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「英語教育の羅針盤」第3回:学級崩壊からの再起と動機付けの探求:ある教師が「偽物の教師」と呼ばれた日
皆さん、こんにちは。関昭典です。
大学院で英語教育を学び、自信を持って高校教師になったある教師でしたが、赴任した学校で、すぐに「学級崩壊」を経験します。今日は、その教師が「学級崩壊」という大きな挫折をどのように乗り越え、教育者としての道を再び歩み始めたのかを、動機付けの視点からお話ししたいと思います。
偏差値の低い学校での現実:
その教師が赴任した高校は、地域で最も偏差値の低い高校でした。そこには、勉強に対する意欲がほとんどなく、学ぶ目的を見失っている生徒が大半でした。加えて、貧困や家庭環境の問題を抱えている生徒も多く、学校生活に集中できない状況でした。このような状況は、生徒の学習意欲を低下させ、教師の教育実践を困難にすることが先行研究でも指摘されています(Pajares, 1996)。学級崩壊の経験:
授業中に生徒がお弁当を食べたり、漫画を読んだり、音楽を聴いたり、床に寝そべったり、注意すると生徒たちが笑い出す、という状況に、その教師は深く傷つきました。
大学院で英語教育を学び、周囲の先生方の期待もあったのですが、いざ現場に出ると、完全に崩れてしまいました。周囲の先生方の中には、「大学院で学んだような甘い理論では、現場では通用しない」と批判する人もいました。
その教師は、自分自身に深く失望し、「この仕事を辞めることしか選択肢はない」と考えるようになりました。「偽物の教師」という言葉:
英語教育の魅力を教えてくれた大学時代の先生に相談に行ったところ、「お前みたいな偽物の教師は、今すぐにでも辞めたほうがいい。生徒をやる気にさせ、頑張らせるのが教師の役割なのに、その役割を放棄して生徒を批判するような教師は、日本の教育界にとって害でしかない」と言われました。この言葉は、その教師にとって非常にショックでした。教師の役割は、単に知識を伝達することだけでなく、学習者の動機を高めることにあるという視点は、多くの教育者にとって重要な示唆となります(Hattie, 2008)。動機付けとの出会い:
先生は、その教師を批判するだけではなく、「動機付け(モチベーション)」に関する様々な資料を見せてくれました。その中に、後でその教師が翻訳することになるゾルタン・ドルニェイの論文がありました。その論文には、「学習者の動機付けを高める具体的な手法」が詳細に書かれていました。この出会いは、その教師が動機づけ研究に深く傾倒するきっかけとなりました。内発的動機づけへの転換:
その教師は、この論文を読んで驚きました。そこに書かれていることの多くは、これまで考えもしなかったアプローチばかりだったからです。そして、「このまま辞めるのではなく、まずは書かれていることを試してみよう」と考えました。
その教師は、動機付けに関する論文や本を片っ端から読み漁り、そこに書かれている手法を、自分のクラスに取り入れていくことにしました。最初はうまくいかないことも多かったのですが、時々、驚くほど効果がある手法を発見しました。授業への動機付け要素の導入:
1年目の後半から、その教師は授業に動機付けの要素を取り入れることを始めました。そして、2年目の初めには、「まずは生徒のやる気を引き出すことから始めなくてはならない」と強く意識するようになりました。そのため、動機付けの研究成果を活かしながら、授業設計を見直していきました。
その教師の教育実践は、自己決定理論(Deci & Ryan, 2000)に基づき、学習者の自律性、有能感、関係性を重視したものでした。学習性無力感からの脱却:
学習性無力感に陥っていた生徒たちが、その教師の授業を通して、次第に学習意欲を取り戻していきました。教師の側が一方的に教えるのではなく、生徒の内発的な動機に火をつけ、学習をサポートすることの大切さを、その教師は身を持って学びました。学習性無力感は、過去の失敗経験から学習意欲を失う状態であり、教師は、学習者に成功体験を提供し、自己効力感(Bandura, 1977)を高める必要があります。成功体験の積み重ね:
1994年から1998年の5年間は、その教師にとって動機付けを授業に取り入れる実践の時期でした。この5年間を終えたとき、1年目に経験した学級崩壊が嘘のように、生徒たちは英語を学び、その教師から学ぶようになっていました。
その教師の経験は、皆さんに「失敗」から学ぶことの重要性を教えてくれるはずです。
また、生徒の内発的な動機に火をつけ、学習をサポートすることの大切さを、その教師の経験は教えてくれます。
次の記事では、その教師が高校教師から大学教員へと転身し、新たな挑戦をどのように行ったのかを、学習環境の視点から探っていきます。
参考文献
Bandura, A. (1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84(2), 191-215.
Deci, E. L., & Ryan, R. M. (2000). The "what" and "why" of goal pursuits: Human needs and the self-determination of behavior. Psychological Inquiry, 11(4), 227-268.
Dörnyei, Z. (2001). Motivational strategies in the language classroom. Cambridge University Press.
Hattie, J. (2008). Visible learning: A synthesis of over 800 meta-analyses relating to achievement. Routledge.
Pajares, F. (1996). Self-efficacy beliefs in academic settings. Review of Educational Research, 66(4), 543-578.
Seligman, M. E. P. (1975). Helplessness: On depression, development, and death. W.H. Freeman and Company.