能傍タルツの実話怪談コレクション 「現代筑前奇談考」その31-6月-『そんなもんだろう』
筆者は先々月
旧知の「劇団テンペスト」という
若者たちの演劇グループの
イベントに呼んでいただき
コーナーの一つとして
テンペストの俳優さんたちと
実話怪談を語らせて頂いた。
女優さん二人に
男性も筆者含め二人。
様々な興味深い
体験談が飛び出し
大盛況に終わったのだが
本番終わって
控え室に戻ったあと
女優さんたちは
スイッチが入ってしまったのか
オフレコで
さらに色んな話をしてくれた。
そのうちの一人、Mさんより。
Pホールという
このイベント会場は
テンペスト以外にも
様々な演劇、芝居を志す人々に
利用されているのだが、
数年前、まだ
Mさんがテンペストに参加する前に
所属していた劇団の時のことらしい。
博多区にある
川沿いの某有名商業施設に程近い
このホールは
川に面した裏口から
関係者などは
階段で入るようになっている。
スタッフ専用であるから
灯りも乏しい。
その真っ暗な
階段や踊場で彼女は
袴を身につけた
明らかに古めかしい出で立ちで
ざんぎり頭の男の子を
見たことがあるらしい。
もちろん
演劇の出演者などでもない。
さらに場所は構造上、
一般の七五三等にきた
子供さんなどが
間違って入れるようなつくりでもない。
それ以前にいでたちが
明らかに今時のそれではなく
古い時代のそれに見えたらしい。
その子供は
悪意があるような感じではなく
にこにこと人懐っこく
微笑みながら
Mさんを見つめていたそうだ。
だから
彼女はほんとは
このホールの裏口が
怖くて仕方ないそうだ。
「なぜ、その話を本番でしなかったんですか」
「いや、
これはいくらなんでも
やり過ぎっていうか、
アタマおかしい人だって
聞いた人に
思われるじゃないですか?」
「しかも、別にオチも何にもないし、
ひたすら訳がわからないし
だから止めときました」
なるほど。
こんな風にして
忘れさられ
消えていく怪談も
星の数ほどあるのだろう。
そんなもんだと思う。
(終わり)