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19歳で年鑑詐欺会社の面接に行って学んだこと【仕組みの中に本を置くこと】

 この記事は長いですが、最終的には(笑)Kindle本が(流行や仲間の協力で瞬間的に売れるのではなく)長く安定して売れ続け、ロイヤリティが下がりにくい状況をつくる方法を解説します。

 通常、Kindle出版は、出版直後が最も応援されやすく、結果的に最もロイヤリティが高くなりますが、その後徐々に下がっていきます。何もしなければいずれ売れなくなります。そのため多くの作家さんが、さらなる新刊を出していくことによってロイヤリティを維持しようとします。

 けれども、限界はあるものです。何もしなくてもいつまでも売れ続ける本というのは存在しません。ネタだっていつか切れます。けれども、本の寿命を著者側の努力によって最大限引き延ばすことは可能です。毎月安定した収入を生み出し続ける人(や本)もあります。そうした本は、出版直後の初速を上げることだけに頼りません。

 では、どう考えるのかというと、
 仕組みの中に本を置くことを考えるのです。

人やモノが流れる仕組みの中に本を置きにいく、という考え方をしてみよう

 私がこれを理解した経緯をお話してみようと思います。
 長くなりますので、お時間がある時にでもどうぞ~~!

(人やモノが)流れる仕組みの中に本を置く

 いろいろありまして美大を中退したのが19歳の頃です。
 働かざる者食うべからず。というわけで、初めて就いた仕事は、某学会の学会誌の編集でした。ちなみに勤務先は赤門で有名なT大学。社会常識も何もわかっていない19の女子が、日本最高峰の大学で、全国に数千人の会員を持つ学会の事務局にたったひとり(なんと事務員は私ひとりきりだったんです)。大学教授や院生たちの中で、彼らが書いた難しい論文を〆切にあわせて催促し、集めて回り、編集して、出版社さんに持ち込み本にするという、シュールな状況でした。

 (余談ですが、我ながらよく採用されたな……と思います。おそらく面接で包み隠さず「美大中退しました。理由は、挫折したからです」って言ったのが良かった気がします。面接担当だった教授が身を乗り出して心配してくれて人生相談に乗ってくれたのを覚えています、あれ? 面接だったはずなんですが…ってそんな余談はどうでもいいのですが、何事も嘘をつかず、自己開示するほうが、その時は辛くても、後でいい風が吹いてくる気がします)

 右も左もわからない中、学術系の書籍(得てして高額です)を出版している出版社さんと日々やり取りをしながら制作していました。その過程で知ったのは、全国の名だたる教授が書いた難しい本は(何度も言いますが高いです、当時、わけあってお昼代を300円にまで切り詰めていた私には絶対に買えない本でした)、大学の授業のテキストに指定され、生徒は全員購入しなければならない、という仕組みになっているということでした。

 なるほど……社会的・学術的・歴史的に重要な存在意義があり、でも需要はどうしたって少ない本を、この世界に存在させるために、「そもそもできている仕組み(大学の教育課程)の中に置く」のだと。

悪い仕組みもある

 T大の学会で働きながら、仕事が終わったら、市井の美術団体の夜間デッサン会に通っていました。美術の道は一旦脇に置いておいて、働くことを頑張っていましたが、とはいえ、デッサンの腕前が落ちるのは悔しかったんです。

 色々な画家さんにデッサンや彩色を習いました。美大の教授たちと違って、リアルな美術市場で「売れ続けるための絵」をがっつり描いてきた生え抜きの画家さんたちは、指導も毛色が違いました。美大の教授は、アートはコンセプトが大事だ、と(わけがわからないことを)言いますが、売るために書く画家さんたちは、売れる絵かどうか、誰が買うのかが大事だ、と言いました(こっちのほうが、俗物なわたしにはよっぽどわかりやすい)。デパートの美術品売り場に絵を展示するには。いいギャラリーと繋がるには。どんな絵だったらどのくらい売れるか。どのくらい売れたら、次も継続してお声がかかるか。

 学会での本づくりと、商業美術の世界。両方に足を突っ込んでいたので、両方をかけあわせたような仕事に出会いました。小さな求人チラシには、『美術本を編集しませんか、アートが大好きな方大歓迎』と書いてありました。アルバイトの募集だったので、T大での仕事が終わってから掛け持ちで働けそうです。(実は留学したくて、当時はお金を貯めてました)
 チラシを握りしめて、都内の小さなビルの一室に面接に行きました。結論から言います。そこは詐欺会社でした。美術年鑑詐欺です。(今は流行ってないですからご安心を)

19歳で年鑑詐欺会社に面接しに行く

 当時の年鑑詐欺の仕組みを簡潔に説明します。
 小金持ちで、ちょっとした美術団体に所属していて、半分趣味で絵を描いている自称画家さんたちに、詐欺会社の営業さんが電話をかけます。
 電話では「先生の絵の青が、透き通るような哀しみを表現していて、まるでピカソの青の時代にもひけをとらない云々」とべた褒めし、ぜひ、先生の絵を美術年鑑に納めさせていただきたい、と誘います。
 面接デスク(ふつ~の事務の灰色デスク)の向こう正面に座った社長らしき男性が(多分30代半ばくらいで、ちょっとヤ○ザっぽい)ニヤリと黒い笑みを浮かべながら、営業をかけている男性を、背中越しに親指で指さして聞くんです。

「なあ。あれ、掲載料、いくらだと思う?」
「え……? わ、わかりません」
「あれは、60万だよ。絵1枚で60万。2枚なら120万。で、この美術年鑑ができるわけ。この年鑑に乗ってる画家の数×60万。計算してみ?」
事務机の上には、超豪華な革張りの装丁に金箔文字の、分厚~~~い美術年鑑。
「は、はあ……」よせばいいのに私は聞いちゃったのです。
「この本、売れるんですか……?」

その男性は、大爆笑しました。
「売れるわけねーだろ!こんな本、本屋で見たことある?」
「……ないです(ないから聞いたんじゃん!)」
「こういう本はね、画家が親戚にばらまくわけ。あとは全国の図書館に配る。それでおしまい。年鑑だから、毎年、団体の数だけ作れる。そーいう仕事。どうする?やる?」
「……やめときます……」
「だよなーハハハ」

 面接で本当のことを話してくれるなんて、今思うと、いい人だったんじゃないかと思います……私はなぜか昔から、出会う人の運だけはいいようです。悪い人に出会っても、でもその人自体は、いい人だったりするんですよね、人間って複雑ですから……。(いや、実際のところ、(こんな馬鹿正直な奴、使えねーな)って判断されているだけな気もしますが)

 話を元に戻しましょう。これもまた、人とモノが流れる仕組みの中に本を置いている例ですよね。画家の承認欲求を巧みに操って高額商品を売り込んでいますが。悪い仕組みも世の中には存在します。でもどこからが悪で、どこまでは善なんでしょう? 60万なら悪で、数万だったら善ですか? 

 19歳でそんなことわかるわけないのですが、たったひとつ思ったのは、「せっかく作った本なのに、誰にも見られず図書館の倉庫に眠るだけなんて、本がかわいそうだな。そんな本を作る仕事をしているあの人も、しあわせそうじゃなかったな。あの人が、いつか天職にであえますように」ということでした。

 それに比べて、高校時代に友人たちと作っていたコミケの薄~い本の、熱狂たるや。作る方も、読む方も、みんなしあわせそうでした。たった数百円の本が、関わるみんなを幸せにしていました。


 本って、不思議です。
 本が運んでくれるしあわせは、価格に全く関係がないんですね。

 さてさてようやく、以下本題です。

Kindle出版をするとき、仕組みの中に本を置くことを考えてみてください


 良い例も悪い例もその中間も、色々あるのが世の中です。大事なのは、誰かが決めたルールに縛られて動かないことじゃなくて、やり方はさておき、そのエッセンスに可能性があるなら、柔軟に考えてみることではないでしょうか。

 エッセンスは、人やモノが流れる仕組みの中に本を置くこと。
 大切なことは、関わる人がHAPPYになれること。

 ここを外さないように考えます。

 例えば、ハンドメイドやお料理など各種の趣味実用系の講座や教室です。常に新しい人が(少しずつでも)集まる場所で、常に新しい「レシピ」とそれを作るための「材料」が必要です。新旧のレシピを本にして、お教室や講座の中に組み込むことができます。

 素材を販売する人も、同じように、人やモノが流れる仕組みを持っています。素材を使ってものづくりを始めたい人が集まりますから、初心者向けのレシピや、新商品の使い方などを本にして、販売導線の中に置くことができます。中級者向け、上級者向けと、シリーズ化していくことも可能です。

 自分のお店を持っている人も、同様です。物販業以外にも、美容系などのサービス業でも、そこに人やモノが流れる仕組みがある限り、何らかの知識や知恵をコンテンツ化して(本にして)お客さまに見ていただくことが可能なはずです。

 例えば美容院では、カットやパーマの待ち時間に市販の雑誌などをすすめられますが、どうせおすすめするなら、自分のお店の美容師さんたちが作った本を眺められるようにしておいたらいかがでしょうか。たとえば、自宅での正しいシャンプーや、ヘアケアの方法など。そこから物販に繋げることもできるはず。

 つまり、自分が中心になり人やモノが流れる仕組みを持ち(小さな仕組みでも全然OKです) その流れの中に、コンテンツ(本)を置きに行く、という考え方をします。

 初めから人が集まっているところ、いつも新しい人が入ったり出たりしている場所を探すか、自分で種をまいて作るかして、そこに置くことを想定した本の企画を考えます。

 仕組みの大きさ、業界の大きさに比例して、本の売上も上がり、常に新しく流入してくる人がいるなら、売上は一定のラインを保ち続けます。

 
人やモノが流れる仕組みを持っていない人はどうすればいいのか


 最後に、そうした仕組みを持っていない人はどうしたらいいのかについて考えてみます。

①人の仕組みを借りる
②出版と平行して自分で仕組みをつくる

 ご想像に難くないと思いますが、お金を払って利用する、①が最も難易度が低いです。

 自分はインフルエンサー―ではなくて拡散力が弱い場合、その部分を補ってくれる出版サポートを探します。自分がターゲットとする属性のフォロワーさんを抱えている出版サポートを探しましょう。自分がハンドメイドやお料理レシピを出したいのに、ビジネス系の繋がりを多く持つサポートさんにお願いしても、届けたい人に届けるのは難しくなります。その逆もまた然りです。

 最後に②自分で仕組みをつくる、です。これが最も難易度が高くなります。

 自分が得意とするSNSで、情報発信をします。情報発信をつみ重ね、専門性を確立しながら、さらに深い知識や経験を共有するための非公開コミュニティをコツコツと作っていきます。(オンラインサロンでもメールマガジンでも、LINEオープンチャットでもなんでもOK)

 そのコミュニティを育てつつ、人とモノの流れができてきたら、メンバーにとって必要な本をつくって、コミュニティの中に置きに行くのです。そして引き続きコミュニティを育てていけば、その本は需要が落ちにくくなくなります。

 でもこれ相当大変です。かなりの情熱がないと、コミュニティづくりなんてできません。本づくりに対する溢れんばかりの愛がなくちゃ、無理です。

 それだけの愛がありますか?
 本って不思議です。
 本が運んでくれるしあわせって、やっぱり作り手の愛がバロメーターなのです。


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Contigo編集部| Kindle出版サポート@UIKO
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