【対談】ゼンモンキー荻野×MELT「"やり尽くされた"時代のコントとは?」
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―大学お笑いとの出会いが、荻野さんを見たことだった
宇城:荻野さん、お久しぶりです。
荻野:お久しぶりです。
宇城:荻野さんがゼンモンキーを結成する前、大学で学生お笑いをやっていたころに、僕も同じ「お笑い工房LUDO」というサークルに所属していたんですよね。
荻野:そうですね。ゼンモンキーは3人組なんですけど、僕だけ早稲田のお笑いサークル出身なんです。
宇城:そもそもですが、荻野さんは、僕のことを覚えていらっしゃいますか…?
荻野:めちゃくちゃ覚えてますよ。僕が4年生の5人組で集団コントをやっていた時があったんですけど、ある時舞台袖から一人声が欲しい、ということで、当時1年生の宇城くんにセリフを言ってもらったことがあったよね。
宇城:はい!
荻野:その彼が新しいユニットを立ち上げて、なんか面白そうなことをやってるぞっていうのは知っていて。今回、声をかけてもらってめちゃくちゃ嬉しかったです。こちらこそ覚えていてもらって嬉しい。
宇城:僕は大学お笑いとの出会いそのものが、1年生向けの新勧ライブで荻野さんを拝見したことだったんです。じつは、その時は平田も一緒に来ていました。
荻野:え、二人で!?
平田:はい、新歓に僕もお邪魔してまして。
荻野:あれあれあれ。
宇城:僕がサークルに入ったときには、荻野さんはいくつものコンビやユニットを組まれていて、そのどれもが学生お笑いの大会の決勝戦の常連になっているという、ヒーローのような先輩だったんですが、そのはじめて行ったライブで見た、荻野さんとやまじさんという方が組んでいた「ザザ」というコンビが、衝撃的に面白くて。
荻野:あ、嬉しすぎる。
宇城:大学生のお笑いってこんなにすごいの、と思いました。
荻野:そう、1年生って思うよね。先輩を見て、「やば」ってね。ありがとう。それを覚えてくれてたんだ。
平田:僕と宇城は高校から一緒で、演劇を一緒に作ってはいたんですけど、お笑いの世界は未知のゾーンで。「お笑いサークル」なる場所はどんな感じなんだろうと見に行ったらすごすぎて面食らってしまったんです。
宇城:特に「大学お笑い」という分野が今ほど注目される前だったのもあって、びっくりしたよね。
平田: 僕の方は結局サークルには入らなかったんですけど、ライブはよく見に行かせてもらっていました。
荻野:そこまではあんまりお笑いっぽいことはしていなかったんですか?
宇城:コメディは書いていたんですが、「演劇」の範囲でした。でも、大学のはじめ頃に所属していた劇団が解散してしまって。何をやろうかなって思ったときに、お笑いを、と思ったんです。
荻野:なるほど。
ー「お笑いの人」と「演劇の人」がどこかで分かれる
宇城:ただ、僕もちゃんと大学お笑いをがんばれたのか? というと、あんまりやりきれなかったような気もしているんです。結局サークルには2年間くらいしか行けていなかった。
荻野:それは、ネタの雰囲気的なことなのかな。 ネタの作り方が違ったりした?
宇城:そうですね。荻野さんの5人組ユニットに呼んでいただいた時も、そのセリフが少しドラマチックな雰囲気のセリフで、誰か演技らしい演技ができるやついないか? というので声がかかったんですけど。
荻野:ああ、そうだったね!
宇城:僕が演劇っぽいコントをやっているやつっていう印象だったんですよね。そういう意味で、少し異色に見られていたと思うんです。
荻野:たしかにそうだったね。
宇城:お笑いサークルって、先輩や後輩やスタッフさんたちの前で、本番の前に「ネタ見せ」っていうものをするじゃないですか。
荻野:うん。学生身分なんだけど、やるんですよね。1年生のネタをみんなで見て、4年生がアドバイスする。芸歴的には3~4年の違いなんですけど、けっこう大切なんだよね。
宇城:そう、すごく大切。荻野さんの意見とか、みんな耳をかっぽじって聞いていました。
荻野:(笑)
宇城:そこで、僕が書いていたコントには「ボケ数が少ない」とか、「難しい」というような意見が結構多くて。どうしても自分のやりたいことが、静かな間を使うものとか、ツッコミがなくてじわじわとおかしな状況が展開するとか、演劇的な発想が多かったので、2~5分間に収めるというお笑いのルールが難しかったんです。
荻野:たしかに難しいよね。しかも大学お笑いって、本当にお笑いが好きな人しか入ってないというか、だから逆に、なんですかね、好まれる笑いの傾向が…。
宇城:破壊的というか。
荻野:そう、破壊的なお笑いというか、ちょっとお笑い過激派みたいなところがあって、バカであればあるほど面白いという価値観がある。「なんだこいつ!」って言うしかないような、ツッコめないお笑いみたいな方がみんな好きなんですよね。ロジックがないお笑いの方が好まれる。
宇城:そうですね。
荻野:そういう意味で言うと、じわじわ構築していくお笑いみたいなのは、毛嫌いされがちというか、「うちじゃなくてもいいんじゃない?」みたいな雰囲気になる傾向があるんですよね。だから、演劇と兼サーしてる人もよくいるけど、どこかのタイミングでどっちかに行っちゃうんですよ。演劇っぽい人は演劇に行っちゃうし、お笑いの人はお笑いにハマっていく。
宇城:お笑いサークルでよく、最初の話題として好きな芸人さんを聞かれるじゃないですか。そこでバカリズムさんやラーメンズさん、バナナマンさんを挙げると、ちょっとだけ毛色が違う雰囲気がする。
荻野:みんな好きなのにね。みんな好きなのにそれを好きだっていう人には、ちょっと身構えちゃう傾向があるんだよね。うん、そっちなんだみたいになっちゃう。これはなんか、変えていきたいな。
宇城:でも、荻野さんはずっとネタを書かれていますけれど、ゼンモンキーのネタも学生時代のネタも、荻野さんの書くコントはすごく演劇的ですよね。「踏切」というコントがあるじゃないですか。ちょっとネタバレしてもいいですか?
荻野:全然大丈夫。
宇城:ある男子が踏切越しに告白するというシチュエーションで、 「君のことが、す…す…」と言っていて、決定的な瞬間に電車が通って声がかき消されてしまうんですけど、それを隣で聞いていた通行人の荻野さんが、ぱっと踏切を渡って向こうにいる相手の子に「好きですって」って伝えてきちゃう、というコント。純哉くん、これ、すごくない!?
平田:うん、ものすごく演劇的だなって思う。
荻野:あ、嬉しい。
宇城:スッゴ…って思ってしまって。告白相手の女の子は舞台上に姿を現さないで、伝信役の荻野さんとヤザキさんだけが現れるっていう仕組みとか、もはや「ゴドーを待ちながら」じゃないかって。
平田:僕たちが卒業後にMELTという形で、コントとは銘打っているものの、お笑いのコントとはまた全然違うような枠で笑いを作ることを選んだ一方で、荻野さんはずっと「お笑い」の枠の中で「演劇」的な方向にも境界線をどんどん広げていくような表現をされていて、本当にすごいなっていうのが、僕たちがずっと見ていた印象なんです。
荻野:嬉しいことを言ってくれますね。そっか。でも、僕は宇城くんほどこだわりがなくて。いっぱい笑いが取れた方がお得だからっていう理由で、ボケ数を増やしているんです。僕は、台本を書く上では「短い中にどれくらい笑いどころがあるか」っていう競技をするのが好きなところがあって。
宇城:スポーツみたいな感じですか。
荻野:そうそう。5分とか4分とかの間に、点数をたくさん取るみたいな。そうやってできた台本を見て、「おお」って思うんです。学生の時も、ズレのシステムを最初に紹介したら、あとはもうそれに沿ったボケを羅列するだけで完結するみたいな仕組みのネタをやってて。
宇城:すごかったです。
荻野:うまくできたときは相方と2人で台本を見て、「完璧だね」みたいな。
宇城:美しい。
荻野:そう、美しい。
宇城:ありますよね、コントが美しいって思うこと。
荻野:台本書くとあるよね、そういうの。
―MELTの発明、すごいんじゃない?
荻野:今回MELTを初めて見させてもらって思ったんですけど、めちゃくちゃ新しいことをしていると感じて。 すごいなと思ったのは、一番最初にオープニング演出で、前提条件として「魂」や「前世」が存在するっていう世界観を音楽にのせて紹介するじゃないですか。
宇城:はい。
荻野:僕はそれを適当に、「なんだろうこれ」みたいな感じで眺めていたんですが、するとそれからネタが始まって。新興宗教のシーンが始まった時に、入りの時点はコントらしいっていうか、「こういう宗教的な場面のあるある、あるよね」という、コントっぽいコントだと思ったんです。ただ、普通のコントだったら、ここでめちゃくちゃ現実的なキャラが入ってくると思うんですよ。不思議なオーラの宗教団体っていうシチュエーションが非現実なことだとしたら、そこに例えば宅配便の人が入ってきて、めちゃくちゃ正論言って、その宗教の雰囲気を壊すみたいなことがあると思うんですけど。でも『スネーク・オイル』の場合は、前世鑑定センターっていう、もう1個上の意味わかんない人が入ってくる(笑)。
宇城:たしかにそうですね。
荻野:普通のコントだったら、この時点でお客さん目線で「意味わかんない」ってなっちゃうんですけど、最初に前提条件として言われているから、「前世鑑定センター」っていう存在が現実的なものとして受け入れられるし、コントとして進むっていうのがすごい。 コントって、ちょっと飽和状態というか、あるあるが出尽くしちゃってるところがあるんですけど。
宇城:そうですよね。あるあるの資源をみんなで掘り尽くしている。
荻野:それこそ「踏切」のコントも、踏切越しの告白っていうやり尽くされてるシチュエーションを使いつつ、 そのあるあるの中でどうずらしていくかを工夫していく作業の産物ですよね。でも、MELTみたいに世界観ごと作るってことをしたら、あるあるを自分で作れちゃうんだから無限じゃんって思って。
平田:本当に嬉しいですね…。
荻野:この発明すごいんじゃない?って思いました。
宇城:結局、笑いっていうものの中で、一体何割をあるあるが占めているんでしょうか?
荻野:ほぼ100%なんじゃないかな。
平田:100%!
荻野:本当に受け入れられやすいお笑いに関してはですけど。お笑い芸人が言うことではないかもしれないけど、ハリウットザコシショウさんのようなめちゃくちゃなお笑いでも、結局受け入れられたのは、誰かのモノマネっていうある種あるあるとか前提があったものだと思うので、そう感じますね。
―「バッカでぇ」という笑い
宇城:僕、笑いの質で言うと、含み笑いとか、ニヤニヤ笑いとか、そういう「ワハハ」っていう笑いじゃない笑いが好きなんです。
荻野:あ、なるほどなるほど。
宇城:『スネーク・オイル』中盤の「独裁者の最期」というコントで、追い詰められた独裁者が毒薬を飲んで自決しようとするけど錠剤が飲めなくて、その独裁者と心中をしようとする愛人は毒ヘビが言うことを聞かなくて死ねなくて、その他のキャラクターも同じように自決しようとするけどできなくて…と、みんな自決しようとするのに結果何も起きない、という沈黙の状態が自分でも気に入っていて。これ、ゼンモンキーの「シーシャバー」っていうコントに似ていると思うんです。
荻野:なるほど!
宇城:怪しげなバーで、男がシーシャを吸っていると思ったら、ジュースに息をブクブク吹きこんで遊んでるんですよね。それがすごく馬鹿らしくて、最終的に3人全員でブクブクする。その沈黙の間、ただブクブクという音だけが鳴っている。あの状態を見て、「これ、なんなんだろう…」と思う時間が好きなんです。(笑)
荻野:嬉しいな。「シーシャバー」のあの瞬間は僕も好きなんですけど、やっぱりドッとウケはしないんですよね。
平田:え、そうなんですね。
荻野:お客さんはニヤニヤしてるんだと思う。
宇城:あの笑いはなんなんですかね。なんて言うんだろう。
荻野:たしかになんだろうね。僕は「バッカでぇ」だと思っているけど(笑)
平田:(笑)
荻野:宗教グループに前世鑑定センターの人が来てしまうコントの、教祖の人が前世の生き物の学名を言われているときの顔とかも、めっちゃ面白かった。すごい真面目に、「何言うのぉ?」みたいな顔をしてたのがすごい好きで。ああいうお笑い、いいよね。あれも「バッカでぇ」だと思う。
平田:なるほど。「バッカでぇ」って言うのは、一瞬であるあるだ、とわかるような笑いとは違った、お客さんに心の中でツッコミをしてもらうようなお芝居っていう感じでしょうか。
―「かわいそう」と「かわいい」
宇城:ひとつ荻野さんにお聞きしたいことがあるんです。荻野さんは、ゼンモンキーに限らず、荻野さん自身がかわいそうな役回りになるコントを書くのがとても巧みじゃないですか。
荻野:はい。
宇城:『スネーク・オイル』でも、主人公の岩永望夫が、奥さんが腐ってしまったり、ロボットになってしまったりと、どんどん不条理なシチュエーションに巻き込まれて、かわいそうに見えるっていうのが面白かった部分が大きかった。「かわいそう」ということと、「面白い」ということはどこか近いところがある気がするんですが、荻野さんはどう思いますか?
荻野:なるほど! じつは僕は、かわいいものを作りたいっていう気持ちもちょっとあるんです。
平田:そうなんですね。
荻野:「かわいそう」と「かわいい」の語源が一緒だという話もあるけれど、かわいいものを見ると笑っちゃう、みたいなことと近いのかなと思っていて。この文脈だと僕がかわいいになっちゃうんですけど(笑)
平田:(笑)
荻野:僕がかわいそうなネタ以外にも、体がデカくてロン毛のヤザキがぬいぐるみを持っているネタなんかもあって、やっぱり「かわいい」っていう部分を見せているんですけど、多分その「かわいい」を作る過程で「かわいそう」が出てきて、「かわいそう」で笑っているみたいなことなのかな。
平田:「かわいい」を通ったからこそ、笑える…。笑える「かわいそう」と笑えない「かわいそう」があるじゃないですか。
荻野:そうそうそう!
平田:その中でも「かわいい」を通ることによって、より笑える「かわいそう」側に変わっていくっていう感じなんですかね。
荻野:そんな感じな気がしますね。
宇城:きっと荻野さんなら、たとえばその教祖の役とか、配膳ロボットに翻弄される男の役とか、「かわいそう」な役をものすごくうまくやっていただけますよね…。
荻野:嘘~。やらせてほしいぐらいだな。本当に、今日舞台を見て「出てえ」って思いました。
平田・宇城:ええ!!! ええ!?
宇城:本気にしてしまいますよ!?
荻野:いやいや、もちろんよければですけど! ああ、でも僕が出るとMELTを壊してしまう可能性があるかな。
宇城:絶対そんなことないです! 僕たちは、本当に演劇の世界だけに留まっていたくないと思っているんです。
荻野:そうなんだ。
―お笑いと演劇の境界を超えたい
平田:「演劇界」ではない世界の表現者や、お客さんとどんどん関わっていきたいと思っているんです。だからお笑いの世界をもっとくわしく知った方がいいと思って、僕、去年からお笑いライブの裏方の舞台監督や、配信スタッフとして働きはじめたんです。
荻野:そうなの!? すごいね。
平田:その仕事をやってみて、あらためて「お笑い界」と「演劇界」の違いがなんとなく見えてきました。僕は小さい頃からテレビっ子だったので、芸人さんの「身ひとつ、一発勝負で笑いをとる」っていうあり方にものすごく憧れていたんですが、やっぱり今のライブシーンにも子どもの頃に見ていたものと同じものがありました。芸人さんには芸人さんの美学や色気があって、本当にかっこいい。それに、芸人さんのライブに集まるお客さんの「熱」みたいなものもすごくうらやましく感じる。一方で、演劇のお客さんだからこそじわじわと時間をかける笑いにもついてきてもらえるっていう、「一緒に共有しているスピード感」の違いもはっきり感じています。そんななかで、両方の世界の、さらに言えばもっとアートやHIPHOPなどの人がまざっていくようなことができたらいいなって考えているんです。せっかく自分で団体を運営しているんだから。
荻野:うんうん。面白い。
平田:これも、ダウンタウンの「ごっつええ感じ」やモンティ・パイソン、シティボーイズを見て、そういうのがやりたい! と思った結果、長い尺が必要だと思って演劇サイドからはじめてきたんですが、こうして、お笑いの世界の第一線で活躍している方に見て頂けて、本当にありがたかったです。今後お笑いの方々ともご一緒させていただける機会を、僕らがもっと頑張って作れたら、それ以上幸せなことはないです。
宇城:そうですね。平田はプロデューサー・演出家として公演の形そのもので「お笑い」「演劇」+アルファのミックスを目指していくけれど、僕も作家として、作品の内容で目指していきたいなと思います。それこそ、「かわいそう」って、笑いにもつながるし、ストーリーを展開することにもつながる大事な感覚な気がしています。
荻野:楽しみです。なにか一緒にやれたらいいね。
―おわりに
今回は、お笑いと演劇の境界線を探りながら、これからのコントの可能性についてお話することができました。
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