世界に拡大する韓国インフルエンサーブランド、売れる秘訣は「信頼」の発信 / 後編
元祖オルチャンとして韓国、日本だけでなく東アジアで人気を博すホン・ヨンギ氏は現在インスタグラムで74万フォロワーを抱えるインフルエンサーとしてだけでなく、韓国コスメブランド「Milk Touch」のプロデューサーとしても活動する。
オルチャンは韓国語の俗語で「美少女・美男子」という意味を持つが、日本では可愛らしいテイストのファッションやメイクを好む韓国美女を指し、ピンクを基調とした独自の世界観に日本の若者も魅了された。「スタイルナンダ(STYLENANDA)」のピンクの店舗や、TSIホールディングスが日本展開を手掛ける「ロラロラ(ROLAROLA)」などの世界観がわかりやすい。
しかし流行の移り変わりと共にオルチャントレンドは下火になりつつある。その中でホン・ヨンギ氏がデビューから約10年が経過しても人気を誇っているのは、ファンと共に成長し、等身大の自分を発進しているからだろう。「Milk Touch」も今年27歳のホン・ヨンギ氏の等身大の世界観や考え方を反映している。ブランドのコンセプトや製品のこだわりについては前編で聞いたが、後編ではその世界観の共有方法やブランドとしての販売戦略、さらに近年のインフルエンサーブランドの登場について話を聞いた。
世界観だけでなく、信頼を発信するということ
「Milk Touch」は「自分だけでなく、家族や友達、知人も安心して使用できるものを作る」という思いからメイクラインにも肌に優しい成分を配合し、本来の美しさを引き出すコスメを目指している。ターゲット層はホン・ヨンギ氏と同じ20代の「可愛くてトレンディなものが好きな女性層」だという。
全ての商品開発にはホン・ヨンギ氏が関わるが、全てのアイテムにファンの方々の意見を取り入れたという。「インスタのコメントやDM、インスタライブ時の反応など、様々な意見をきちんと反映した商品を作ろうと日々努力しています」。今後はこの過程をより具体化し、ファンの意見をどのように製品に反映し、どんな過程を経て商品が作られるのかといった一連の流れを全て見せることを計画しているという。「“ヨンシミ”(ホン・ヨンギ氏のファンの愛称)が作る『Milk Touch』!」といったテーマで計画しています」。
このようにファンの声に耳を傾けるだけでなく、透明性を保った発信の仕方も購入に繋がるポイントのようで「私を信頼してブランドを購入して下さる方が多いです。私が家族や知人など周囲の人達と一緒に、一つひとつテスターし、修正を重ねながら完成させた商品と伝わっているからこそ、信頼して頂けるのだと思います」。実際にこういった信頼から、韓国では新商品をローンチする度、ほとんどのお客がテスターをせずとも商品を購入するという。「完売する度に私の言葉や努力を信頼して購入してくださっているということを改めて感じます。だから自分の名前を掲げで運営している以上、消費者を失望させてはいけないという負担も背負っています」。
現在韓国のみで販売されている「ラブ クッション」は自身のユーチューブではその製作過程を公開。自社ECがサーバーダウンを起こす程の注目を集めて完売し、再販売となった。
真のブランドとなるために - ファン以外との接点
ブランドの世界観を伝えることはどのブランドにとっても重要なことだ。インスタグラムを中心に活動するホン・ヨンギ氏はこれまで、自身のインスタアカウントと「Milk Touch」の公式インスタアカウントを通じて世界観を発信してきたが、日本展開開始に合わせて11月中旬からは「Milk Touch」ジャパンアカウントもスタート。既に多くの反応が集まっている。
インフルエンサーブランドというと、多くの場合はその購入者はフォロワーということになる。しかし本来はインフルエンサーから半独立し、ファン以外にも顧客を広げることが理想だ。「Milk Touch」はその道を進んでいるブランドだと言える。ホン・ヨンギ氏は「本当にありがたいことに、多くの方がいい口コミを掲載して下さり、私のフォロワーでない方々の購入も多くなりました」。最近ではメディアでの取り上げや、YouTubeチャンネルでの撮影依頼など様々なチャンネルを通じてブランドが広まっているという。
「より多くの方に知ってもらえるように、SNS広告を活発に行っています。今後はK-POPアイドルやセレブの方々への協賛なども行う予定です」と話す。プロデューサーのインフルエンサーの知名度のみに頼るのではなく、ブランドとして確立しているからこそ出せる戦略だろう。
「名前だけ貸すのは、すごく危険な考え方」
以前にも書いたように、今は世界的にインフルエンサーが物を作って売る、いわゆるインフルエンサーブランドが台頭してきている。そういった潮流を、長年インフルエンサーとして活躍し自身もその一人となったホン・ヨンギ氏はどう捉えているのだろうか。「(美容系の)インフルエンサーは元々、製造者になる前は『消費者』でした。消費者の中でも『最も化粧品を多く使用したことがある消費者』だった人たちです。だからこそ、消費者の立場になって成分一つひとつにこだわることができ、本当に信頼出来るいい商品を作れる素質があると思います」と語る。インフルエンサーのようにニーズを日々キャッチし、ユーザー=ファンの反応を直に受け、コミュニケーションを取れるという環境は、大手企業ではなかなか再現できないもの。その反応や自身の経験・知識を基にした製品が消費者に受け入れられるのは分かりやすい構図だ。
またホン・ヨンギ氏は「インフルエンサーが直接関わって作るのではなく、名前だけ貸して、自分が作ったかのように商品を出すという考え方はすごく危険な考え方だと思います」とも語る。
インフルエンサーブランドの中には企業が主導し、インフルエンサーは開発の一部だけを触ったり拡散のみを行う名ばかりのプロデューサーに止まるケースもあると言われるが、信頼が大きな柱となるインフルエンサーという存在にとって、そういった関わり方は彼女が言う通り“危険な考え方”である。また企業にとってもこれは“危険な考え方”で、いくらフォロワー数の多いインフルエンサーの名前で売っても、ブランドとして確立できなければリピート購入は難しい。
ホン・ヨンギ氏は「私は“最も化粧品を多く使用したことがある”人の一人として、常に消費者の立場で考え、私を信頼してくれるファンや消費者の皆さんの気持ちにお答えできるような商品を作りたい」と話す。これこそインフルエンサーブランドのあるべき形ではないか。
今後は日本での展開に加えて中国、台湾、東南アジアなど様々な国に展開を拡大するといい、台湾ではコスメ専門の大手チェーン店に加わるという。韓国から世界へ羽ばたくインフルエンサーブランドが、今後どのように成長していくか期待が高まる。