女二人、家を買う(2):開発分譲地って、どうなの?
首都圏で開発分譲地の新築建売住宅を購入した女性同士のカップルの片割れです。新居に引っ越して1ヶ月が経ちました。開発分譲地の人間関係について入居前に不安に思っていたこと、そして入居後に分かった実際の様子について、現時点での印象を書いていきます。
※私たちのことや、家を購入した経緯等については、こちらに書きました。
入居前の不安
我が家は、10世帯程度の小規模な開発分譲地の一画にあります。最寄り駅から徒歩6分の立地で、駅周辺も分譲地自体も昔からある住宅街に囲まれているので、「ニュータウン」のような独立したコミュニティ感はありませんが、分譲地一帯が袋小路になっています。
一般に開発分譲地と言うと、若い子育て世帯が多く、家族ぐるみの濃厚な人間関係が形成されがちだというイメージがあります。それを期待して開発分譲地を購入する方もいるかと思いますが、私たちは同性カップルであり、子供もいないため、そうした同質性の高い環境が居心地の悪さに繋がるのではないかという懸念がありました。
実際には…① 世帯構成は様々
しかし、ご近所に引っ越しの挨拶に行ってみて分かったのですが、僅か10世帯ほどの分譲地でも世帯構成は十人十色でした。大学生くらいのお子さんのいる世帯もあれば、新生児のいる世帯もあり、大人のみの世帯もあり。ご夫婦と思しき方の世代にも、かなり幅がありそう。残念ながら我々のような同性同士のみの世帯はありませんでしたが、少なくとも、世帯構成の特異性によって疎外感や居心地の悪さを覚えるような環境ではなさそうです。
実際には…② 人気(ひとけ)がない
また、これは入居後に分かったことですが、私の部屋(書斎)は日中でも窓を閉めていると、よその家の生活音や人間の声がほとんど聞こえません。周辺環境の問題なのか家の構造の問題なのか分かりませんが、猫用の給水機の音や自分のタイピング音がやけに大きく響いて聞こえるほど、シーンと静まり返っています。うちは袋小路の中ほどに位置しており、家の前は私道なので、人通りや車通りもほぼありません。立ち話をしている人の姿も見かけません。現時点では、疎外感以前に、人間の気配を感じる機会が極めて少ない状態です。
実際には…③ 町内会がない
そして、最も予想外だったのは、このあたりには町内会がないということです。ゴミ集積場の掃除当番もなく、各自が気をつけて出すのみ(実際、皆さん、ゴミ捨てのマナーが大変良いので、ズボラな私たちは常にちょっと緊張しています)。地域住民同士で交流する機会は今のところ全くなさそうです。
町内会がないと聞いたときには驚きましたが、考えてみれば、セクシュアリティを問わず、近隣住民との煩わしい人間関係を厭う人は近年増えているわけで、都市部ではこのようなコミュニティを積極的に形成しない地域のあり方が増えているのかもしれません。私の実家(東京23区の端っこ)の周辺も、再開発によって人口密度は上昇しているはずですが、コロナ禍も相まって、近隣住民を見かける機会が昔に比べて減少したように感じます。90年代頃までは、エプロン姿で立ち話をする女性や、路上で遊ぶ子供たち、日がな一日煙草を吸いながら家の前に座っている高齢者など、日中、常に誰かしら地域住民の姿を公共空間(路上)で見かけました。彼らが(私もその一人ですが)実家の周辺から姿を消したように、この分譲地周辺の住宅街にも、かつてはああいう町のコミュニティが存在し、やがて消えていったのかもしれません。
失われた地域コミュニティに郷愁を感じなくもありませんが、しかし、性的マイノリティ当事者としては、入居前に心配していたような居心地の悪さを感じる機会がないことにホッとしています。「ニュータウン」のような同質性の高いコミュニティであれ、昔ながらの町内会であれ、同性カップルとして新規参入するのは勇気が要るので、コミュニティそのものが存在しない(あるいは、希薄な)地域というのは私たちにはぴったりの街かもしれません。
余談:引っ越しの挨拶
ちなみに、さきほど「引っ越しの挨拶に行ってみて分かった」と書きましたが、私たちは引っ越し前に、同じ分譲地のすべてのお宅にご挨拶に行きました。
一般に引越しの挨拶は「向こう3軒両隣」と言われています。また、不動産仲介会社の方からは、「近頃は、都市部では引っ越しの挨拶に行かない方も多いですよ」とも聞きましたが、新たにご近所になる方々は、生涯のお付き合いになるかもしれない人たちです。災害時や様々なライブイベントのタイミングで関わりを持つ機会もあるでしょう。また、防犯上の観点からも、隣近所に住んでいるのがどんな人間か、誰でも気になるのではないかと思います。
ご近所への挨拶回りは同性カップルが地味に悩むイベントの一つであり、私たちも「どんな風に思われるだろう…?」と不安な気持ちもありましたが、勇気を出して、「〇号に引っ越してきました、〇〇と〇〇(名前)です」とだけお伝えする形でご挨拶にうかがいました。その時々の雰囲気で、「猫が2匹います」とか、「大人二人の世帯です」とか、「引っ越しの日はお騒がせしてすみません」とか、オプションを追加しました。とくに関係性を突っ込んで訊かれることもなく、皆さん、にこやかにご家族を紹介して下さいました。
人間関係は希薄ですが、良い人そうな方ばかりだったので、安心して新生活のスタートを切ることができました。挨拶って大事!
まとめ
そんなわけで、私の入居前の懸念は、(いまのところ)杞憂に終わりました。近隣の人間関係の煩わしさが心配で、戸建て購入を躊躇っている性的マイノリティの方もいるのではないかと思うので、事例の一つとして書いておきます。
ただ、「開発分譲地」あるいは「新興分譲地」で検索すると、セクシュアリティとは関係なく様々なご近所トラブルの事例が出てくるので、こればかりは運としか言いようがないかもしれません。私たちも、とりあえず現時点で問題がないというだけで、今後どうなるかは分かりません。また、私たち自身が不快な隣人とならないよう、気を付けなければ、とも思っています。
いずれにせよ、ご近所さんとは、日々の付き合いはあっさりと、でも何かあったときは助け合う間柄になれたら嬉しいです。