「わかりあえない」からはじめるファシリテーション(ファシリテーション✕NVC)
ファシリテーション✕NVCの実験的ワークショップをやらせていただきました
日本ファシリテーション協会(FAJ)と言うNPO法人の定例会で、会議のファシリテーションにNVC(Nonviolent Communication=非暴力コミュニケーション)を組み合わせてみるとどうなるかと言う実験的ワークショップをやらせていただきました。
タイトルは
「わかりあえない」からはじめるファシリテーション
〜傾聴(Deep listening)編〜
〜〜合意形成を越える〜〜
”さくさく”こと山口千咲さんと”クッキー”ことわたくし久木野勉の共同企画のワークショップです。
日本ファシリテーション協会と言うのは、ファシリテーションの普及を目指して活動しているNPO法人で、ファシリテーション関係では日本最大の団体のはずです。
主に企業やまちづくりの場での会議をファシリテートすることを主な関心事として活動しています。
会員はビジネスパーソンを中心とした論理派が多いようです。
ちなみに私は2013年からこの協会の会員であります。
一方、NVCはアメリカの臨床心理学者マーシャル・B・ローゼンバーグ博士が提唱したコミュニケーション・プロセスです。
頭(思考)で判断・批判・分析・取引などをするかわりに、自分自身と相手の心(ハート)の声に耳を傾けることを提唱しています。
NVCを学び実践している方たちは感覚派の人が多いようです。
ちなみに私は2018年からNVCのワークショップや合宿に参加してNVCを学んでいる途上です。
ワークショップの意図
ファシリテーションの目指すところは、そのグループ/チームのメンバーが、自らの喜びから協力して行動する状態になることだと考えています。
ところが、私のファシリテーター体験としては、意見の違い・対立が発生した場合に論理的・合理的に議論を進めても、どうやっても上記の状態に持っていくことが難しいと感じていました。
そこで、私たちは以下のような仮説を立てました。
人々それぞれ異なる経験・知識・考え方のパターンを持っている。意見・主張・思考は違っていて、わかりあえなえないことが当然である。(意見が一致するわけがない)
異なる意見の共通点を見つけたり(多数決/落とし所)、違いを変化させようとしても(説得)、「人々が自らの喜びから協力して行動する状態」になるのは難しいのではないか。
それぞれが違う考えを持っていてわかりあえていない事を前提に、
意見・主張・思考にフォーカスするのではなく、
その奥に潜んでいる『心の奥底の願い・無意識など』をお互い理解しあおうとすることにより、「人々が自らの喜びから協力して行動する状態」に近づけるのではないか。
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ファシリテーションの場において『こころ』を大切にすることが重要なのではないだろうか。
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ファシリテーションの場に『こころ』を大切にすることを取り入れる実験の第1弾として、議論の場にNVCを組み込んで見る実験を行いました。
こんな実験をやりました
今回やってみたのは、対立した議論の途中に NVCの傾聴(Deep listening)ワークを組み合わせてみたら、その後の議論に変化はあるだろうか?あるとしたらどんな変化があるだろうか?
そんな実験をやらせていただきました。
これをロールプレイではなく、リアルなご自身の主張として対立しているテーマで行いました。
NVCの傾聴(Deep listening)は、NVC-Japanのページに「練習方法」として書かれている手法をほぼそのまま行っていただき、それで期待通りの変化がおきるだろうかと言う実験になります。
NVCのワークショップでこれまで行われてきたワークをそのまま会議の途中で行う。少し乱暴なやり方かも知れませんが、それでも効果は期待できるとの仮説のもと実施しました。
参加してくださった方たちの中にはNVCを知っている方もいましたが、半数以上はNVCを全く知らない方たちでした。NVCを知っている方も一応知っている程度でがっつり学んだり体験した方は皆無でした。
使用したスライドはこちらです。
ワークショップの流れとしては以下のように行いました。
NVCの簡単な説明
NVC傾聴(Deep listening)を体験してみる
議論にNVC傾聴(Deep listening)を組み合わせてみたワーク
対立した議論を行う(10分)
対立しているペアでNVC傾聴(Deep listening)を行う
対立した議論の続きを行う(10分)
ワークショップ・プログラムとしては、3の前に架空のテーマで練習してから、リアルに対立してテーマの議論を行う予定でしたが、時間が押してしまったため、1回傾聴(Deep listening)の体験をした後に、いきなりリアル対立テーマでの議論を行いました。
いくつかの対立テーマを用意していたのですが、3グループで以下の3つのテーマで議論を行っていただきました。
サッカー vs 野球
犬派 vs 猫派
原発再稼働 賛成 vs 反対
例えば「原発再稼働 賛成 vs 反対」を選んだグループでは、リアルな自身の主張として「賛成」の方2名とリアルな自身の主張として「反対」方2名で議論をしていただきました。
その途中でNVCの傾聴(Deep listening)のフォーマットに則って対立している相手の心の奥の声を聞くのですが、NVCを知らなかった人たちがたった15分程度のNVCの説明とたった1回の傾聴(Deep listening)体験だけで行っていただきました。
やってみてわかったこと
まずひとつめのチャレンジとしては、ファシリテーションを志向しているがNVCをよく知らない人たちにとってNVC的な傾聴(Deep listening)が成立するだろうかと言う点でした。
短い簡単なやり方説明の後にペアになった参加者に交互に傾聴(Deep listening)をやってみていただきました。
話し手は「最近感情が動いたできごと」を5分間語っていただき、聞き手は(ほぼリアクションをせずに)頭を空っぽにして、自分の全身を傾けて、耳で聞くのではなく心で聴くことを目指して傾聴する。
話しが終わった後にそこから感じられたニーズ(話し手の『こころ』が大切にしていること)を伝えてもらいました。
やってみてもらった感触としては、お互いの『こころ』の声を聞きあおうと心がけるだけで、それは十分成立しえると感じられました。
傾聴ワーク後の振り返り対話の場でも「ちゃんと聴いてもらったと感じられた」「自分でも気づいていなかったニーズを言われて『確かに!』と思った」などの声を聞くことができました。
それらの声は、NVC講座のようなNVCに興味がある人、NVCを学びたいと思っている人が集まるワークショップと大きな違いはありませんでした。
さて次に、メインのチャレンジ=対立した議論の途中にNVC傾聴(Deep listening)を組み合わせてみたワークを行いました。
体験した参加者に書いてもらった「気づいたことメモ」から次のような声を聞けました。
リアクションなしの傾聴は新鮮
傾聴から共振が生まれる
理解しあうとは? 統合?
「『わかりあえない』を越える」というフレーズはぐっとくる
傾聴によって「体験・視点」の違い、「根幹」の共通点に気付くことができた
相手の話を聞いた方が素直に共通点が見つかった
ニーズは対立しないのか?
思考は「わかりあえない」くても、統合→協力はできる
氷山の海面の下までくると理解しあえるかもしれない
相手の固有の体験は「了解しうる」⇔追体験
振り返り対話から聞こえてきた声からも、
NVCを知らない人たちのグループ/チームにNVCのワークをそのまま取り入れるだけでも、お互いの大切にしていること(ニーズ)に視点が向けられる変化が起こる感触を得ることができました。
つぎのステップ
この企画シリーズの次のステップとしては、”さくさく”がメインでファシリテーションの場に「プロセスワーク」「フォーカシング」を取り入れる実験を行う予定です。
その次にはファシリテーションの場にNVCの調停(mediation)を取り入れる実験を行いたいと企んでいます。
感謝しています
この実験的ワークショップを実施する場を提供してくださった日本ファシリテーション協会(FAJ)と、ワークショップに参加してくださった会員の皆さまありがとうございました。
そして、このワークショップの共同企画を担ってくれた”さくさく”に感謝です。
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