はカコキュウ』 時空越え 1
時空越え
1
私はこの平和な生活が壊れるなどとは想像もしていませんでした。
ある日空を飛び、いつものように移動をしていました。
時に速く、時に高くと繰り返し、目まぐるしく遊ぶように飛んでいました。
少し度が過ぎていたかもしれません。スピードを増すと今までなかった感覚が味わえました。
空高く、もっと高くと飛び上がると、フワッとした感覚がありこれまた新しい感覚でした。
それを繰り返しているうちにとんでもない事態になったのです。
私は時空を超えてしまったのです。
私は今までタイムスリップを起こしたことがありませんでした。
未来に行ったのなら、きっと問題はありませんでした。
少しリセット年数が狂ってもその時代で暮らせば別段困ることもなかったでしょう。
私は3000年も過去にタイムスリップしてしまったのです。
その時のことは記録にあるからではなく、はっきりと実感で覚えています。
詳しく状況をお話ししましょう。
タイムスリップしてしまった私は人類と言っても、見た目が口、目、鼻、足のない人類です。
2000年に生きている人たちはそんな生き物を目にしたことはありません。
5150年に生きる人類を目の前にした人たちは当然びっくりしました。
しかも、目の前に突然現れたのですから驚きは想像を超えていました。
そして、私を見た人たちは全員が
「宇宙人だ!」
と大騒ぎになりました。それは当たり前のことです。
まさか、自分達の未来の姿だとは思いも寄らなかったでしょう。
もちろん、姿をさらした私だってこの状況は驚くしかありませんでした。
平和しか知らない私は状況が飲み込めず、テレパシーを盛んに使いました。
「私は地球人です!私も地球人なのです!」
と繰り返して、テレパシーを発しました。
しかし、この動作はあまり的確ではなかったようです。
私は咄嗟にいつものテレパシーしか使えませんでした。
テレパシーを発するごとに今まで経験しなかった反動が回りで起こりました。
近くにある電線や電波がショートして、弾ける衝撃でした。
そんな衝撃を受けたことがない私は、その度に体が飛ばされました。
その様子を見た群衆は、間違いなく宇宙人だと思ったのです。
私はただただ、どうしたら良いか思案にくれました。
やっとの思いで自分の驚いた感情を落ち着かせ、群衆の視界から、離れようと思いました。逃げるように更に高く空中に飛び立ったのです。
その様子を見ていた人たちは一瞬静かになりました。
そして、号令がかかったように再び一斉に私を
『地球外生物だ!』
と騒ぎ出しました。
あっちでもこっちでも、小さな箱のような機械を取り出しました。
それは携帯電話でした。
写真は撮るは、緊急電話をかけるはでごった返したのです。
私は電話から発せられる訳のわからぬ電波をキャッチしていました。
また、キャッチしても何を意味しているかわからないので、自分からも助けを求めて信号を送っていました。
すると、私の信号でまた電話も途切れてしまう有様でした。
ますます、地球外生物だと確信をして喜ぶもの、恐れるもの、驚くもので溢れていました。
その地球外生物と思われた私が再びもっと空高く飛び上がると、また皆が一瞬シーンと申し合わせたように静まり返りました。
そして、その光景を見ている全員が空を見上げて、感嘆とも言えるような、声を発し、その物体の行方を見守っていたのです。
その後は
「やっぱり宇宙人は存在するんだね。」
「私、初めて見た!」
「変な形してるね!」
という声があちこちに起こっていました。
この話題は、テレビも、新聞も、ネットも騒ぎ立て、また私と遭遇した人々は町中の設置カメラに記録されていました。
後にその録画を解明して野次馬連を見つけ、全員が確保を余儀なくされたそうです。そして、厳重なる身体検査を施されたと言うことでした。