シンガポール珍道中8|因果応報
シンガポール珍道中8|因果応報
シンガポール三日目、支店の社員が観光案内してくれるというが、二人で気儘に遊ぶ方が楽しいに決まっている。(笑)
無下に断ることもできないので迎えに来た社員とラウンジでお茶を飲みながら話すことにしました。
「私がいるのでお気遣いなさらないでください。」と彼女が言った。
「ご厚意に感謝します。何から何までご配慮頂き本当にありがとうございます。お気持ちだけありがたく頂戴すると支店長にお伝えください。彼女がいろいろ計画してるので悪く思わないでください。」と私が言い足した。
「こちらこそ気が回らず申し訳ありません。私から上の者に伝えておきます。夕方もう一度此処でお会いさせていただきます。」
「一つだけ注意してください。輪タクには絶対に乗らないでください。マフィア関係が多く、観光客を狙ったボッタくりや脅迫、窃盗事件が多発していますから絶対に乗らないでください。」と社員が言った。
機転の利く社員だったので「それなら〇〇時に此処でお会いしましょう。輪タクのことは分かりました。」と言って別れた。
「いちいち駐車するのが面倒だから車置いて行こうか!」と彼女、
「好きなようにしていいよ。」と私、
これが二人の輪タク事件遭難の因でした。(笑)
彼女の案内で、あっちこっち此所彼所 。見物したりショッピングしたり。
さあ、ホテルを出発してから2時間近く経っていただろうか。冷たい物を飲みに入った店の入り口に5、6台の輪タクが駐輪して車夫たちが屯していました。
買い物する度に手提げ袋が3つ4つと増えた。荷物が邪魔だった。一休みしながらふと社員の言葉を思い出した。
「輪タクには絶対に乗らないでください!!」
私の好奇心が再び目を覚ました。(笑)
「輪タクってそんなに事件起こしてるの?」
「私は乗ったことないから知らないけど聞いたことはある。」
「ふーん、荷物があるから乗ろうか?」
「えっ!だってマフィアでしょ?」
「そうかな?そんな風に見えないけど、、乗ったら分かるから一度乗ってみない?」
「そうだね!私一回も乗ったことないの。乗ろうか!」
本当にピッタリ気が合う二人だった。
仲良く因果応報のレールに乗ってしまいました。(笑)
マレー系の車夫と目が合った。
「いくらだ?」と聞くと車夫がビニールでカバーした粗末な手書きの料金表を出した。詳細には覚えていませんが、時間制で1時間1,000日本円ぐらいだったと思います。マレー系の車夫とインド系の車夫の輪タクに乗ることにしました。
現在は、トライショー(Trishaw)の名称で周遊コースが決まっていて、浅草名物になった人力車と同じように、シンガポールの観光用に1,000台ほどが営業しています。現在は写真のようにサイド仕様2人乗りの立派な車もありますが、40年前は全部1人乗りで中国のリクショー(Rickshaw)と同じで下のモノクロ写真のような車でした。リクショーの語源は日本の人力車の略語、力車 (りきしゃ)です。
ブランド店で時計を買って、誰かに頼まれていたクロコダイルのバッグを買うのにワニ園へ行って、タイガーパーク?だったかへ行って、植物園へ行って、、、詳細はほとんど忘れましたが、荷物を置いて好きな所で降りて行ける輪タクは狭い範囲の観光にはとっても便利だったのを覚えています。
荷物の心配をしながらも結局3時間ほど何事も無くホテルへ帰る時間になりました。
「悪く言うけれど良い人たちだよ。」
「本当ね。悪い人ばかりじゃないんだね。」
そう言いながら、所々で冷たい飲み物やスナックを車夫に差し上げる、なんでも取り柄が良いお人好し二人であった。(笑)
二人の車夫は、そのたびに嬉しそうに礼を言うので私たちも気分が良かった。。。その時までは、、、(笑)
帰途に就いた。
40年前のラッフルズホテルは敷地の東西南北を高い白塀で囲まれていました。正門には英国式の白ズボン赤ジャケット白帽の衛兵が門の左右に立っていました。正面から見れば立派な塀と奥に建つ壮観な植民地様式の本館の景色ですが反対側の裏塀の先には貧困階層が生活を営むスラム街が広がっていました。輪タクを生業にしていた車夫のほとんどはそのスラム街の住人でした。
さて、デートを堪能した二人を乗せた輪タクはホテルのすぐ近くまで帰ってきました。正門へ行くと思いきや塀沿いに裏塀の真ん中辺り、つまり、スラム街の入り口で停まりました。
因果応報、輪タクの車夫との縁がもたらした運命でした。(笑)
インド系の車夫が私に近寄ってきて一人約1万日本円、二人で2万日本円払えと脅しました。
車が停まるのを待っていたかのように、4、5人の怪しい男たちがどこからともなく私たちの方へ歩いて来ました。頭にターバンを巻いた大柄のリーダーらしきインド系の男と目つきの悪いマレー系の男の二人は、客を脅すのが目的であろう大きな肉切り包丁のような刃物を持って私たちを睨みつけていました。
刃物を持った二人以外は車夫も残りの男たちも本気ではかかってこないと分かりました。
私が、脅してきたインド系の車夫に「約束以上は払わない」と断ると、怯えながら私の背後にいた彼女の手提げ袋を車夫が無理矢理奪い取ろうとしました。
彼女の悲鳴で咄嗟に体が反応して男を彼女から引き離しながら急所を蹴り上げました。それを見た目つきの悪い男が包丁を持って近づいてきたので包丁を奪って殴り倒しながらターバンの男を蹴り倒しました。
それを見た他の男たちは慌ててその場から逃げました。車を引いて逃げようとするマレー系の車夫を捕まえて約束のお金に少し足して渡しました。男はマスターマスターと怯えて礼を言いながら車を引いてスラムの方へ消えました。
倒れて呻いているインド系の車夫にも少し多めにお金を渡しました。
本気でやってしまったので包丁の男たちはまだ倒れて呻いていました。(笑)
一瞬の出来事に彼女は手提げ袋を持ったまま固まって呆然と立ち尽くしていました。
「やっぱり言われたとおりだったね。これは内緒。」と私が言うと固まったまま「うんうん」と頷いていました。(笑)
良くも悪くも、正しいことも間違ったことも、40年前のシンガポールには人間くさい喜怒哀楽があった。人間はAIではない。賢くもあり愚かでもある。それが人間です。私は人間です。
因果応報 浮いたり沈んだり 沈んだり浮いたり 人生は面白い (笑)