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「孤食」から「個食」全肯定の時代の料理本

作家で生活史研究家の阿古真理さんにご取材いただいた記事が公開になりました。
テーマは「ポジティブな個食」。

阿古さんとご一緒させていただいた理想のキッチン検討会がご縁で、我が家の食事スタイルのことをご存知だったことからのお話でした。

かつては、一人で食事するというと、ただひたすらに「かわいそう」とか「親の無責任」といったネガティブなイメージがつきまとっていたかと思います。
しかし、阿古さんと一緒に取材に来られた講談社のZ世代編集者は、

「それぞれのライフスタイルに合わせて、好きな時間に好きな食事をする。素敵でした。」

という全肯定な感想を寄せてくだいました。
それを読んで、ああ時代は変わったな、と思わずしみじみしてしまいました。
何しろ今年還暦を迎える私です。この世代は、25歳を過ぎて未婚でいると「クリスマスケーキ」と言われ、結婚したら家庭に入り完璧な家事をこなし、夫と子どもの帰りを待つ母であることが理想と叩き込まれてきました。
だから同級生の女性のほとんどが仕事を辞め、専業主婦を選んでいましたので、こんな記事が出ること自体に感激です。
そして「やっとここまできた」とすら思うのです。

そんな社会の変化に呼応するかのように、料理本の企画を立てる時は、共働きで時間がないのが大前提、だから「手早く」「時短」で、「節約」もできちゃうテーマが基本です。
その上で、著者のパーソナリティや強みと、時代が求めるノウハウをかけ合わせて作ります。
さらに意外に重要なのが、「本音むき出し」の本が俄然ヒットを飛ばすようになりました。

「やるしかないない」、まさにソレ!

例えば、こちらの本。
『やるしかないから、今日もごはんを作る!』(主婦の友社)。

著者のまいさんは、2023年3月にInstagramを始めて1か月でフォロワー1万人を突破し、1年後には初著書出版、現在はフォロワー49.7万人(5/17現在)ってすごすぎる。

けれど、「愛する家族のために」「みんなの笑顔を」といったきれいな言葉を並べるのではなく、「やるしかない」って言い切っちゃう潔さにみんなが惹かれてフォローしているのだ、ということがよくわかるのです。
アンチコメントが来たという日は、「私は私のスタイルで家事も子育ても楽しくやれればよしのり。」というリールを回しちゃう。
男性からのコメントも多いということからも、人気っぷりが伺えます。

料理本でヒットするか否かは、男性購買層からの支持も大切な要素。

振り切ってるから欲望にストレートに響く

振り切り方に迷いがないから、読んでいて気持ちがいい本といえば、ここnoteではおなじみ、酒徒さんの『あたらしい家中華』(マガジンハウス)でしょう。

さんざん語られているから、本についてさらに言い募る必要はないのだけれども、手元の本をぱかっと開いて出てきたのが「陝西式油そば」。
「茹でたて熱々の麺にカンカンに熱した油をかけ回すと、華やかな香りが竜巻のように立ち昇る」って、もうたまらんでしょ。
油をかけるのに、胃もたれするような油っぽさとは無縁なレシピ。
酒徒さんちのお子さまも、家中華が大好きだというのです。

「子どもがいるから…」などと遠慮しない、お父さんならではの潔さと勢いと旨いもんは子どもにもわかる! という、やさしさにあふれた力を感じます。

どうしても最近は、SNSでの炎上を恐れて本音を言えない風潮もあるし、自ら律してナンボみたいなところもあるかもしれません。
でも、誰かを傷つけるわけではないなら、思い切って自分の好きに素直になるのが肝心ではないかと思います。
酒徒さんの、とにかく好き、にみんなが巻き込まれているんですから。

ちなみに、今私が手掛けている料理本(今年11月発売の予定)でも、ふりきった著者さんがずずいとおいしいレシピをたくさんあげてくださっています。
迷わないって肝要ですよ。

個食、共食、どちらも自分らしさ

さて、個食の話。
記事にあるように、個食は愉しみにもつながるものです。誰かに遠慮することなく、自分が今食べたいもののことを考える愉しさったらないですもん。
ただ、小さいお子さんがいる家では子ども優先になりがちですよね。 <<おつかれさまです!
でも、「私は食べたくないけど家族が言うからー」は、なんとか互いの合意地点をみつけたいですよね!

SNSのおかげで、普通の一般家庭が、とりわけ食卓の様子がさまざまな媒体で見られるようになって、「我が家の常識は非常識」を知ると同時に、「憧れ」だったり「妬み」だったりといった人間感情がむき出しになる機会が増えました。
我が家のような「個食」は昭和的価値観であったなら、「お母さんなのに」と言われた最たるものだったと思います。

でも、好きな仕事に就いた私も夫のどちらも、家庭を持とうが子どもが生まれようが、環境を整えてしっかり仕事をして、好きなものを食べて、それが幸せの源と思ってやってきました。

そんな我が家であっても、誰かが「私だけが損してる!」と言い出したらきっと途中で破綻していたと思います。言わなかったのは、「おいしい」を諦めなかったからかな。
記事にもありますが、週末の家族の食卓は、我が家のメンバーだけでなく、大勢でワイワイが当たり前でした。
こうしたおいしさの体験のおかげで、出版社を辞めた今でも料理本編集に関わることができて、好きな仕事を手放すこともなく、さらに世界を広げられています。
家族をはじめとする環境に、社会に、感謝の気持ちでいっぱいです。
「好き」に素直になるためにも、まずは個食の愉しみを知ることから始めるってどうでしょう。
次回は一人呑みの本とか、おすすめしましょうかね。


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COOKBOOK LAB./綛谷久美(商業出版編集)
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