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料理本が映す「時代」と「情熱」一流のプロが選ぶ「偏愛本」の魅力
料理本が映す「時代」と「情熱」
こんにちは、綛谷かせや久美です。
私は出版業界で35年、料理本をはじめ多くの書籍の編集に携わってきました。料理本というジャンルは、単に分量や作り方を知るためのものではありません。それ以上に、作り手のライフスタイルや時代背景、文化的な要素が詰まった「物語のある本」だと考えています。
料理本はその時代の鏡であり、作り手や読者の思いが交錯する貴重なメディアです。
その価値を再発見できる新刊が、2024年12月9日にグラフィック社から発売されました。『「食」と「本」のプロ30名が選ぶ私の偏愛料理本』。
私も30名のうちの一人として選書させていただきましたので、今回はこの本を手に、料理本の奥深い世界をご紹介します。
料理本好きは意外と多い!
少し前、とある講演会で「料理本を買いますか?」と参加者に質問したことがあります。結果は驚きでした。約100人中4割の方が「買う」と挙手してくださったのです。
料理本専門編集者として活動している私ですが、このジャンルは、SNSの発達によってだいぶ意義が廃れていたと感じていました。わざわざ購入しなくても、ただ作るだけならば、ネットで検索するだけで十分と感じる人が多いんじゃないか……と。
しかし、参加者の半数以下ではありましたが、「買う」と意思表示してくださる人がいるのがとてもうれしかったんです。たくさん買うのではなくても、多くの人に愛され、必要とされているんだと感じられて、心からほっとしました。まだ私はやれる仕事があるって。
一流のプロが選ぶ「偏愛本」の魅力
前述の通り、本書では30名のうちの1人として参加、「料理本の買い方」と「おすすめの5冊」を紹介しています。
が、見本が届いたとき、まずその30人のバリエーションに目が奪われました。正直、なんで私がこの30人に選ばれた? セレクトミスだろう、と思うくらいの人選に心の底から恐縮……しつつも、読み出した瞬間、その面白さに夢中になって一気読みしてしまいました。
で、どんな30名なのかというと、ミシュラン三つ星のシェフやフードライター、料理研究家、さらには大手書店の担当者やブックデザイナーなど、そうそうたるメンバーです。それぞれの視点で選ばれた料理本には、それぞれのプロフェッショナルな思いと情熱が詰まっているだけでなく、ただ単に「次に買うべき料理本」をおすすめするガイドではないという点です。
その本が生まれた時代背景や文化、そして作り手たちの哲学だけでなく、プロの料理人の場合はどんな視点で本を手に取るのかといった点も書かれているんですね。
シェフの問いに対する答えが得られたのかどうか、あるいは別視点が得られたのか、その結果どうであったのか等、簡潔な文章でしっかり書き込まれています。興味深いではないですか!
例えば、カンテサンスの岸田周三シェフが何を求めてこの本を手に取ったのか。「独自の料理を生み出すために、料理本を読み漁った」という若かりし頃のエピソードとともに語られています。
本を通じて、プロと言われる人たちがどのようなインスピレーションを受け、どのように成長してきたのかを知ることができるのが、この本の大きな魅力です。
私自身も5冊の本を紹介させていただくにあたって、自分がしてきた仕事を振り返りました。そしてなぜ、どうして、こんな思いが…といったことをインタビューいただき原稿にまとめていただきましたので、大変に大きな経験となりました。版元であるグラフィック社の編集者には心より感謝しています。
料理本というジャンルの可能性
そうしてあらためて思うのは、料理本は単なるレシピ集ではない、ということ。
本としての体裁、デザインや構成にも、プロの視点や美意識、メッセージがたっぷり込められています。本書でも、著者と違って普段語られることのない、本の作り手たちの仕事ぶりが語られています。
料理本は、とくに日本のレシピブックは、他のジャンルの書籍と違い、文字だけがずらずらと並ぶことはほぼありません。同じページの中に文章と、材料表と作り方があり、それが美しい完成料理写真や作り方工程がわかるようなプロセス写真も添えられ、非常に華やかな紙面になるのが常です。
ですから、本の設計図(台割といいます)や紙面デザインを考えるとなったとき、私のように雑誌編集者としてキャリアをスタートした者にとってはおなじみの作業だと思えて、毎回、めちゃくちゃ楽しくて没頭してしまうのです。書籍といっても、ビジュアル思考優先で考えていいのが料理本です。雑誌好きには非常に親和性のあるジャンルでもあると思います。
定期的に出版される料理本ガイド
そんなわけで、過去に出版された料理本解説書はいくつかあります。いくつかというより、定期的に出版されるような印象すらあるのがこのジャンル。
2012年の高橋みどりさんによる『私の好きな料理の本』(新潮社)、2017年の『料理書のデザイン いま知っておきたい100冊』(誠文堂新光社)、2023年の『人生にはいつも料理本があった』(筑摩書房)などです。
いずれもそれぞれ独自の視点で、料理本を深掘りしています。
また、料理本制作に関わる仕事をしているという共通点もありつつも、関わり方によって視点が大きく異なります。
その違いも、料理本をより深く楽しむための視点に気づかせてくれるポイント。
料理本に限らず読書の楽しみというのは、「なるほど、そんな見方があるのか」という新たな気づきを得ることですよね。
ここで紹介した4冊は、そうした視点を与えてくれる料理本ガイドです。
料理本というジャンルの奥深さを改めて感じさせてくれる貴重な存在でもありますので強くおすすめします。
おすすめの料理本ガイド
各ガイド本の見どころについては、別の投稿でしっかりと紹介する予定ですので、ここではリンクだけおいておきます。
出版に興味のある方へ
さて、あなたももしかしたら「自分の経験や知識を本として形にしたい」と考えたことはありますか? 叶えたい夢として掲げている?
一度でも頭をよぎったことがある……という人はnoteでは少なくないのかもと思います。編集者の私ですら、うっすら頭をよぎることがあるんです。いつもは著者の黒子に徹する仕事なのですが。
でも、「才能を世に送り出す」というのが私が掲げているミッション。世の中には本当に多くの才能にあふれている、けれどその出し方や社会にインパクトを与えられる切り口が見つからない、自分にはその資格がないと感じている方も多いように思います。
たまたま私は書籍や雑誌の編集という分野で仕事してきて、本の作り方を知っているのだから、そのスキルを使って世に送り出すお手伝いができる。
そう気づいたときから、ただのフリーランス編集者ではなくなりました。
才能に出会いたいです。
ぜひご相談ください。
私はこれまでに多くの著者とともに、書籍を出版するという超楽しいプロセスを歩んできました。一冊の本が持つ力を信じています。一緒に形にしていきましょう。
商業出版のご相談はお気軽に! ★ contact ★ よりどうぞ
=選書した30名=
笠原将弘(日本料理店「賛否両論」)
岸田周三(フランス料理店「カンテサンス」)
紺野真(ビストロ「ウグイス」「オルガン」)
西口大輔(イタリア料理店「ヴォーロ・コズィ」)
川田智也(中国料理店「茶禅華」)
稲田俊輔(南インド料理店「エリックサウス」)
森枝幹(タイ料理店「チョンプー」)
樋口直哉(作家・料理家)
有賀薫(スープ作家)
今井真実(料理家)
水野仁輔(カレー研究家)
東山広樹(フードプロデューサー)
阿古真理(作家・生活史研究家)三浦哲哉(映画批評家・エッセイスト)
白央篤司(フードライター)
大谷悠也(鮨ブログ「すしログ」主宰)
若林知人(辻調理師専門学校 フランス料理教員)
長谷川美保(『オレンジページ』編集長)
淀野晃一(『月刊専門料理』編集長)
綛谷久美(編集者)
鈴木めぐみ(選書者・編集者)
辻本力(編集者・ライター)
藤田康平(グラフィックデザイナー)
大野里沙(「紀伊國屋書店 新宿本店」料理書担当)
山本寿子(「ジュンク堂書店 池袋本店」実用書担当)
澤峰子(「代官山 蔦屋書店」料理コンシェルジュ)
佐々木友紀(書店「YATO」)
諏訪雅也(古書店「悠久堂書店」)
前久保好平(オンライン書店「CHEF'S LIBRARY」)
松本直子(「食の文化ライブラリー」司書)
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