國分俊史氏 vs デロイト裁判 和解へ
業界を震撼させたデロイトと元役員 國分俊史(国分俊史)氏との裁判が和解していたとの情報を掴んだ。
しかもその和解の裏側には、デロイト側が裁判で提出した証拠が偽造されていた可能性を示す、中央大学法科大学院教授の安念潤司氏により提出された意見書が大きく関わっている。
本記事は、我々の身に明日にでも降り掛かり得る「引き抜き訴訟」について、通称「デロイト裁判」の顛末を、(当方が記者でもあれば当事者達に確認することもできたのだが。。。)あくまでも公開情報をもとに振り返りながら解説するものである。
話の全体像を理解するため、まずは以下の記事を参照することをお勧めする。
初めに、ダイヤモンドが連載するシリーズ『デロイト内部崩壊』は、前社長の近藤氏と國分氏のEYへの移籍が引き金となったことはまず間違いない。
近藤氏の多様な人材を的確に戦力化する経営手腕と、戦略ファーム人材が皆無に近い状態だったデロイトに2012 年に國分氏がATカーニーから参画してルール形成や社会課題と言えばデロイトという圧倒的に差別化されたブランドポジョンを創ったのが飛躍的な成長の原動力であったことは、当方が身を置くサーチファームの間では有名な話だった。
國分氏がデロイトに移籍して戦略ファームでは出来ない新しいコンサルティングを手がけたことは、戦略ファームからBIG4への移籍が、いわゆる「ブランド落ち」ではなく、「やりたいことの追求」という新しい価値軸を作った。結果、2013年以降、BIG4への戦略ファーム人材の移籍人数が増大して来たと当方には映っている。
https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/jp/Documents/strategy/cbs/jp-cbs-water-crisis.pdf
デロイトのブランド化をリードして社内外の特に若手から人気を得ていた國分氏との近藤氏の退社は、デロイトに人材流出への危機感を一気に高めさせたと聞く。その結果、後任の社長の佐瀬氏は、メンバーファーストという社員に媚びる戦略方針を打ち出し、これが今日の崩壊を招く結果となったと自ら吐露している。
これはつまり、近藤氏と國分氏はデロイトの戦略に市場重視から社内重視へと方向性を与えたと言える。
デロイトが起こした國分氏に対する訴訟は、より社内重視、社員に媚びる経営をデロイトに加速させたと、サーチファームの間では話題が絶えなかった。
驚いたのは一審判決を受け、控訴審を起こし、國分氏が和解を勝ち取ったことである。
サーチファーム業界ではデロイト裁判の行方を追うものは多く、当方もよくよく調べてみればダイヤモンドの以下の記事に和解についての記載があった。(当該箇所は有料部分)
この記事によれば2023年春に和解が成立していたようだ。
デロイト社内では和解など絶対あり得ないと関係者が豪語していた。
この発言は当方の耳で確認したものである。
だが、裁判当時、当方を含め、裁判を傍聴した者が最も驚いたのは、國分氏の控訴理由が、一審判決の損害賠償の根拠とされた執行役員規程が捏造された可能性があり、國分氏が在籍中にそのような条項はなく、生え抜きの近藤氏もそんな決議をした記憶がないという主張があったことである。
この辺りの事情はSakisiruの記事で当方も目にした。
加えて、國分氏は中央大学法科大学院教授の安念潤司氏と共に、電子証拠の取り扱いに関する意見書も提出したそうだ。
控訴審では裁判長がデロイトに対し、非常に強い姿勢で和解勧試したという噂も耳にする。
控訴審でデロイトが和解に応じたということは、デロイトが判決に持ち込むことは不利だと認識したからと推測するのが自然だろう。
このことは相当に当方が調べて、ようやく以下の論文を発見したことにより知り得た。
論文の冒頭部分に記載がある。
國分氏は和解について、(当然詳細は口外禁止なのだろうが)「大変満足している」としか回答をしていないが、一審判決から和解に持ち込んだ経緯を考えれば、相当な巻き返しをした自信を伺わせる発言だ。
國分氏は現在、電子証拠の捏造を防ぐルール形成に取り組んでいるという。
この辺りは流石という言葉しかない。
安念教授の論文を読み進めると、今後の民法改正にも注目したいところだ。
また、最後に、当方がデロイト事件を調べた中で読者の皆さんにも教訓としてほしいことがある。
引き抜き訴訟については、退職後に規程に書かれていたといって在職中の研修費の払い戻しを求められるなど、中小企業では泣き寝入りするケースが多いと聞く。
自身の身を守るために、退職前に全ての規程を印刷して持参しておくことが、今の民事訴訟法では不可欠だ。
また、訴訟になった際には、会社側から捏造した証拠を提示される可能性もあるため、デロイト裁判での出来事を頭の片隅にでも置いておくことが重要だろう。