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能傍タルツの実話怪談コレクション 「現代筑前奇談考」その二十八 -3月-『バリでかいおばちゃん』“パンクスの語る実話怪談 T君の体験談”
筆者の仲間内のTくんは
現在は建築業を生業とする
古くからの博多パンクスであり
酒とアコーディオンを愛する好漢である。
そんな彼から聞かされた
少年時代の記憶。
今から四十年近く
昔の話である。
福岡市の東部に住まいしていた
Tくんであるが
小学校高学年の時分
千早という場所にあった
曰く付き廃墟に
悪戯仲間数人と
深夜、
探検に行ったことがあるそうだ。
今で言うところの
心霊スポットに肝試し。
まあ、よくありがちな話である。
各人、家から持ち出した
懐中電灯片手に
その建物内に踏み行った
Tくん一行。
すると突然、
今まで彼らが見たこともないような
信じられないくらいに
巨体の女性が
暗闇から踊り出して来た。
その巨大なおばちゃんは
大声でなにやらまくし立て
肝を潰したT君たちは
蜘蛛の子を散らすように
建物から逃げ出した。
やや、あって
パニック状態がおさまり
よくよく考えてみると
いくらなんでも
特撮映画じゃあるまいし
あんな雲をつくような
大きな女がいるわけはない。
確かめに行こうと
Tくんを筆頭に
再び廃墟に侵入した一行であったが
あのでかいおばちゃんはもちろん
いた形跡すら全く無かったそうだ。
現実的に考えてみると
この手の心霊スポットと呼ばれる
廃墟には得てして
その当時はルンペンと呼ばれていたが
いわゆるホームレスや
その「おかあちゃん」たちが
不法に占拠していたりするものだ。
そして
今ではすっかり見なくなったが
数十年前くらいは
博多駅などにも
多くのホームレスたちが生活していた。
そして筆者も目撃したのだが
不摂生に加えて
酸化した脂の廃棄弁当などを
食べ続けるだからだろうか。
そんな彼らの中には
まるでサモアのレスラーよろしく
信じられないくらい
肥満した黒光りする肢体で
横たわっていたりする者がいたりした。
そのおばちゃんは
そんな方の一人ではなかろうか。
それが暗闇の中
懐中電灯に照らされ
小柄な小学生の恐怖感も相まって
実際よりも巨体に見えたのでは
あるまいか。
筆者はTくんに
自分の考えを述べてみたが
「そんなんよう居ましたよね~!
だけど、あれはまた別物」
「外に出てすぐ
子どもこころに
そこいらの疑問を感じて
わりとすぐ引き返したとです。
したら忽然と消えとろうがね~!」
実際にそれが何であったかは
ともかく。
Tくんは50近くなった現在でも
あれはいったい何だったのか
ほんとに不思議でしかたないと
言っていた。
(終わり)