勝手に月評 新建築2019年4月号

・趣旨


まず先にこの勝手に月評の趣旨を書きます.

まず第1にあったのは,「建築雑誌をもっと読み込もう」という意思です.今まで研究室などに新建築などの雑誌は置いてありましたが,なんとなく流し読みをしていたような気がします.作品だけ何となくチェックして,表面上から読み取れる潮流だけを掬い取って自分のボキャブラリーにしようとする考えが,中々危ないんじゃないかと思い始めたのもきっかけの1つです.

次に今私にはすごく時間があります.ゼネコン設計部勤務1年目であり、さらに現在は現場研修の最中であって、個人的な時間が取れる環境にあります(現場研修そのものは非常に勉強になっています).

そういうわけで今の時期にこういう活動をしていれば習慣化され,忙しくなっても時間を見つけて手が動かせるのではないかと考えました.

そして,文章を書くことはやはり反復練習だと感じています.3000字程度の文章を毎月発表するという機会は,良い訓練になると予想しています.

心配している点は,掲載作品を現地で見ていないまま書く,という点です.いずれは近場の作品であれば見に行った上で書くのもいいかなと思っています.数作品にはなってしまうと思うのですが.

文章量は,本家月評が3000~3500字だったのでその周辺を目指そうと思います.また,締め切りは次月号が発行されるまで,という期限を設定します.

前置きが長くなりましたが,以下から月評になります.


・新建築2019年4月号 月評

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4月号は前半では5題の作品と,特集記事「ボーダレス時代のワークプレイス」を皮切りにワークプレイス12題が掲載され、計作品17題となっています.

前半の5題のうち多くはワークプレイスや研究施設が取り上げられていましたが,その中で例外として異彩を放っていたのが西武鉄道 新型特急車両001系“Laview”でした.

まず大きな開口(車窓)が目に入ります.社内の床から400mm上がったところから車窓になっており,インテリアも過剰なラグジュアリーさは感じられないため,車内では非常に気持ちの良い空間が想像できます.

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外装の素材はアルミニウム構体の塗装仕上げとなっており,妹島さんらしいボキャブラリーでもあります.車両先頭部の3次曲面のフロントガラスにもらしさが表れているように感じました.

妹島さんはテキストの中で,電車よりよっぽど建築の方が標準品の組み合わせによる量産品のようなものではないかと気づいた.と書かれていたのですが,このLaviewのような,既存の領域から半歩はみ出したようなプロジェクトに取り組むことでしか感じられない気づきが多いのではないかと思いました.


さて,ワークプレイスですが,今月号ではLaviewを除く16題がワークプレイス,または研究施設に当たります.

そもそも,働くという行為は今まさに更新中と言っても差し支えないです.そんな過渡期にある行為に対する空間を模索しているのが昨今の状況ではないでしょうか.そもそもな話,リモートワークのような働き方が広がっていった場合,ワークプレイスの定義や必要性もまた更新されていくように感じています.そういう状況の中での特集記事と16題です.


特集記事ボーダーレス化するワークプレイスでは,自社の新オフィスの設計を進めている戸田建設,梓設計,SUPPOSE DESIGN OFFICEが,自社のオフィスの設計について,また設計者としてオフィスを今どのように捉えているかを議論したものです.

特にSUPPOSE DESIGN OFFICEの手がけた社食堂のような,働き方の改善を,空間づくりだけではなくシステムづくりから改善し,健康的な生活と生産性を高めようとするプロジェクトは現代では非常に効果的だと思います.

3社の議論の中で,SUPPOSE DESIGN OFFICE は働きたくなるような空間,そして家のリビングのようなオフィスを,食事という行為を切り口にデザインをしています.つまりアクティビティからオフィス空間を更新しようとしているように感じました.

梓設計と戸田建設では、AI/IoTのような技術的側面からオフィス空間を更新しようとしている点では共通していますが,戸田建設ではEBD(Evidence Based Design)とあるように,過去のデータやゼネコンの強みである技術開発実験棟の検証(外皮デザインなど)によって導かれているデザインを主張していました.

一方で梓設計は,自社オフィスが幅60m,長さ100mの倉庫空間であることもあり,規制のオフィス設計の概念が通用しないため,自ずと異なる構成を持ったワークプレイスとなっています.これはある強烈なハードに最先端のソフトが追っつくことで,今までに見たことがないようなオフィス空間を作り出そうという意思が感じられました.

私が最も共感したことは,谷尻氏の「いかに休むかを考えることが大事」という発言です.

おいしい昼ご飯や,気持ちのいい昼寝,というものがシンプルですが一番大事なことだと考えています.なにより,いかに生産性を上げるか,効率的に働くか,を考えることよりも楽しそうだし,こういった発想の逆転が既存の枠組みを更新していくのではないかと思いました.


そんなSUPPOSE DESIGN OFFICEによる面白法人カヤック社屋(研究開発棟・ぼくらの会議棟)では,特集記事で語られていたワークプレイスに対する考えが多く適応されています.

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元々面白法人カヤックのオフィスが鎌倉のまちに分散配置されており,また周辺に住宅が多いという背景もあり,住宅に用いられるボキャブラリーをオフィスに適応し,仕事と生活の境界を曖昧にするようなプロジェクトになっています.

1階の床仕上げをアスファルト敷きにし,植栽を内外連続させるような配置をすることにより,まちと一体となったオフィスを成立させており,先の座談会で語られていた「家のリビングのようなワークプレイス」を目指したデザインとなっています.住宅のメタファーとして木造の柱梁を採用されているということでしたが,サイズ的にややスケールアウトしている気もして,案外木の迫力がかなり大きいのではないかという印象も受けました.


この,家的なオフィス空間の計画というものは稲垣淳哉+佐野哲史+永井拓生+堀英祐/Eureka によるNagasaki Job Portでも見られたように感じました.長崎市街からは離れた工業団地の一角に位置する敷地における障害者福祉事業所建て替えの計画です.

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利用者へのヒアリングや観察調査に基づいた,平面計画だけでなく,光環境や家具,内装の非常に繊細な計画がなされているように感じました.特にジグザク形状の屋根による内部空間と光環境に関しては,生活空間の延長としてのオフィスの可能性を感じました.

また,このオフィスにはある種の「不均質な環境」がデザインされています.7つのアクティビティの分類と,それに対応する環境をデザインし,それを屋根の形状でひとまとまりの空間としてまとめてあげています.オフィス空間と言えば,均等な環境がまず挙げられますが,これからはこのような「不均質な環境」を取りいれることで多様な働き方を促進することができるのではないかと考えています.


百枝優建築設計事務所によるHafH Nagasaki SAIでは,より住むという行為と働くという行為の境界が曖昧になるプログラムが与えられています.カフェ,コワーキングスペース,コリビング(登録したワーカーたちがシェアする一時滞在空間)というプログラムが層ごとに与えられており,ビル全体の用途を「ホテル+寄宿舎+飲食店+物販店舗」に変更することで計画を可能としています.「生活」や「滞在」というコンセプトが間口に設けられた大きな開口部(入窓と名付けられている)につながっており,まちへの接続が考えられたワークスペースの提案となっています.

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ところで,現在はワークライフバランスとワークアズライフという言葉があります.前者は「仕事と生活の調和」であり,仕事だけでなくプライベートもバランスよく充実させるという意味合いですが,後者では仕事とプライベートを別のものとしては取り扱わず,寝ている時間以外は仕事の時間であり,また趣味の時間であるという考え方です.

現在世間ではワークライフバランスが叫ばれています.今月より施行された働き方改革法案は,ワークライフバランスの推進に関わる法案です.

私はワークライフバランスの充実に必要とされているのは,「働くことに対して負荷を感じさせない空間」ではないかと考えています.

伊藤豊雄建築設計事務所のヤオコー本社ビルや,竹中工務店東京本店イノベーションプロジェクト,Arup 東京 新オフィスの3題は,ワークライフバランスに対応したオフィス空間作りだと感じました.具体的には自然環境の挿入,IoTを活用したシステムに対応した空間作り,環境設備と社員同士のコミュニケーションの充実など,今まで働く際にかかっていた負荷を和らげるためのデザインであると言えます.

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それに対し,先に挙げた面白法人カヤック社屋(研究開発棟・ぼくらの会議棟)Nagasaki Job Port,HafH Nagasaki SAIは,ワークアズライフという働き方に対応するオフィス空間の在り方を示しているように感じました.つまり,「生活の延長としてのオフィス」の提案です.

これらを単純に比較するのは,立地や従業員数の違いから難しい話です.加えてワークアズライフ的なオフィス空間はともすると,オフィスで住める空間でもあるわけで,空間として住むことと働くことを一体化できても,法律的にそれらを一体化することが難しいとも言えます.

これらの問題を解決するために,サテライトオフィスの地方への拡大という手段が良いと考えています.IoTの活用によるリモートワークの発展から,地元のコミュニティに根付いたサテライトオフィスを展開し,都心部のオフィスでは執務室面積が減るので,代わりにアメニティを充実させることができます.

今月号の特集では,自社の本拠地に関する議論(主に大企業である2社の)でしたが,大企業こそ,地方の問題と働く環境に目を向けながら,分散配置された小粒なワークプレイスの議論が展開されていると私たちも希望が持てるような気がしています.


久木元 大貴





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