【考察】ドクター・フーと『大鴉』
ドクター・フーS9の終盤三部作は傑作エピソードであると同時に様々なフーヴィアンに消えない傷を残した。
そんな『カラスに立ち向かえ』『影に捕らわれて』『時空の果てで』の三部作だが、実はこれらはエドガー・アラン・ポー作の詩『大鴉』を元に作られている。
前からそんな話を聞いていたのだが、この際思い立って『大鴉』を読んでみた。そこで思った事、考えた事をまとめたい。
完全に私の主観なので悪しからず。
あ、そうだ。
『大鴉』について
まずざっくりと大鴉についてまとめる。
主人公は恋人の「レノア」を失い、忘れ去られた伝説の本を読み耽っていた。だがそれでもレノアを失った悲しみを忘れられずにいると、戸を叩く音がする。
ノックの主を招き入れようとドアを開けると、そこには一面の闇が開かれており、亡き想い人の名を呼ぶも闇は答えを返さない。落胆しながら戻ると、今度はより大きな音で窓を叩く音がし何事かと思っていると、人語を話す巨大な鴉が入ってきてパラスの胸像の上に止まる。
その神秘的な雰囲気に気圧された主人公は大鴉に問いを投げかける、それに対して大鴉はこう返すのであった。
「Nevermore」
前日譚 S9E10『カラスに立ち向かえ』
E10ではクララが無実の罪を被ったリグシーに代わりクォンタム・シェードを受け入れて死に、ドクターは遺言ダイヤルの空間へと送られる。
言うまでもないがこのエピソードでは「クララ」が「レノア」であり、「ドクター」は「主人公」、そして「大鴉」が「クォンタム・シェード」である。
『大鴉』では描かれなかった主人公が恋人を失う過程を描いている。また、クォンタム・シェードを直訳すると「量子を断ち切る」になり、クララの命運が断ち切られたことを指しているのかもしれない。
そしてその命の糸を断ち切った大鴉は主人公であるドクターにこう言うのだ。
「Never more」と。
本編 S9E11『影に捕らわれて』
私が思うにこのE11こそが『大鴉』の本編を表しているように思える。
『大鴉』の本編では、主人公と大鴉の問答がほとんどを占める。もっとも主人公の問いかけに対し、大鴉は「Never more」としか返さない。
だがそれはドクターをどこまでも追いかける得体の知れないヴェールの怪物や、数多の謎を解き困難を乗り越えた末に現れる20フィートもの厚さのダイヤモンドの400倍の硬度を持つアズバンチウムの壁を彷彿とさせる。
ドクターはクララを死の運命を変えるためにハイブリッドの秘密を守り通そうと頑なに口を閉ざし、そんなドクターをヴェールの怪物は無慈悲に殺す。それを何度も何度も繰り返して45億年が過ぎる。
この様子は恋人レノアの事を想いながら
「忘れ薬ネペンテスはないのか?」
「苦痛を癒すギリヤドの香油はないのか?」
「天国でレノアと再会することができるのか?」
と問う主人公に対して全て
「Never more」
と何度も突き返す大鴉を思わせる。
フーヴィアンの中には何故『Heaven Sent』が『影に捕らわれて』になったのか疑問を抱いた方もいるだろう。だがどちらのタイトルもこのエピソードが『大鴉』から抽出したエッセンスを表す良いタイトルだと思う。
話を戻すと、主人公は無慈悲な答えに発狂し、最後は大鴉が作り出す影に呑まれて絶望してしまう。
だが片やドクターはというと…
捕らわれていた影から抜け出したのだ。
完結編 S9E12『時空の果てで』
さて、ここからは『大鴉』の後日譚とも言える話である。
原題の『Hell Bent』は「猪突猛進」や「危険を分かっていても、固く決意して猛烈に突き進む様」を表している。
タイトルの通り、ドクターはタイムロード相手に大立ち回りを演じる。最高評議会メンバーに頭を下げさせるだけでは飽き足らず、そのトップでありこれを仕込んだラシロンを追放した上に、クララを逃がすため銃を放つことも厭わない。
言わば『大鴉』の後で完全にキレた主人公が天国に乗り込んで神に詰め寄って追放し、その後でレノアを復活させ、忠告した天使を殺すようなものだ。まさに”Hell Bent”そのものである。
だが結局クララの運命を変えることはできず、ドクターは運命を捻じ曲げた対価を払う羽目になる。ノックの後で大鴉がやってきたのだ。
ドクターはクララの記憶を失った。まるで大鴉に主人公が乞うた「忘れ薬ネペンテス」を飲んだかのように。
クララはドクターに「走ってお利口さん、そしてドクターになって」という言葉を残して別々の道を行った。
『大鴉』の幕引きは恋人はよみがえったものの、主人公は記憶を失ったという切ないエンディングになった。
大鴉が言うように二人が結ばれる事は「Never more」なのだ。
本当にそうなのか?
真・完結編 『戦場と二人のドクター』
そんなことは無い、ドクターは「Never more」と突き付け続けた大鴉に勝ったのである。
ティスティモニーのビルは「記憶こそが人」と言っていた。これを是とするのならクララは蘇った上でドクターと再会したのである。
『大鴉』で言うならば主人公の今際の瞬間にレノアが天使として迎えに来たのだ。二度と無いはずの未来が起こったのである。
これが大団円と言わずして何と言う。
最後に
いかがだっただろうか、『大鴉』を使ってS9三部作+αを紐解いてみた。
これは完全に私の主観であり、これを読んでいる方々の解釈は変わるかもしれない。
是非とも自分で『大鴉』を読んでからあなた方なりの解釈をして頂きたい。
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