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能傍タルツの実話怪談コレクションその十三「現代筑前奇談考」-12月『おん あみりた ていせいから うん』
「あれはキレイぞ。あげな美人は初めてみた」
「西さんでも初めて見たものなんですか」
「おお、ビカビカ光ったキレイなのがおろうが?」
「おろうが?と言われましても…何の話ですかね?」
「ほらアレたい、観音様や無くて、何かおろうが?」
「え?」
「そうそう、弥勒菩薩たい!あれが出てきた!
俺も初めてばい!あれは魂がった!」
「ええええええええ~‼️マジですか!」
西先輩は首にかけたタオルで
禿頭を拭きあげながら
神妙な顔つきで話を続けた。
「霊媒師が祈りよろうが。
そしたらまず、
仏壇の位牌から
うちの女房がしゅるん!と出て来てからくさ、
俺に深々頭下げるたい」
「お世話になりましたって感じで?」
「そうそう。
ほいで、うちんとが位牌に引っ込んだ思うたら
ビカビカビカビカ~‼️
光るのが今度は出てきてよ、
弥勒菩薩たい!」
「自分そんな話、初めて聞きましたよ」
「おお、俺も初めてたい。
あの美しさと神々しさはこの世の女や無か。
一目で解るたい。
ほいで、俺に優しく会釈するとよ」
「“奥様は私がこれからお連れいたしますから”
みたいな感じですかね」
「そうやろうね。
ほいで、二人とも位牌の中に吸い込まれてから
それっきりたい」
「それっきりですか…。
もう現れなくなったんですね」
「そうやね。
うちん女房とは何十年連れ添うたかの。
俺がこげんな人間やけん、迷惑ばっかけよった。
ばってん
これがホントに最後の別れやった」
西先輩は
いつの間にか飛んできて
頭のまわりをくるくる回る
蜻蛉を振り払い
ヘルメットをかぶった。
そろそろ午後からの仕事の始まりだ。
五六年前の
初夏のある日のおはなし。
(完)