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女二人、家を買う(1): 購入まで
40代前半の女性同士のカップルが、首都圏で小規模分譲地の新築建売住宅を購入するまでの備忘録です。2021年10月から探し始め、同年11月末に引き渡しが完了しました。住宅ローンや相続対策に関する部分以外は、世に数多ある戸建て購入記録ととくに異なる点はありません。でも、「とくに異なる点がない」ということが、これから家を買う同性カップルさんにとっては安心材料になるかもしれない。また逆に、数少ない「異なる点」こそが当事者にとっては大問題なんだよね。ということで、一つの同性カップルの事例として、諸々書き残しておきたいと思います。
1.私たちのこと
私とパートナーのRは、交際15年目、40代前半の女性同士のカップルです。家族は私たちのほかに、猫が2匹います。2020年3月に自治体の定めるパートナーシップ宣誓を行いました。
親兄弟や友人たちには私たちの関係を告げており、お互いの実家との関係、また実家同士の関係も良好ですが、職場では概ねクローゼット(自分のセクシュアリティを公表していない状態)です。
もともと私たちは、可能な限り賃貸マンションで暮らし、老後は私の実家(東京23区の端っこ/戸建て)をリフォームして住むことになるのかなあ、と漠然と考えていました。でも、一般に高齢になると賃貸住宅が借りにくくなること、また、実家を相続したとしても、高齢になってから居住地域を変えることに不安があることなどから、だったらいっそのこと現在の生活圏で家を買ってしまったほうが気が楽なんじゃない?と思うようになり、不動産購入の検討を始めました。
2.家に求める条件
私たちが家に求める必須条件は、以下の3つです。
(1)〇〇線沿線であること。
(2)駅近であること。
(3)リビングと寝室の他に、書斎と書庫に適した部屋があること。
最優先事項は立地で、次点が間取りと広さ。私は在宅ワークが多いので、書斎は最低7帖、できれば見晴らしが良いと嬉しい。また、書斎とは別に、壁面を本棚で埋められる部屋(書庫)がほしい。
当初考えていたのはこれくらいで、内装や外観、設備や性能など、家そのものに関するこだわりは一切ありませんでした。
3.購入までのスケジュール
①10月第1週、内見予約
当初は、防犯上の安全性や共有部の管理清掃を管理会社に任せられるといったメリットに惹かれて、マンションを購入するつもりでした。まずは物件情報サイトを一通り物色し、内見予約。
②10月第2週、内見・購入申し込み
ところが、いざ物件を見てみると、マンションの高層階や、そもそも大きな建物が苦手かもしれない……ということに気づきました。また、庭付きのマンション1階の物件を見たことで、ガーデニングへの憧れがむくむくと。こだわりはないと思っていたけれど、実際に物件を見てみると、自分でも気づいていなかった意外な好みが色々と見えてきます。というわけで、内見初日にマンションから戸建てへと希望を変更しました。
ここで、不動産仲介会社の店舗に行き、相談タイム。担当の方が、一緒にデータベースを見ながら、私たちの条件に合う物件を一旦すべてリストアップし、それぞれの物件の価格の理由、とくに例外的に安い場合の理由や、良い点・悪い点を解説してくれました(この方は宅建士でもあり、後に重要事項説明も担当して下さいました)。この解説が大変ありがたくて、おかげで建売住宅の相場がなんとなく分かり、どういう点を比較して選べば良いのか頭が整理できました。
また、このリストアップ作業のおかげで、そもそも私たちが望むエリアで駅近の戸建ては、売りに出ている絶対数が極めて少ないことも分かりました。私たちは注文住宅を建てる可能性は全く考えていませんでしたが、土地のみの物件はさらに稀少のようです。幸い、「2.家に求める条件」で挙げた必須条件を満たす物件があったため、その日のうちに内見。実際に行ってみると、ルーフバルコニーからの見晴らしが良く、駅近なのに静かな住宅街で、すぐに気に入りました。翌日もう一度、駅からの距離や坂道の傾斜を歩いて確認しつつ、内見。住宅ローンの相談もした上で、購入申し込みを行いました。
③10月第2週、住宅ローン事前審査
購入申し込みと同時に、住宅ローンの事前審査の申し込みも行いました。このとき、ペアローンを希望している旨を伝えたところ、上記の担当の方から「お二人はパートナーですか? 自治体のパートナーシップ宣誓はなさっていますか?」と訊かれました。これが、家を買う一連のプロセスのなかで、私たちの関係性を問われた唯一の言葉です。そして、自治体のパートナーシップ宣誓を行っていれば婚姻関係がなくとも連帯債務型の借入が可能ということで、下記の住宅ローンを紹介されました。
連帯債務型借入は、ペアローンに比べて借入にかかる手数料が安く済むこと、また連帯保証型のローンと違って二人とも住宅ローン控除を受けられることがメリットです。ただし、金利が+年0.18%になります。
以前、同性カップルがペアローンを組むためには公正証書が必要だという記事を拝読していたので、その点は便利になっていると感じました(※この記事の内容は、2021年10月時点のものです)。
④10月第3週、重要事項説明・契約
購入申し込みと住宅ローン事前審査が無事通った後、不動産会社にて重要事項説明を受けました。
重要事項説明は、たいへん楽しいひと時でした。「このページに書かれているのが、この物件をめぐる登場人物たちです」というワクワクするようなイントロダクションから始まり、この数値は誰が何のために測量したものか、なぜこの数値とこの数値にズレがあるのか、この項目は何を意味しているのか等、ひとつひとつ噛み砕いて説明して頂き、「家は、さまざまな分野の専門知が結集して作られているんだなあ!」と感動しました。
質問にも丁寧に答えて頂き、深く感銘を受けつつ、契約。このとき受け取った『不動産重要事項書類』は、その後も、図鑑を眺めるように何度も読み返しています。
⑤10月第4週、住宅ローン本審査
住宅ローンの本審査の申し込みのため、銀行へ。このとき、住民票や前年度の確定申告書の控え(確定申告を行っていない人は源泉徴収票)等に加え、付帯保険の申し込みのため健康診断書も持参しました。約2週間後、本審査が通ったというお知らせのメールをもらい、ホッと一安心。
ちなみに、私たちがお世話になった不動産仲介会社では、宅建の資格をお持ちの中堅の方と、細かなスケジュールを管理して下さる若手の方がペアになって面倒を見て下さいました。このスケジュール管理が非常にきめ細やかで、購入申し込みの段階で既に今後必要になる書類のリストを頂き、私たちがそれらを役所に取りに行く日程も含めて、スケジュール調整して下さいました。ステップが一つ進むごとに必要書類や確認すべき事項を電話やメールで改めて事前にお知らせ頂き、銀行にも常に送迎しつつ同行して下さるなど、至れり尽くせり。不動産仲介業とは一般にこういうお仕事なのかもしれませんが、「痒い所に手が届く」どころか、痒いと思うより先に掻いてくれるような行き届いたお仕事ぶりに、感嘆しました。
⑥11月第1週、現場立会、リフォーム会社へ依頼
現場立会(売主さんとの現場チェック)は、私は仕事の都合で参加できず、パートナーのRのみ参加しました。その際、不動産会社紹介のリフォーム業者の営業さんも来て下さり、エアコンの設置やセカンド洗面の増設工事、フロアコーティング等の見積もりをお願いしました。
エアコンやフロアコーティングに関しては、「不動産会社から紹介されるリフォーム業者は、紹介料等が含まれるため高いに違いない」と思い、複数の業者に見積もりをお願いしました。ところが、基本料金は安いところでも、諸々オプションを付けると意外とお高くなるのですね。他の業者は現場を見ていない以上、オプション料金がどれくらいかかるか正確には分からず、結局、この現場立会に来て下さったリフォーム業者に多くの施工をお願いしました。
後述しますが、このリフォーム業者の営業さんはインテリア・コーディネーターの資格をお持ちの方で、カーテン選びの際も助けて頂きました。
また、この頃、引っ越し業者への依頼やインターネットの移転手続きも開始しました。インターネットに関して、マンション→マンションの引っ越しに比べ、マンション→戸建ての引っ越しは、はるかに手続きが面倒です。これについては書きたいことが山ほどありますが、長くなるので割愛します。
⑦11月第3週、住宅ローン契約(金銭消費賃借契約)
手続きは粛々と進み、銀行窓口にて正式なローンの契約(金銭消費貸借契約)へ。このとき、印鑑証明や住民票などを持参します。
契約後、現場立会に来て下さったリフォーム会社のショールームに行き、セカンド洗面やカーテンの詳細を相談してきました。カーテンも、当初は家具量販店で安価に揃えようと思っていたのですが、店舗に行っても何をどういう基準で選べば良いのか見当がつかず、断念。結局、リフォーム会社の営業さん(兼・インテリア・コーディネーターの方)の提案にそのまま乗っかりました。後日、取り付けが完了した部屋を見てみると、建具と同じ色調のカーテンレールやウッドブラインドと、カーテン、シェード、ロールカーテンを組み合わせた家全体のコーディネートがとっても素敵で、「自分たちで選ばなくて本当に良かった…!」と思いました。
⑧11月第4週、残金決済・引き渡し
銀行で残金決済を行い、家の鍵をもらって、ついにすべての手続きが完了。やっと終わったー!!
この日、不動産仲介会社の担当さんに、御礼の菓子折りとささやかなプレゼントをお渡ししました。物件探しから引き渡しに至るまで、豊富な知識ときめ細やかな連絡でサポートして頂き、本当に感謝しきりです。
4.まとめ:「購買者」としての障壁は低い、けれど…
以上、物件探しから引き渡しまで、私たちの場合は約2ヶ月で終わりました。建売住宅なので面倒なステップは基本的に一切ありませんが、それでも、毎週末(ときには平日の仕事終わりに)、申し込みや契約、あるいは必要書類を取りに、不動産仲介会社、銀行、自治体の役所へと足を運び、仕事の繁忙期もあいまって引き渡しの頃にはもうヘトヘトでした。
この間、同性カップルならではの出来事が何かあったかというと、「購入にかかわる手続きにおいては、特筆すべき点がない」というのが私の感想です。不動産仲介会社、銀行、リフォーム会社、いずれにおいても、「購買者」としては単なるDINKsと見なされているという印象でした。性的マイノリティは日常のなかで多かれ少なかれ不自由や不快を経験する機会があると思いますが、そうした日常的な体感と比較しても、不自由や不快を感じる機会は驚くほど少なかったです。
ただし、それはあくまでも「購買者」としての感想です。購買者としては平等に扱われても、私たちは国民として平等な権利を得ているわけではありません。法的な婚姻関係にあるカップルと違い、私たちはパートナーシップ宣誓をしていても、遺言書を作成しておかなければ、パートナーの財産を相続することもできません。購入できる商品の選択肢が増えることは、もちろん生活を便利にはしてくれますが、何よりもまず安心して生きられるような法整備を進めてほしい、というのが正直な気持ちです。
でも、何はともあれ、マイホームを購入したことで「私たちは、老後、どこに住んでいるんだろう…」というモヤモヤとした思いは一つ解消されました。また、初めて金銭的な面での人生設計を可視化してみたことで、生活を見直す良いきっかけにもなりました。相続対策や(まだこれから)、新居に住んでからのこと(引っ越しも、まだこれから)は、また改めて書きたいと思います。