能傍タルツの実話怪談コレクションその十一「現代筑前奇談考」-10月『不思議な大家』
西先輩の話しは止まらない。
「ほいで、
女房が死んで今は
護国神社の稲荷口の前の
アパートで独り暮らし
しょったいな。
ほいだらこの間から
何か臭か臭か思いよったら
白骨死体が見つかりようもん。
俺の部屋は二階やけど
一階の大家の部屋の横のやつ。」
「…いわゆる孤立死ですか?老人の」
「いや、40くらいのまだ若い男。
親は近所に住んどるらしい。」
「…なんかいろいろ訳がありそうですね。
ん?大家さんが隣って
言いませんでしたかね?」
「おお、そうたい。
だから『あんた、隣やろうもん?
臭いも何も気づかんかったな?』聞いたら
『はい、私は何も…』げな」
「…何か凄い話ですね」
「ほいだら白骨死体のそいつがくさ、
何か知らんけど
俺の部屋に毎晩来るように
なったったい」
「はあ?」
「俺しかおらん部屋で
勝手に便所のドアが閉まったり、
影がゆらっとしたりとかは
序の口たい。
俺がテレビ見よったら
目の前のテーブルを手指の
人差し指から順番に叩いて
かららっかららっ音出すたい。」
「『俺、ここにいるんですけど~』
みたいな感じですかね?
爪で音だして」
「そうそう、そげな感じたい」
「見える西さんにアピールしてるのかな」
「まあ、それくらいなら良かった
ばってん、俺がめんどくさいけん
知らん顔しとったら
だんだん騒ぎだしてよ」
「ポルターガイスト?」
「俺が仕事終わって買ってきた
弁当食いよったら
いきなり
後ろから突飛ばしやがった」
「ええ?」
「ほいで、俺もアタマに来てからくさ、
『キサマ!人の家で夜中に騒ぎやがって!
お前の親は近所に住んどるんなら
そっち行かんか!』
言うて怒鳴りちらしたら
それから出なくなったばい」
「親御さんのところに行ったんですかね?」
「そうやないと?
ほいで俺も腹の虫が収まらんけん
下の大家んところ怒鳴り来んでからくさ
『あんた、俺の部屋で
これこれこんなことがあったばい!
俺はこんなん聞いとらんぞ!
このアパート、どげんなっとるとな?』
聞いたったい?」
「そしたら?」
「『いえ、私は何も知りません』げな」
西先輩の話しは
これから佳境に入る。
(続く)