秋桜
罪人は、秋桜が咲く頃必ず花束を手にやって来る。
毎年必ず。
この時期になると訪ねて来る。
そして私はいつもの様に「いらない。」と言いながらドアを閉めてしまう。
罪人は私と目を合わさない。
私も目を見ない。
そこに感情のやり取りはない。
もう私の中に怒りも憎しみも悲しみでさえ残っていない。
それでも罪人はある秋の日に必ず会いに来る。
それは3年、5年、10年…
永遠に続くかの様に思えた。
しかし現実は違っていた。
11年目から、彼はもう私を訪ねて来る事はなかった。
夏が終わり涼しさと刹那さを連れ秋が来ても。
秋桜が咲いてあの日が来ても。
彼と会わなくなり5年が経ち、私は彼の事など忘れ平穏な日々を過ごしていた。
そんな時彼から手紙が届いた。
何度聞いたか分からない繰り返される謝罪の言葉。
秋になると、秋桜が好きだった奥さんの笑顔を思い出しますとか、本当に素敵な人でしたとかどうでもよくて余計に腹が立つ。
そうだよ。僕は…
そんな素敵な愛する妻を目の前で奪われたんだ。
幼なじみで一番の親友でもあるおまえに。
僕達は小さな頃から3人いつも一緒だったな。
飲酒運転なんてする奴じゃなかったのに。
あの日が初めてだって❔
もうそんな事聞かされてもなんの意味もないよ。
彼女は死んだ。もう戻ってこない。
それが全て。それが事実なのだから。
「もう手紙も書きません。会うこともないでしょう。最後に1つ、お願いがあります…」
お願いだと❔ずうずうしい奴❗
私はなんとか怒りを沈め、あいつの手紙を最後まで読もうとした。
「3人でいつも遊んでいた秘密基地に来て下さい。あの日に。」
私は妻の命日に、あいつに会うため仕事を休み飛行機で北海道へ向かった。
きっとこれが最後になるだろう。
あいつに会うのも、故郷へ帰るのも。
懐かしい森を抜け少し歩くとそこには、見たこともないぐらい綺麗な色の、そう彼女が好きだった秋桜が辺り一面咲いていた。
そこにあいつが立っていた。
(昔、ここは原っぱで花など咲いていなかったはず…)
「これ、おまえが❔」
「…」
あいつは何も答えず、かわりに少年の様な純粋な目をして昔みたいにひまわりの様な笑顔を見せた。そしてすぐに照れて下を向いてしまった。
誰かに褒められ、照れくさい時に見せる昔と同じあいつの癖。
思わず僕もつられて笑顔になってしまった。
あんなに憎んでいたはずなのに。
ここに帰って来れて懐かしかった。素直に嬉しかった。
許した訳じゃないのに、それなのにそう思ってしまった。
花じゃない。花束でもない。
君にこの満開の秋桜を、一面の景色を贈る。
だから君も。
もし可能であれば、たまにはここに帰って来ておくれ。
僕はもう一度秋桜をこの目に焼き付けた。
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