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「世界のジーコ」と「7人の侍」

リモートワーク14日目。

あたりまえのことだけど、ひとりサッカーの試合はできない。通常の試合なら1チーム11人、フットサルだとしても最低5人集まらないとそもそも試合にならないし、その上集団の中で、フォワードにバックス、さらにはゴールキーパーとそれぞれ特性の違うスキルが求められる。その上で、チームを強くするためには、ひとりひとりがそのチームで設定した「共通の戦術」の理解を究極まで深めていく必要がある。どれだけボール扱いが上手なプレイヤーがいても常に相手を全員抜き去ることは不可能だし、革新的な戦術を開発したコーチがいたとしてもそれを実行できなければ偶然のパス以外は通らない。

これって、雑誌作りとよく似ている。雑誌(書籍やwebメディアも同じ)もひとりじゃ作れない。発行責任者に、編集者、ライターにカメラマン、イラストレーター、スタイリストにヘアメイク、モデルにアートディレクター、デザイナー、DTP、印刷会社に広告営業、販売営業。さらには、取材に対応していただく出演者やお店の方に加えて、本を販売していただいている書店の方々。ざっと挙げてみただけでも、通常の雑誌ビジネスの「試合」に出るためには、これだけの違ったスキルを持つプロが必要なのだ。

これがサッカーのクラブチームなら、日々メンバーが集まってハードな練習を繰り返すことで、おのずと戦術理解度は少しずつ深まっていくものだ。ただ、雑誌づくりの場合は少し違っているのが、制作に参加するエキスパートが、その号ごとのテーマとの親和性によって毎回違ったチームを構成しているということ。同じゴールと目的を達成するために短期間で集められた「7人の侍」のようなイメージだ。

サッカーの場合最も重要なのは戦術を設計し、その戦術を選手に刷り込む監督(リーダー的なプレイヤーの場合もある)の指導力を含めた「人間力」だったりするのだが、雑誌の場合、最も重要になるのは「コンセプト」そして「伝えたいこと」をどれだけ強く、分かりやすいものにできるかだと思う。何度も集まって戦術理解度を深められない代わりに、関わるすべての人がどこから見ても一瞬で理解できる「強い旗印」を掲げ、「コンセプト(目的)」と「伝えたいこと(ゴール)」を共有するのが、成功の鍵となるのだ。

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そして、そのコンセプトとゴール設定を「本気で考え抜く」という作業が、実は一番難しい。特に今のような状況でリモートでの仕事が増え、関わる人と直接会う機会が減れば減るほど、さらにそうした「強い旗印」を研ぎ澄ませることが必要なんだと思う。僕たちが運営するメディアのコンセプトも、この機会にもう一度チューニング、もしくはオーバーホールしてみよう。

昨日の夜、Jリーグ発足直前、住友金属という弱小チームに世界のスタープレーヤーだったジーコが加入した際のドキュメンタリーを見ながら、ぼんやりとそんなことを感じたのでした。

最後に、以前「小さな会社のメディアの作り方」という記事で書いたことを紹介してみたい。

考えに考え抜いて「伝えたいこと」はなんなのか、ということにたどり着くこと。さらにその「伝えたいこと」は、知りたい人が本当にいる内容なのかと自問自答すること。そうしてできあがったコンセプトを、関わってくれる人々に、まっすぐに伝えること。
「面白いことをしたい、かっこいいことをしたい」。
それは自分がやりたいこと、実現したい欲望であって、
「伝えたいこと・伝えるべきこと」とは違います。
メディアを通して「伝えたいこと」を徹底的に掘り下げること。
そして伝えるべきことをできる限り端的な形にして、関わるすべての人に「伝える努力」をすること。
そうすることで、コンセプトに共感する人々の輪が広がって、ネットワークに属するあらゆる人々が、同じ目的のためにスキルや職能を最大限発揮しようと本気になってくれる。
自分ひとりではなく、関わる人すべてがコンセプトに共感してこそ、誰かの心を動かすメディアができるんだと、CONTAINER以後、たくさんの仕事を通してようやく理解できました。
たくさんの人々がメディア作りに関わっているという事実を常にイメージしながら、そのすべての人に真摯に、何度でもコンセプト「伝える」こと。メディアづくりとはスキルや経験ではなく、結局のところ、情熱、伝達力、共感力、そしてポジティブな行動力、がすべてなのです。

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